同じ頃、一方のミロは双児宮にいた。
ミロもミロでここ最近やはりアイオリアと同じようなことを悩んでおり、どうしたものかと内心で苦慮していた。
どちらかといえば積極的で即断即決即実行型のミロも、そういう面に於いては自分と正反対であるアイオリアの気質を考えるとなかなか積極的な行動も起こせずにいるのである。
進展を見せぬままの自分たちの関係に多少の苛立ちを覚えつつも、ミロにしては珍しくここまで根気強くアイオリアが何かしらの行動を起こしてくれるのを待っていたのだが、やはりアイオリアの方にはまったくそんな気配が見受けられず、いい加減埒があかないと遂に業を煮やして自ら行動を起こす決意を固めたところであった。
とはいえ、実のところミロにも男性経験はない。そのためどうしたらいいのかが根本的にわからず、更に思い悩んだ末にミロは頼りがいがありそうな人生の先輩の元へこうして相談に訪れていたのであった。
アイオリアがまったく同じタイミングで、同じような相談をシュラに持ちかけているとはこれっぽっちも知らずに――。

ミロが相談相手に選んだのは、この宮の双子の主の片割れであるカノンだった。
ミロは幼少の頃よりカノンの双子の兄であるサガを実兄のように慕ってきたが、さすがにこんなことはサガには相談できなかった。要はアイオリアがアイオロスを相談相手に選ばなかったのと同じような理由である。
それに何となくではあるが、この手のことはむしろサガよりもカノンの方が的確なアドバイスをくれそうな気がして、ミロは相談相手にカノンを選んだのだが、実際その選択はある意味では正解だった。
何故ならカノンは、その方面に於いては百戦錬磨の強者だったからである。
もちろんその事実をミロは知らないが、どうやらミロは野生の勘でそれを察知していたらしい。
幸いこの日双児宮にサガは不在で、相談があるとやってきたミロをリビングに通したカノンは、その内容を聞いて開口一番に大きな声を張り上げた。

「はぁ〜? 何だよお前達、まだだったの!?」

無論カノンはまさかちょうど同じ頃合いに磨羯宮でも同じような相談が持ち込まれ、そこの主が今の自分と全く同じ台詞をはいていたことなど知る由もない。

「そんなに驚かなくてもいいだろ」

思わず憤然として、ミロが口を尖らせた。

「あ〜、まぁ相手があのアイオリアじゃなぁ……無理もないと言えば無理もないか……」

普通だったらちょっと考えづらいことだが、ミロの相手はあの生真面目で実直で純情なアイオリアだ。
こういうことがあってもおかしくはないというよりも、むしろアイオリアらしいと言えるかも知れなかった。

「でもそんな状態が三ヶ月も続いてるんじゃ、お前がいい加減痺れを切らすのも無理ないよなぁ」

カノンは正面のミロの顔を覗き込むようにしながら、意味あり気に微笑んだ。

「別に痺れを切らしてるってわけじゃ……」

「ないわけないよな。でなきゃオレんとこにこんなこと相談しに来たりしないだろ?」

見事に図星をつかれ、ミロは返答に窮した。

「まぁいいさ、それは別におかしいことじゃない、むしろ当たり前のことだからな。愛してるんだもんな、アイオリアのこと。そりゃあいつに抱かれたいわな」

からかうように言って、カノンはくすくすと笑った。
バカにされてるようでミロはまたムッと来たが、相談に来た手前ここで切れるわけにはいかず、沈黙で応じるしかなかった。

「ミロ、最初に1つ聞くが……」

「何?」

「お前、男と寝たことあんの?」

カノンの問いに、ミロは無言でふるふると首を左右に振った。

「じゃ、アイオリアが初めての相手になるのか?」

今度はミロはこくん、と首を縦に振った。

「あちゃぁ〜……てことは初めて同士か。大丈夫か? 上手くできるのか? お前等」

「だからっ! ……どうすればいいのかこうして相談に来たんじゃないか」

最後は消え入りそうな声で呟いたミロだったが、もちろんカノンはそれを聞き逃したりはしなかった。

「まぁ相談に乗るのは吝かではないがな、何なら実演して教えてやろうか?」

「……へ?」

「だから、オレが手取り足取りお前の身体に直接教えてやろうか? って言ってんの。口で説明するよりそっちの方が早いだろう?」

一瞬???となったミロだったが、ようやくカノンの言っていることを理解すると、次の瞬間には金魚のように口をパクパクさせながら顔色を青くしたり赤くしたり忙しく変化させた。
あまりに目紛しくミロの顔色が変わるので、カノンは吹き出すのを堪えるのに苦労した。

「あっ……いや、実演はいい、遠慮しとく。だってそんなことしたら……」

「アイオリアに悪いか?」

カノンが言うと、ミロはまたこくんと頷いた。
からかわれていることにも気付かず真面目に答えるミロに、カノンはやれやれと内心で肩を竦めた。
そんなところが可愛いとカノンでさえも思わずにはいられないのだから、アイオリアがどれほどまでにミロを可愛いと思っているのか想像に難くない。

「ま、いいや。それじゃ迷える子蠍ちゃんに、お兄さんが愛の手を差し伸べてやりますかね?」

あからさまに子供扱いしたようなカノンの物言いに三たびムッとしてミロはカノンを軽く睨んだが、カノンはまったく気にした風も見せずにおもむろに本題に突入した。

「いいか、今度アイオリアと二人きりになったらさり気なくお前の方からアイオリアに抱きつけ。何も言わなくていいから、とにかくしっかり抱きついてやれ」

「えっ?」

ミロのその短い問い返しは、「そんなことでいいの?」と聞き返しているようにも「そんなことするの?」と聞き返しているようにも聞こえる。
そんなミロに、カノンは苦笑混じりの微笑を返した。

「心配すんな、アイオリアを『その気』にさせるには、それだけで十分だ。多分あいつはそのままお前を押し倒してくるだろうよ」

「えっ……?」

目をきょとんと丸めてカノンを見つめ返してくるミロに、カノンは今度ははっきりとした苦笑を浮べて先を続けた。

「もし抱きつかれたアイオリアがそのまま固まっちまったら、お前がアイオリアを誘導しろ。アイオリアの身体を引っ張って、少々強引にでもその体勢に持ちこむんだよ。オレの言ってることわかるか?」

「う、うん」

その体勢とはつまり、自分が誘導する形でアイオリアに組み敷かれろと言うことであろうとミロは理解した。

「その後はアイオリアの唇とか頬とか額とかにキスしたり、適当なところ触ったりしてやれ。そうすりゃ双方の身体が反応し始めるから」

「そんなことをオレがやるの? いきなり!?」

戸惑ったように困ったように眉を寄せ、ミロがカノンに聞き返す。

「アイオリアが行動起こしてこないんじゃ、お前の方から起こすしかないだろう。お前だってそう思ったから、わざわざオレんとこに相談しに来たんだろうが」

「それはそうだけど、でもそれじゃあまりに唐突っつーか不自然じゃない?」

「しょーがねえだろう、お前等にムード作りなんて出来っこないし。もうノリと勢いでいくっきゃねえんだから」

あんまりな言われようだが、否定しきれないところが悲しかった。

「とにかくいいか、その体勢にまで持ってったらな……」

「持ってったら?」

「あとはとにかく勃たせろ!」

「はぁ?」

単刀直入すぎるカノンの言葉に、ミロは反射的に素っ頓狂な声を上げた。

「だから勃たせるんだよ! アイオリアのを!」

今一つ反応の鈍いミロに、少し苛立ったようにカノンが言う。
更に直接的かつ露骨になったカノンの物言いに、ミロの顔が再びカッと熱を帯びる。

「扱いて、銜えて、舐めて、しっかり勃たせろよ。中途半端に勃たせた程度じゃとてもじゃないが入らないぞ。よしんば入ったとしても、半分挿れるのがやっとだ。それじゃお互いツライだけだからな」

「は、はぁ……」

「同じ男なんだから、勃たせ方くらいはわかるだろ」

「そりゃ……まぁ……」

曖昧に言葉を濁しながらミロは頷いた。

「いいか、あの鈍臭いアイオリアじゃ自分から積極的に動いてなんかくれないからな。お前のほうがしっかりしなきゃ、いつまで経ってもお子様な関係から抜け出せないぞ。絶対にマグロになっちゃダメだからな、そのことを肝に銘じとけよ」

「う……う、うん……」

「それから初めての時は痛いからな。覚悟しとけ」

「えっ! い、痛いのっ!?」

びっくりしたようにミロは大きな薄青色の瞳を更に大きく見開いた。

「当たり前だ。ただまぁ、回数重ねりゃ慣れて快(よ)くなるから心配いらん。あとな、初めてのときに正上位ってのは実は一番痛いから避けた方がいいぞ」

「……正上位を避けろったって、それじゃどうすれば……」

「お前が上に乗りゃいいんだよ」

「はいぃぃ〜〜〜!?!?」

カノンは事も無げにあっさりと言ったが、反してミロの方は驚きのあまり大きな声を張り上げていた。
その声に五月蝿そうに顔をしかめた後、カノンはミロの物分かりの悪さ(今回に関しては思った以上の純情さ)に呆れながらその先を続けた。

「だからお前がアイオリアの上に乗るの! そっちの方が正上位より遥かに楽に入るから、お前だけじゃなくアイオリアも楽なんだよ」

「う……う、うん…」

アイオリアも楽だからと言われると、ミロも真剣に考えざるを得なかった。
別に出来ないことはないのだが、あの純情一途のアイオリアを相手にそんなことをしたら、事が済んだ後自分がどんな風に思われるだろうと考えると、怖くて気が進まない部分もあるのは事実だった。
だがそんなミロの胸の裡など知ってか知らずか、カノンは容赦なくどんどんと話を前に進めて行った。

「あ〜、それからなぁ、挿れる前にはちゃんと濡らしてもらえよ」

「は?」

「だから、濡らしてもらえっつってんの! 女と違って自力じゃ濡れねえんだから、濡らしてもらわなきゃ入るもんも入らんぞ」

「濡らすって、どうやって?」

「一番手っ取り早いのは、唾液かアイオリアかお前のモノなんだが……あのアイオリアが初めてでそこまで頭が回るかどうか……」

「…………」

無理だろうな、と、この時ミロとカノンは同時に思っていた。

「アテネのアダルトショップに行きゃ、それ専用のジェルとかいっぱい売ってるぞ。お前がそれ買ってきといて、慣れるまで使ってれば?」

「……そんなあからさまなの、やだよ」

ある意味至極真当な提案をカノンはしたのだが、ミロは即座にそれを却下した。

「ん〜それじゃオリーブオイルでも使えば? 食べ物だから人体に害はないし、結構いいぞあれ」

「キッチン以外にオリーブオイルが置いてあったら思いっきり不自然じゃん! わざわざ取りに行くのも間抜けだしさ」

「お前、いちいちうるさいね……」

結構細かいことに拘るミロに、カノンはややうんざりしたように眉を寄せた。

「それじゃ化粧用のオリーブオイルでも買っとけば?」

「化粧用のオリーブオイル?」

「そうだ、肌につける用のやつな。あれなら薬局でもスーパーでも売ってるし、男でも女でも普通にスキンケアで使う物だから買いやすいぞ。家の中のどこにあってもそう不自然じゃないしな」

「そ、そうなの?」

ああ、とカノンが頷くと、ミロの表情が一気に明るくなった。

「今から行って買って来れば?」

「うん! そうする! ありがとう、カノン」

「頑張れよ〜! 無事にできたらちゃんと報告にくるんだぞ〜」

リビングを飛びだしていくミロの背中に、カノンはエールを送りながら手を振った。



それから十数分後。
アテネ市内のドラッグストアのオリーブオイルの棚の前で、アイオリアとミロが見事に鉢合わせをしたことは言うまでもない。


END


2014.2.10改訂

リアミロの微エロ小ネタです。
ミロ誕小説を書いた時、勢いで妄想して台詞だけ書き留めてあったものに、ちょっと手を加えてみました。
夢見過ぎというか、「おいおい、二人とも小学生か?」ってなくらい純情すぎるリアとミロですが、聖森の中ではこんな二人もアリだったりします。
オチはお約束中のお約束ですが、この後、盛り上がって遂に本願達成したか、はたまた気まずくなってまたもその機会を逃したか、結果は読んで下さった皆様のご想像に委ねさせていただきますね(笑)。

ついでと言ってはなんですが、別バージョンのオマケも加えておきます。
一発というか一言に近いifネタですが、見てやってもいいよとおっしゃってくださる方は、こちらをクリックしてください(別窓開きます)。