◆だいしゅきホールド
この日仲良く出勤したアイオリアとミロは、執務室に入るなり明らかに不機嫌な様子のアイオロスとそれをガン無視して何食わぬ顔で仕事をしているカノンという珍妙な光景を目にし、思わず顔を見合わせて小首を傾げた。
「兄さん、おはよ……」
「アイオロス、おはよ……」
どこか恐る恐ると言った様子で二人がそれぞれアイオロスに声をかけると、アイオロスは億劫そうに二人を一瞥して「ああ……」と短く返答したきり、仏頂面でまた唇を真一文字に引き結んだ。
アイオリアとミロはこの時心の中で異口同音に「うっわ、何かわかんないけどご機嫌最悪?」と呟いていたがそれは口には出さず、
「兄さんあの、どうしたの?」
弟のアイオリアが遠慮がちにその理由をアイオロスに尋ねた。
「どうしたって何が?」
「いやその、あんまり機嫌がよくなさそうだから……何かあったのかなって思って」
「別に」
あんまりどころか思いっきり不機嫌全開で答えにならない答えを短く返し、アイオロスはまた口を引き結んだ。
アイオリアとミロが再び顔を見合わせ、首を傾げ合う。
「ああ、放っておけ。アイオロスくん只今絶賛拗ねて不貞腐れモード中なだけだから」
そんな二人の様子を一瞥したカノンが、書類を捲る手を止めず面倒臭そうに答えてやった。
「は?」
「拗ねて不貞腐れモード? 何で?」
ミロが目を丸めて聞き返すとカノンはようやく書類を捲る手を止め、ミロとアイオリアの方へ顔を向けた。
「こいつが拗ねて不貞腐れる理由なんて1つしかないだろう?」
「ああ……」
「……サガね」
絶妙のコンビネーションで答えたアイオリアとミロに、カノンは音をたてずに短い拍手を送った。
つまり「正解」と言うことである。
「それじゃ何? アイオロスはサガとケンカでもして拗ねてるってこと?」
ミロが更にカノンに問い返すとカノンは「いや、ケンカはしてないが……」と前置きしてから言葉を繋げた。
「今星矢が双児宮(ウチ)にいるの知ってるだろ?」
アイオリアとミロが同時に頷きを返したのを見て、カノンは先を続けた。
「星矢が来るとサガがほぼあいつにかかりっきりになる。で、必然的にサガに構ってもらえないアイオロスくんのご機嫌が急降下する、簡単に言うとそういうことだ」
「つまりそれって……」
「……兄さんが星矢にヤキモチを妬いてるってこと」
ミロの呟きに脱力感満載で答えたのはアイオリアである。
カノンが「ご名答!」と茶化すように言って、また音を立てずに拍手を送った。
「ヤキモチ……星矢に……え? 星矢って何歳だっけ?」
「13歳」
「13歳……」
子供じゃん……とまたミロが呆れたように呟いた横で、アイオリアが思わず頭を抱える。
27歳の兄が13歳の子供相手にヤキモチを妬いている姿を目の当たりにさせられては、弟としては居たたまれないことこの上ない。
「星矢はサガに懐きまくってるし、サガはサガで星矢が可愛くてデレッデレだしで、ある意味あの二人も両思いみたいなもんだからな。アイオロスくんとしてはそれも面白くないんだろ」
「だからって13歳の子供にヤキモチとか……」
情けないにも程がある……という言葉だけは何とか飲み込みはしたが、呆れて物も言えないとは正にこういうことを言うのだろうなとアイオリアはしみじみ思った。
「ヤキモチなんか妬いてない!」
ここでアイオロスが相変わらず不機嫌全開の声で横槍を入れた。
いや誰がどこからどう見てもヤキモチやいてるとしか思えないだろとは三人とも思ったものの、ここでも思うだけに止めて口には出さなかった。
「ヤキモチかどうかはとりあえず置いておくとして、星矢の奴、来る度必ずサガに"だいしゅきホールド"かますからなぁ。アイオロスくん的にはそれもまた面白くないらしい。なっ?」
明らかにからかっているのが丸わかりの薄笑いを浮かべながら、カノンがわざとらしくアイオロスに同意を求める。
アイオロスはまた「別に!」とだけ吐き捨てて、ぷいっとそっぽを向いた。
それはつまりカノンの言ったことを肯定したも同然なわけだが、アイオロス自身にその自覚は全くなかった。
やれやれ本当に子供かよ……とカノンが思わず肩を竦めかけたその時、
「だい、しゅ? ……ホ、ルド? え? それ何?」
誰ともなしに問いかけるように、アイオリアがボソリと呟いた。
「うん?」
それを聞き留めたミロが短く聞き返しながらアイオリアの顔を見た。
「だから今カノンが言ったやつ、えっと、だい……」
「だいしゅきホールド?」
「そう、それ。その"だいしゅきホールド"って何?」
アイオリアがミロに問うと、カノンと不貞腐れてそっぽを向いていたアイオロスがほぼ同時に視線を動かしアイオリアを見た。
二人その視線は「え? 知らないの」と問いかけていたが、それをストレートに声に出したのはミロだった。
「え? お前知らないの? "だいしゅきホールド"」
「うん、知らない」
「あ、そう、知らないんだ」
知らなければ知らないで別に何の問題もないことなのだが、この場に限ってはそれを知らなかったのがアイオリアだけということもあり、何となく微妙な空気が流れてしまうことは避けられなかった。
「で? それ何?」
「いや、それ何? って聞かれても……その名の通り『大好き!』を全身で表現する方法で、えっと、両手両足使って正面からガシッ! て抱きつくことっていうか……」
「?????」
丸っきり何も知らない人間に口で説明してもどうにも伝わり辛いようで、アイオリアはミロのその説明を聞いてもまったくピンと来ていないのが丸わかりな顔でハテナマークを飛ばしまくっている。
「ミロ」
明らかに笑いを堪えている様子で、カノンがミロに声をかける。
「何?」
「お前の彼氏には口で説明してもわからんと思うぞ、こういうことは特にな」
今度はあからさまにからかうように言って、カノンは楽しげにくすくすと笑った。
何だかよくわからないが軽く小馬鹿にされてるのだということにはさすがに気付いたアイオリアが、ムッと不愉快そうに表情を動かした。
だが悔しいがカノンの言う通り未だに"だいしゅきホールド"なるものの具体的なイメージが全く思い浮かばず、一人わけがわからないままでいるのは事実なので反論のしようもなく、縦皺を眉間に刻んだ状態で黙っていることしか出来なかった。
そんなアイオリアの内心を見て取ったミロが、少し困ったように眉尻を下げてカノンに問い返した。
「口で説明してもわからないって言われても……じゃあどうしろって言うんだよ?」
「あれ? お前も突発的に察しが悪くなるね? 口で説明出来なければ実際にやって見せるしかないだろう」
なっ? とカノンがアイオロスに同意を求めるも、アイオロスは相変わらず仏頂面を浮かべたままうんともすんとも言わない。
ただカノンもアイオロスの返答など最初から期待してなどいなかったので、ノーリアクションでも気にする素振りもなくすぐにミロの方に視線を戻し、彼に向かって「ん?」と促すように小首を傾げてみせた。
「実際にやって見せるって……えっ? どこで?」
「ここでに決まってるだろう」
「今?」
「もちろん」
「誰を相手に? アイオロス?」
それを聞いて今度はアイオロスとカノンの目が同時に丸く見開かれた。
「……オレを相手にやったってしょうがないだろう」
しばしの沈黙の後、アイオロスが呆れ果てたように言った。
「え? だって実際にやって見せるなら相手がいないと……アイオロスがダメならカノンにやればいいのか?」
アイオロスに拒否られ、ミロが更に困ったように眉尻を下げながらカノンの方へ視線を移す。
「アイオロス同様、オレを相手にやって見せてもしょうがないんだよ。目の前にお前の彼氏がいるんだから彼氏相手にやればいいだろ彼氏相手に。そもそもその為の技みたいなもんだろうが」
「あ、そうか」
「技? えッ? 技って何!?」
言われて気付きましたという様子で頷くミロの横で『技』という単語に過敏に反応してアイオリアが顔を青くした。
聖闘士に技をかけられると言うことは、命の危機に直結することになるからだ。
恋人にそんなことの実験台にされる覚えのないアイオリアは、さすがに狼狽えずにはおれなかった。
「心配するな、そういう意味じゃない」
青ざめて表情を硬めているアイオリアの内心を正確に読み取り、カノンはまたしても笑いを堪えながらアイオリアにそうフォローを入れてから、ミロに目顔でGoサインを送った。
ミロはカノンに頷きを返し、
「よし行くぞアイオリア! しっかり受け止めてくれよ!」
「えっ!? しっかり受け止めろって何っ……えっ! ちょっと! うわっ!」
言うが早いかミロは正面からアイオリアに飛びつき、両手両足をアイオリアに巻き付けムギューッと彼を抱き締めた。
身構える間もなくミロに飛びつかれたアイオリアは慌てに慌てて大困惑したものの、飛びついて来たミロの身体を反射的に受け止め、落とさないよう両腕の中に収めて確りと彼を抱きかかえた。
「はい、それな」
「は?」
「だからそれが"だいしゅきホールド"」
「あ……」
カノンに言われハッとしたように短く呟いてから、アイオリアは両手両足で自分に抱きついているミロの顔を見る。
アイオリアと目が合った瞬間にミロが「わかったか?」と問いかけながらニコッと笑ってみせた。その笑顔にだらしなく緩みそうになる顔を懸命に引き締めてからアイオリアは、
「なるほどこれが"だいしゅきホールド"なのか……」
と、ようやくわかったとばかりに二度三都と繰り返し頷きながら至近距離で見つめ合ったままのミロと微笑み合い、そして心の中でひっそりと「これ、悪くないかも……」と呟いていた。
「さて、アイオリアくんが"だいしゅきホールド"を理解したところで話を元に戻すが、つまり星矢は来る度にこれをサガにかますわけだ。しかもアイオロスくんの目の前で悪気なく」
カノンの話を聞いて、アイオリアとミロが異口同音に「ああ……」と脱力気味の溜息を漏らす。彼らにも事の次第の全貌が、この時点でほぼ見えたからである。
「子供の無邪気さは時に残酷だからなぁ〜。しかもオレ達に比べて星矢はあの通り小柄だろ。その星矢がサガにそれ!」
"だいしゅきホールド"維持体勢のアイオリアとミロを指差してから、カノンは言葉を繋げた。
「……をやるわけだから、まぁとても可愛らしい微笑ましい画(え)が出来上がるわけだ。しかもサガの方もそんな星矢が可愛くて目に見えてデレデレになってるからな、アイオロスくんの心がつい乱れちゃってヤキモチ妬いちゃう気持ちもあながちわからないでもない」
「だからヤキモチなんか妬いてないとさっきから言ってるだろう! 人の気持ちを勝手に捏造するな!」
わからないでもないと言いつつカノンのその口調は明らかに小馬鹿にしているもので、アイオロスは不快感を露に声を荒げた。
だがそんな状態で否定しても説得力がないというか、むしろ否定すればするほど逆効果だということにアイオロス本人は気付いていなかった。
「話はわかったけどでも星矢のそれってさ、つまりはオレ達が子供の頃サガに抱っこしてもらってたのと要は同じようなモンだろ? それにヤキモチって、大人げないよアイオロス」
遠慮も何もなくストレートにそう言い放ったのはミロである。
つい今し方カノンが『子供の無邪気さは時に残酷』と言ったが、どうやらその言葉はミロにも当て嵌まるらしい。
痛いところをダイレクトに突かれ、さすがにアイオロスも反論の言葉を見失い絶句した。
二人のそんなやり取りを見て、カノンが辛抱溜らず吹き出した。
「ま、お前達と星矢じゃまたちょっと違うと言うか何と言うか……アイオロスくん的には星矢は自分の後継者でもあるわけだし、しかもほら、アイオロスくん肉体年齢27歳だけど中身14歳だからさ。星矢とほぼ同世代と言ってもいいわけだろ。となれば思うところが色々とあるのもまぁ、なぁ?」
擁護するように見せかけてカノンが更なる追い討ちをかける。
「だから子供と一緒にするな!」
一緒じゃん……と三人は同時に思っていたが、とりあえず三人とも口に出すのは思い止まった。
「そんなに星矢が羨ましいなら、アイオロスもサガに"だいしゅきホールド"すればいいだけの話じゃん。アイオロスの方が星矢どころかサガより身体大きいけど、でもサガなら大丈夫だろ、聖闘士なんだからさ。自分より身体の大きい相手に"だいしゅきホールド"されたって全然大丈夫、余裕で抱えてくれると思うぜ」
今の自分達がそれを照明してるだろ、とはさすがに言わなかったものの、いい加減呆れ果てたようにミロが至極真っ当(?)な提案をしたのだが、アイオロスは相変わらず不機嫌丸出しの仏頂面で「違う、そうじゃない」と吐き捨てた。
「は?」
三人が見事に声をハモらせて短く聞き返すと、
「あー! もう! だからオレは、オレがサガにそれをやりたいんじゃないの! サガにそれをやって欲しいんだよ!」
遂にやけっぱちになったアイオロスは、今度は開き直り全開で今もまだ"だいしゅきホールド"体勢を維持したままの弟カップルを指差しながら声を張り上げた。
それを聞いた三人は、あまりに予想外と言うか斜め上の展開に呆然として返す言葉を完全に見失っていた。
「サガに"だいしゅきホールド"して欲しいって、アイオロス、してもらったことなかったの?」
真っ先に気を取り直したミロが聞くと、
「あるわけないだろ! 大体お前だって今初めてアイオリアにしてやったんだろうが、それ!」
「あ、そうか……」
言われて気付いたミロは、思わず納得したようにそう呟いた。
「兄さんのその気持ちはちょっとだけわかる気がする……かな……」
知られざる兄の子供っぽい一面を見せつけられ、恥ずかしさに顔を赤くしたり青くしたりしていたアイオリアが、ここで初めて兄の気持ちに理解を示した。
完全に成り行きで初めて恋人にやってもらった"だいしゅきホールド"が思いもかけず良いもので、実はすっかり気に入ってしまっていたからである。
しかもこうなるに至るきっかけが兄アイオロスのヤキモチによる不機嫌だっただけに、アイオリアにとってこれは正に完全なるタナボタだったと言えよう。
アイオリアのその呟きを聞き止めて、ミロが「ん?」と小首を傾げて見せた。
身体を密着させた恋人にこんな可愛らしいことをされて、アイオリアはますます『そりゃ兄さんもサガにやって欲しいよな、これ』と兄の心情に共感したのだった。
「それならそうと素直にサガに頼めばいいじゃん『オレに"だいしゅきホールド"してくれ』ってさ。アイオロスが頼めばサガだって……」
「してくれると思うか?」
アイオロスの問い返しにアイオリアとミロは即座に首を左右に振った。
サガの性格を考えると、こういう頼みをあっさり聞き入れてくれるとは到底思えない。それくらいのことはアイオリアにもミロにもわかる。
だが、
「そんなもんは時と場所とお前のやり方次第でどうにでもなるぞ」
一人きっぱりそう言い切ったのはカノンだった。
えっ!? と6つの視線が一斉にカノンに集中する。
「それはどういう意味だ? カノン」
アイオロスが文字通り身を乗り出してカノンに問い返した。
「いまこいつらがやってるのと『同じ』ことをサガに要求したら、そりゃ確実に却下食らうだろうよ。人目の全くない場所でサガの機嫌が最高レベルにいい時でなおかつサガの気が向けば或いはやってくれるかも知れんけどな。でもそんな条件が重なるのを待つよりも、サガの意思に関係なく確実に"だいしゅきホールド"をやってもらえる方法があるにはあるぜ。もちろん人目のないところで、アイオロス、お前がそういう風に誘導する必要はあるけどな。しかもそっちの方がある意味、"だいしゅきホールド"の真価を発揮出来るシチュエーションと言っても過言じゃないかも知れん」
「えっ?」
どういうことだ? と繰り返し問いながらアイオロスが逞しい眉を顰める。
カノンは悪戯っぽく表情を閃かせてから、
「人目のない場所、つまり夜、二人きりで、ベッドの中で……」
意味深な単語を並べて、ニヤリと意地悪な笑いをアイオロスに向けた。
「あ……」と短く呟いた後、アイオロスの顔が誰の目にも明らかなほど赤くなった。それはつまりカノンの言わんとしていたことが、ほぼ正確に伝わったと言う証である。
同様にミロも顔を赤らめて俯いていたのでついでに彼にも意図は伝わったようであるが、やはりと言うかまたかと言うか、アイオリアだけは意味がわからなかったようで、表情に思いっきりハテナマークが浮かんでいた。
「わかった?」
一応確認を求めて聞いてみるとアイオロスは黙って首を縦に振ったが、それでも不安そうにカノンに聞き返して来た。
「だがそんなにうまく事が運ぶかな?」
「最初に言っただろ、それはお前のヤり方次第だって。大丈夫大丈夫、そんなに難しいことじゃない」
「でも……」
カノンがあまりに軽い調子で言うので、逆に不安が増すアイオロスだった。
「お前だってどうせサガに"だいしゅきホールド"してもらえるならそっちの方がいいだろう?」
「それは……うん、まぁ……」
アイオロスの返事は歯切れが悪いが、『そっちの方』がいいと思っていることだけは確実である。
「だったら頑張れ」
「あ、う、うん……」
表情を固めて小さく頷くアイオロスに、カノンはしょうがないなぁとばかりに小さく肩を竦めてからアイオロスの傍に歩み寄り、彼に何やら耳打ちをした。
直後、一転してアイオロスの表情が明るくなり、カノンに向かって大きく頷いて見せる。そんなアイオロスに、やれやれ世話の焼ける……とでも言いたげな表情でカノンが頷きを返しているのを見て、アイオリアもミロも何かよくわからないけどアイオロスの機嫌が一発で直ったらしいことだけはわかった。
「なぁカノン」
「うん?」
少ししてアイオリアがやや遠慮がちにカノンに声をかけた。
「ごめん、オレまたちょっと……話が見えないんだけど……」
カノンがアイオロスに耳打ちしたことは当然アイオリアとミロには聞こえていなかったが、アイオリアだけはそれより以前の問題で、そもそも大前提となる話をまるで理解出来ていなかった。その状態では話が見えない、何が何だかさっぱりわけがわからないとなるのは当然である。
「ああ、お前の顔見てりゃわかる」
現在絶賛体現中の"だいしゅきホールド"すら今の今まで知らなかったアイオリアなのだから、これに別バージョンがあるのだということに考えが及ぶわけもない。
ましてその別バージョンとなると――
「でもそれをここでオレが口で説明するのはちょっと……なんでな。お前は後でまたミロちゃんに教えてもらうといい、実技で懇切丁寧に」
なっ! とカノンがミロを促すと、アイオリアとは逆に『それ』を正確に理解しているミロが顔を真っ赤にして"だいしゅきホールド"中のアイオリアの肩口にその顔を埋め、両腕両足に目一杯力を込めた。
「ちょっ…! ミ、ミロ苦しっ…それちょっと苦し…力弱め…っ!」
ミロの照れ隠しのとばっちりで"だいしゅきホールド"が締め技に転じアイオリアは苦悶していたが、黄金聖闘士がこの程度で死ぬわけもないのカノンもアイオロスも笑ってスルーを決め込んでいた。
最もこの時アイオロスの意識は既に『今夜』の方に飛んでいて、目の前で微笑ましくイチャイチャしている弟カップルの方になどこれっぽっちも向いていなかったのだが。
翌日――。
打って変わって超ご機嫌が目に見えてわかるアイオロスに、カノンは彼が昨日の自分のアドバイスを正しく実行して無事サガに"だいしゅきホールド"をしてもらえたのだということがわかった。
同時にこちらもまた超ご機嫌であることが一目瞭然だったアイオリアも、昨夜ミロに"だいしゅきホールド"の別バージョンをやってもらえたに違いない。
これって全部オレのお陰だよなオレってすごいいい人じゃん! と自画自賛しつつ、アイオロスとそしてついでにタナボタでいい思いをしたアイオリアに全力で自分に感謝する場を設けよう=ガッツリ奢らせてやろうと勝手に決め、店の選定を始めたカノンであった。
post script
相方のわーにゃさんと萌え話をしていて思いついたネタです。
ロスサガ、リアミロの夜のだいしゅきホールドはお好きなシチュで妄想いただけたらと思いますo(*^▽^*)o~♪
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