11月8日午前0時02分。
天蠍宮の私室のドアが軽やかにノックされた瞬間、人待ち顔だったこの宮の主ミロの表情がパッと明るくなる。
座っていたソファから飛び跳ねるように立ち上がったミロは急ぎ玄関に走って行き、ドアノブを回す間ももどかしくそのドアを勢い良く開いた。
「アイオリ……」
そして待ち人の名を呼びかけたところで、そのドアの向こうに誰もいないことに気付く。
えっ? と思った次の瞬間、不意にドアの陰からスッと一本の赤いバラが差し出された。
ビックリしたミロが思わず目を瞬かせてその薔薇を見ていると、今度はドアの陰から人影が姿を現した。
「アフロディーテ?」
目の前に現れたのは、アフロディーテだった。
何でアフロディーテが? と思いつつ、ミロが更に目をぱちくりと瞬かせてアフロディーテの顔を見つめていると、
「誕生日プレゼントのお届けにあがりました」
ミロの無言の問いを正確に理解したアフロディーテは少々わざとらしい口調でそう言って、美しい微笑みをミロに向けた。
「えっ?」
プレゼントって、ああ、これ? とばかりにミロが目の前の赤薔薇に再び視線を戻すと、アフロディーテはまたしてもミロの心の中での独り言を正確に読み取り、
「先に言っておくけど、プレゼントはこの薔薇ではないよ」
そう答えて小さな笑い声を零しながら薔薇の茎をその手の中で器用に折り、ミロの金色の髪に挿した。
うん、可愛い♪と満足そうに呟いて、アフロディーテがミロの猫毛を撫でる。
「……これ、毒入り?」
アフロディーテの赤薔薇=ロイヤルデモンローズを真っ先に連想したミロは、髪に差し込まれた薔薇に思わず眉を寄せ身を竦ませたが、
「まさか。心配しなくても普通の薔薇だ。きちんと刺も抜いてある」
アフロディーテが言うとミロはホッとしたように表情を動かしてから、改めて彼に聞いた。
「それじゃ、誕生日プレゼントって何?」
「ん? それはね……」
言いながらアフロディーテが振り返った方向に、ミロも視線を移す。
視線の先には大きな柱があって、その陰から今度はシュラが姿を現した。
今度はシュラ? とミロが思っていると、そのシュラが柱の陰からもう一人誰かを引っ張り出した。
そのもう一人とは、言わずもがな恋人のアイオリアであった。
「アイオリア……」
ミロの表情がパァッと明るくなる。
「ほら、お前が欲しがってたのはこれだろ?」
アイオリアを伴ったシュラはミロとアフロディーテの傍に歩み寄るなり、ミロに向かってアイオリアの背を押し出した。
ミロは全身で頷き、目の前に来たアイオリアに飛びつくように抱きついた。
そんなミロを抱きとめ、アイオリアはふわふわの金髪に頬ずりしながらミロの耳元に唇を寄せ、そして囁いた。
「誕生日おめでとう、ミロ」