それぞれミロとのやり取りを思い出していたアイオリアとシャカは、まるで示し合わせたかのようなタイミングで同時にプッと吹き出した。
「お前にそれとなく伝えておくとミロは言っていたが、その通りにしてくれたようだな」
一頻り笑いあった後にシャカが言うと、アイオリアは今度は微苦笑を浮かべて首を左右に振った。
「いや、それとなくどころか、単刀直入、ストレートど真ん中に言われたぞ、シャカが膝枕して欲しいって言ってるからしてやれ、ってな」
「なるほど、ミロが私に言ったことと実際の言動には乖離があったというわけか。だがそんなところがミロらしくもある、と言えるかも知れぬな」
「そうだな、そう言うことにしておこうか」
遠回しだろうがストレートだろうが、ミロが伝えるべきことを過不足なく伝えてくれたのは事実で、それについては素直に彼に感謝すべきところであろう。アイオリアもシャカも口には出さなかったが、その認識は二人が共有するところであった。
「と、いうわけだから……どうぞ」
改めてアイオリアが、シャカに自分の膝枕を促す。シャカは一瞬だけ躊躇うように思案した後、アイオリアに促されるまま横たわり、彼の膝(正確には太腿だが)の上に頭を乗せた。
「……どう?」
アイオリアが自分の膝枕の具合をシャカに尋ねると、シャカはアイオリアの顔を見上げて一言、「固いな……」と素直な感想を口にした。
「固いか。でも現役の聖闘士の太腿が柔らかかったらそれはそれで大問題だから、まぁその辺は大目に見てもらえると助かる」
「確かにそうだな」
今は戦のない平和な時間を生きてはいるが、だからと言って自分達が戦士であるという事実に変わるところはない。その戦士の体がプニョプニョ柔らかかったらそれはそれで非常に問題である。
「だが……」
「ん?」
「固くはあるが、心地良いものでもある」
思った通りにな、と言ってシャカは口元を綻ばせた。その様子から彼が心から喜んでくれていることがわかり、アイオリアは内心で安堵していた。
「膝枕くらい、言ってくれればいつでもいくらでもしたのに」
「言う機会を悉く逸してしまっていたのだ。だからこういうことになっているのだろう」
身も蓋もない返答をされ、アイオリアは苦笑するしかなかった。
「それはそうだけど、でも、いいのか?」
「何がだ?」
「誕生日プレゼント。これだけでいいのか? 本当に……」
「ああ、これでいい」
間髪入れずに即答したシャカに、アイオリアは「そうか」とだけ応じて彼を見る目を愛しげに細めた。
アイオリアはそのまま上半身を前に倒すと、シャカの唇に自分の唇を重ね合わせた。
「誕生日おめでとう、シャカ」
触れるだけの軽いキスをしてから唇を離し、アイオリアはシャカに祝福の言葉を贈った。
恋人の祝福を受けたシャカは、平素滅多に見せることのない優しく柔らかで無邪気な表情を閃かせ、
「ありがとう」
短く、だが心からの謝礼を告げ、はっきりとした笑顔を浮かべたのだった。