聖域高校バスケ部
「おはよーっす!  ……って、あれ? サガはぁ?」

翌朝――
いつも通りの時間に朝練に現れたミロは、体育館にサガの姿がないことにいち早く気付いて、弟のカノンにサガの所在を尋ねた。

「サガは今日は休みだ」

ミロを横目で見ながら、カノンは明らかな仏頂面でそう答えた。

「休み? サガが? 何で?」

ミロが目を丸くしながら更に問うと、カノンは面倒くさそうに、

「風邪だ」

「風邪ぇ〜?」

「そう、今朝から高熱出して寝込んでる」

「えぇっ!?  だって昨日は元気そうにしてたじゃんか」

昨夜はミロも、8時頃まではここに残って練習をしていた。
ミロはカノンと一緒にサガより一足早くに上がったが、少なくともその時にはサガに風邪をひいているらしき兆候はまるでなかったと思う。
信じられないとでも言わんばかりに、ミロは大きな瞳を何回も瞬かせた。

「あの後さぁ、サガの奴、まだ残って練習してたじゃん? 夢中になりすぎて、ボイラー止まる時間までやってたらしいんだよな。でもって間抜けなことに、それに気付かずにうっかり冷水シャワー浴びちまったらしいんだよ」

「冷水シャワぁ〜?!  この時期にそんなモン浴びたら、そりゃ風邪ひくよ」

「だろ? ったく、バカなんだよな」

自分の兄が超が付くほどの潔癖症で、更に風呂好きであることは生まれたときからの付き合いなのでよ〜〜〜っく知っているが、それにしたってやはりドジが過ぎるというものだろう。
そこに至るまでに何があったのか、その本当の理由を知らないカノンは、心底呆れ果てるばかりだった。
最も、本当の理由を知っていたら、呆れるを通り越して激怒していたであろうが。

「へぇ〜、でもサガでもそんなドジするんだ」

準備運動のストレッチを始めながら、ミロは意外そうにカノンに聞いた。

「あぁ? 案外ドジなんだぜ、ウチの兄貴。ウチん中でも、何もないところで蹴っ躓いたりすっ転んだりドアにぶつかったり、コーヒーに砂糖と塩間違えて入れてみたり、賞味期限切れの方と間違えて買ってきたばかりのヨーグルト捨てちゃったり、そんなことしょっちゅうだぜ。っつか、どっか一本抜けてんだよな。ありゃ天然ボケだわ、天然ボケ」

こちらもストレッチを始めながらミロに答えると、しっかり者の副主将の自宅での意外な素顔に、ミロはケラケラと声を立てて笑った。

「ったく、選抜前の大事な時期だっつーのに、風邪なんかひきやがってドジ兄貴! オレには『体調管理はしっかりするように!』なんつって、年中耳にタコが出来るくらい偉そうに説教してるくせに、自分が倒れてどーするよ」

「まぁまぁ、そう言うなって。事故みたいなもんなんだからさ」

練習熱心と潔癖症が裏目に出ただけと信じて疑っていないミロは、憤るカノンを苦笑混じりに宥めてサガを庇った。
そんなミロも、もし真実を知ったら同じことが言えたるかどうかは定かではない。

「それにしても、せっかくアイオロスが復帰してきたってのに、今度は副主将のサガがリタイヤじゃなぁ〜。風邪だから2〜3日もすれば戻ってくるとは思うけど、万一こじらせちゃったりしたら大変だもんな。長引かなきゃいいけど……な? アイオロス」

カノンとミロのすぐ近くで、2人の会話にビクビクしながら聞き耳を立てていたアイオロスは、突然自分に話をふられてビクッと身を震わせた。
サガが風邪をひいた直接の原因は確かに冷水シャワーであろうが、そうなる大元の原因を作った張本人は他ならぬ自分なのである。
はっきり言って、肩身が狭いなんてものではなかった。

「あ、ああ、そうだな。長引かなきゃいいな」

引きつり笑いでアイオロスが応じると、ミロはふと思い出したように表情を動かし、

「そういえばアイオロスさぁ、昨日オレ達が帰るときまだ居たよね? もう少しサガを待ってるって、言ってなかったっけ?」

ミロに言われて、アイオロスは内心で酷くうろたえた。
それに追い討ちをかけるように、カノンが何か言いたげな不穏な視線をアイオロスに向ける。
ミロとカノンの2人に注視され、アイオロスの顔面が不自然に強張った。

「いや、それがさ、待ってるには待ってたんだけど、サガが戻ってくる前についうっかり部室で寝ちまっててなぁ〜。サガが水浴びたときの悲鳴で、目を覚ましたんだよなー」

わざとらしいく笑いながら、アイオロスはわしわしと自分の栗茶色の髪をかき回した。

「何だ、それじゃアイオロスがちゃんと起きて待っててさえやれば、サガ、冷水シャワーなんか浴びずにすんだんじゃん?」

「……役立たず」

ミロとカノンの非難は甚だ理不尽なものであったが、当然のごとくアイオロスは反論できなかった。

「ま、まぁ、お前達も風邪には気をつけろ」

2人の冷ややかな視線に耐え切れず、アイオロスはひときわ高く笑ってごまかし、無理矢理にその話題をぶった切った。
熱で苦しんでいるであろう病床のサガに心の中で涙を流して詫びながら、その一方で『絶対にあのことだけは、カノン達にバレませんように!』と祈らずにはいられないアイオロスであった。


END

TOP>>
post script
Golden Triangle・わーにゃ様の誕生日に、私が送りつけた代物です。
「バスケのユニフォームいいよ〜。タンクトップで脇が大きく開いてるから、そこから手を突っ込んでいいコトできる」「もちろん部室でやるのはお約束v」と私が嬉々として語っていたのを、わーにゃさんが興味津々で聞いてくれたのが、この話を書くきっかけでした。
書いたのは2002年の12月で、その後長らくGolden Triangleさんの『サガ受強化月間』ページに掲載していただいておりましたが、企画ページ閉鎖後、随分月日も経ちましたので、この度大幅に加筆修正して自サイトにアップさせていただきました。
最初に書いた話はロスの誕生日ネタではなかったんですけれども、時期的にちょうど良かったので誕生日ネタ挿入しました。
それに合わせてちょこっとだけ内容を変えております。

当時それと意図して書いたわけではなかったのですが、結果として『スラムダンク』とのダブルパロディのような話になりました(笑)。
元々私はあっちをホームグラウンドにしていた人間なので、なるべくしてなったのかも知れませんが、いずれにしてもこれを書いてる時はいつになく筆の滑りがよかったことは覚えてます。
改めて読んだら、文章はとってもアレだったんですけれどもね……(;^_^A。

それにしても一人称『私』の高校生って、すっごいイヤなんですけど(笑)。
でもサガだから変えられませんでした……すみません。
その辺りの違和感はどうぞ皆々様方の萌えフィルターで、うまく変換してやっていただけると助かります。