カノンとミロが次に気付いたときには、二人の体は天蠍宮の寝室のベッドの上にあった。シャカが得意のサイコキネシスで、二人をここへ瞬間移動させたのである。これがシャカが言うところの『送ってあげる』だったのだ。

「随分とまぁ、横着っつーか乱暴な送り方しやがって」

ま、床の上に落とされるよりはマシだけど……と、カノンは呆れながら大きく溜息をついた。

「そうかな?。シャカにしては結構、いや、かなり気が利いてると思うけど……」

「はっ?、って、うわっ!」

呆れるカノンとは正反対に、ボソリとそう言うなりミロは、いきなりベッドの上にカノンを押し倒した。

「バカ!、お前はいきなり何をするんだっ!」

目にも止まらぬ早さで組み敷いて、キスをしようとするミロの頭を、カノンは光速に近い早さでひっぱたいた。

「痛てっ!。何ってせっかくのみんなの厚意を無にするのは悪いから……。あのシャカまでこんなに気を利かせてくれたんだし……だから……」

据膳食わぬは何とやら。微酔い加減で時刻も程よく、しかも恋人同士が二人っきりでベッドの上……となれば、やることは自ずと一つである。

「何が厚意だ!。面白がられてるだけなの、わかんねーのかよ!」

百歩譲ってアイオロスのは純粋な厚意と解釈してやってもいいが(大きなお世話……というか、どうせ気を利かせるならもっと地味にこっそりやってくれればいいものを)、他の連中に関しては、特にデスマスクやシュラなど、あの冷やかし方からして完全に面白がっているだけである。明日以降、顔を合わせたら何を言われるかわかったもんじゃない!と、カノンは素直には喜べずにいた。

「そんなのわかってるけど、でも今日がオレの誕生日って事には変わりないんだし……カノンも祝ってよ……」

「さんざん祝ってやっただろ、昼間……」

「やだ、足りない……」

子供のように駄々を捏ねると、ミロは再びゆっくりとカノンの唇に向かって自分の唇を近づけていった。観念したかミロの子猫のような仕草にほだされたか、カノンは打って変ったようにおとなしなったのだが、それは本当に束の間だった。

「ふがっ!」

気分ノリノリのミロの唇がカノンの唇に重なる寸前、いきなり顔面に何かフカッとしたものを押し付けられて、強制的にそれを遮られた。しかもものすごい勢いで押し付けられたものだから思いっきり息が詰まり、窒息しそうになったミロは慌ててカノンから身体を離して飛び起き、ケホケホとむせこんだ。

「何すんだよカノッ……!」

ようやくむせ返りの収まったミロが無体な仕打ちを問い詰めようとカノンに向き直ると、今度は眼前に"それ"をつきつけられて、ミロは瞬間絶句した。どうやら"それ"はつい今し方、ミロをあわや窒息死というところまで追い込んだ元凶であるらしいが、

「はれっ?、ピースケじゃん……」

目の前に突きだされていたのは、数カ月前、ミロが市内で衝動買いをして半ば強制的にカノンに押し付け、今は双児宮のカノンの部屋に飾られているウェルシュ・コーギーのぬいぐるみ、ピースケ(命名・ミロ)であった。

「何でピースケがここにあんの?」

ぬいぐるみと見つめあったまま、ミロが不思議そうに尋ねた。

「バ〜カ、ピースケじゃねえよ、これ」

「は?」

ミロが目を丸くすると、カノンはそのぬいぐるみをボフンッとミロの胸に押し付けた。ミロは反射的にそれを受け取ると、胸の中のぬいぐるみと思わず見つめ合ってしまった。

「こないだ買い物に出たら、たまたまこいつがいたんでな。オレも衝動買いだ、衝動買い。好きな名前つけて、天蠍宮で飼え」

ぶっきらぼうに言ってから、カノンはくすくすと笑った。ここでやっと、ミロはカノンが自分が持っているのと全く同じぬいぐるみを、自分のために新しく買ってきてくれたのだと理解した。

「あ、ありがと……」

まさか21歳にもなってぬいぐるみをもらうことになるとは思わなかったが(自分が28歳のカノンにぬいぐるみを押しつけた事実は、この際は棚上げである)、ここは素直に喜んでおくことにした。理由はどうあれ、カノンがこれを自分のために買ってきてくれたことに、変りはないのだから。

「にしてもお前、どこに隠し持ってたの?、これ?」

双児宮のリビングからここまで、どこに寄る間もなく一気に飛ばされてきたわけだし、それより以前に一見してカノンは何かを……しかもこんな嵩張るものを持っていたような様子はなかった。不思議に思ってミロが聞いてみると、

「持ってたわけじゃねえよ。オレの部屋に置いといたやつを、テレポートさせただけ」

「へ?」

「だってまさかこんなことになるなんて、思ってなかったからな。部屋に置きっぱにしてきちまったんだよ」

実はカノンもデスマスク達同様、宴会が夜通し続くものと思っていたのである。なので隙を見てこっそりとミロにこれを渡すつもりでいたのだが、まさかこんな事態になるとは思わず、完全に予定が狂ってしまっていたのである。

「へぇ、お前そんなこと出来たんだ……」

「バカにすんな!、オレを誰だと思ってやがる!。この程度のモンをテレポートさせるくらい、朝飯前だ!」

ムッとしたカノンは、ミロの脳天を叩いた。

「ゴメンゴメン。でも本当にありがとうな、カノン。大事にするよ、カノンから初めてもらった誕生日プレゼントだからな」

叩かれた痛みに一瞬顔を歪めたものの、これは自分の失言と素直に反省したミロはカノンに謝り、改めて礼を言いながら嬉しそうにぬいぐるみを抱き締めた。

「言っとくけど、プレゼントはそれだけじゃねーぞ」

「えっ?」

ミロはまたもや、目を丸くした。

「ぬいぐるみの耳、見てみろよ」

言われてミロがぬいぐるみの耳を見てみると、そこには小さな真紅の石が光っていた。あれ?、オレがあげたぬいぐるみにはこんな石ついてなかったはずだけど……と訝しく思いながら、更にマジマジと見てみると、何とそれは紅い石のついたピアスであった。

「これ……」

ミロが緩慢な動作でカノンに視線を戻すと、カノンは微笑を返しながら横髪をかき上げて、右耳を出した。そこには以前ミロが贈った、藍晶石(カイアナイト)のピアスが光っていた。

「これもらった時からさ、漠然と考えてたんだよな。いつかお前に似合いそうなピアス、やろうかなって」

「それでこれを?」

「ああ」

カノンがミロにと贈ったピアスは、やはり同じ鉱石の紅玉随(カーネリアン)であった。不透明の濃い真紅は、もちろんミロの守護星・蠍座のアンタレスのイメージだ。ミロがカノンの濃蒼色の瞳をイメージしてこのカイアナイトを選んだように、カノンもまた、蠍座の心臓部であるアンタレスの紅をイメージしてカーネリアンを選んだ。情熱の色と言われる赤は、正にミロにぴったりの色だった。

「お前がこれを買ってくれた店で買ったんだ。お前、これ買ったとき一目ボレしたからっつってたじゃん?。だからさ、同じ店ならきっとオレも一目ボレできるモンがありそうな気がしてな」

カノンのその予感は当たった。ミロから店の場所を聞いて初めて行った、小さなアンティーク・ショップ。その一角にあるガラスケースの中で、カノンはこれを見つけた。数カ月前、ミロが今カノンの耳に光るカイアナイトを見つけた時と、同じように。

だがもちろん、その帰りに迷子になったことは秘密である。

「それがこれなんだ……」

感慨深げに呟いて、ミロはぬいぐるみの耳に光る真紅のピアスに見入った。自分で自分のイメージなどよくわからないが、それでも何となく惹かれるものを感じる。カノンがこれを自分にと選んでくれた理由が、わかるような気がした。

「ありがとう……カノン。オレ、スッゲー嬉しい」

ありきたりな言葉しか出てこない。それでも今のミロには、これが精一杯だった。カノンが満足そうに、それでいて少し照れ臭そうに笑顔を浮べた。

「つけてみろよ」

その照れ臭さをごまかしたいのか、カノンは早速これをつけろとミロを急かした。

「え?、今?」

ビックリしてミロが聞き返すと、カノンは間髪入れずに今!と答えた。

「でもオレ、耳に穴開いてないんだけど」

「開けろよ。小さい穴開けんのは得意だろーが」

それもあっさりとカノンに切り返され、ミロは渋々自分の左の耳朶に右手人差し指を当てると、自分に向かってスカーレット・ニードルを放った。ミロの口から痛てっ!、と小さな悲鳴が漏れると、思わずカノンも小さく吹き出した。

「結構痛いもんだな、これ」

微量の血が滲む耳をさすりつつ、ミロがボソッと呟く。

「オレはそれをお前に問答無用でやられたんだからな」

寝ている隙にミロに耳に穴を開けられたカノンは、その時の文句を言いつつ、苦笑した。ミロは少しバツが悪そうに肩を竦めると、ぬいぐるみの耳からピアスを外し、それを自分の耳に付けた。開けたばかりの穴にピアスが差し込まれる異物感は決して気持ちのいいものではなかったが、それも一瞬のことだった。

「どう?、似合うか?」

後ろのキャッチを止めてから、ミロはもう一度大きく髪をかき上げて、ピアスを付けた耳をカノンの方に向けた。

「……やっぱりオレの見立ては完璧!」

ピアスをつけたミロを目を細めて見ながら、カノンは自画自賛をした。素直に『似合う』と言ってやればいいものを、どうにもこうにも捻くれた物言いしか出来ないようである。

「サンキュ」

だがミロはそんなカノンの性格をよくわかっている。カノンのその言葉の裏に隠された本当の意味を正確に理解して、ミロは嬉しそうに微笑んだ。

ミロがすっと手を伸ばして、カノンの髪をかき上げる。カノンの右耳に光る蒼いカイアナイトと、ミロの左耳に光る紅いカーネリアン、色も質も異なる2つの石が、まるで一対のピアスであるかのように同じ輝きを放っていた。

「誕生日、おめでとう……」

カノンのその言葉を合図にしたかのように、ミロはカノンの耳に掛けていた手をそのまま滑らせて首の後ろに回すと、そっとカノンの身体を引き寄せて、ありがとうと言う代わりにその唇にキスをした。





「カノン……もう1つ、大事なこと言うの忘れてた……」

「ん〜?」

結局デスマスク達の冷やかし通り、そしてミロの最初からの目論み通り、誕生日当日の残り時間を甘く濃厚に過ごした二人であった。時刻は深夜0時を少し回ったところ。21歳なりたての若いパワー溢れるミロは、いつにも増して頑張ったにも関わらず、まだまだ元気満々であった。

反して28歳カノンは少々お疲れ気味で、上がっていた息は整ったものの、気怠さにぐったりとベッドに寝転んでいる始末だった。いつもであれば疲れたら『疲れた、いい加減にしろ!』とミロを蹴り飛ばすカノンも、さすがに誕生日の今日(というか昨日)はそんな乱暴を働くわけにもいかず、大人しくミロの好きにさせていたのだった。

「あのさ、今日のパーティーなんだけど……」

まだ眠っていないせいもあり、ミロにもカノンにも既に日付が変っているという感覚はない。

「パーティー?」

「うん。今日のオレの誕生日パーティー、あれ、カノンがサガとアイオロスに頼んでくれたんだろ?」

カノンがどうやって昔のことを知ったのかはわからないが、ミロとしてはそれ以外に考えようがなかった。サガとアイオロスの独断ということももちろん考えられるのだが、実は誕生日に先立ち、ミロはアイオロスに『誕生日はカノンと仲良く、楽しく過ごすんだぞ』という暖かい言葉をかけてもらっていた。ということは、少なくともあの時点ではアイオロスは、今日のパーティーを計画していなかったと推測される。とすれば寸前になって予定が変ったわけで、カノンがサガに、或いはサガとアイオロスの二人にそれを頼んでくれたのであろうことは、想像に難くない。

「まぁな」

珍しくすんなりと、カノンはそれを肯定した。

「ありがとう……」

こちらも珍しくしおらしく礼を言うと、ミロはベッドの上に上半身を起こした。部屋に滞留する初冬の少し冷たい空気が、火照ったミロの素肌を心地よく擽る。

「こんなこと言ったらまた子供みたいって呆れられるかも知れないけど、オレさ、何て言うか……すごい嬉しかったって言うか、感動したって言うか……上手く言えないんだけど……」

一生懸命言葉を探しているミロの横顔を、カノンは黙ったまま見上げていた。

「13年分の誕生日を、一気に取り戻したような気がした。本当にありがとう、カノン……」

ミロの、早春の空の色のようなブルーの瞳が、静かにカノンを見下ろした。

「ま、それならよかったんだけど……でもなミロ、確かにサガとアイオロスに頼んだのはオレだが、お前が本当に礼を言わなきゃいけない相手は別にいるんだぞ」

「えっ?!」

びっくりしたように短く声を上げた後、どういうこと?と、ミロがカノンに聞き返した。

「アフロディーテだよ」

「アフロディーテ?!」

更にびっくりしたように、ミロはぱちくりと目を瞬かせた。

「あいつがオレに教えてくれたんだよ、昔のこと。多分、こうなることを期待しての、確信犯だろうと思うけど……」

「アフロディーテが?。何で?」

不思議そうに、ミロは小首を傾げた。

「何でってオレに聞かれても困るけど、まぁ、お前の喜ぶ顔が見たかったからじゃねーの?」

カノンのその言葉に、ミロは信じられないとでも言わんばかりに大きく目を見開いた。

「……何で?」

「だから、何で何で?ってオレに聞かれたって知らないってば。てかさ、そういや改まって聞いたことなかったけど、お前とアフロディーテって、昔どうだったんだよ?」

「どうだったって?」

「いや、だからさ、ホラ、デスマスクとお前って年中ケンカしてて、それってガキの頃からずっとだったわけだろ?。アフロディーテもいっつもお前のこと子供扱いして小馬鹿にしてたから、てっきりデスマスクと同じようにケンカばっかりしてたもんと思い込んでたんだけど……実際どうだったわけ?」

「どうだったって……」

ミロは腕組みをしてう〜〜〜ん、と唸り始めた。そうしてややしばらく考え込んだ後、

「アフロディーテとはあんまりケンカした覚えはない。てか、むしろよく面倒見てもらった……ような気がする」

「何だ、その『気がする』ってのは?」

何とも頼りないというかいい加減なミロの答えに、カノンは不審そうに眉間を寄せた。

「うん、ホラ、アフロディーテとシュラとデスマスクって、オレ達より年上だろ。だから必然的にオレ達の面倒見させられてたんだよね」

「サガとアイオロスが全部見てたんじゃないのか?」

「いくら何でも二人だけじゃ、オレ達全員の面倒を完璧にみることなんてできないさ。だから何て言うのかなぁ?、ホラ、大きい子が小さい子の面倒見るってやつ?。あんな感じであの三人がオレ達目下の者の面倒見てたわけ」

そう言われてみればそうか、とカノンは納得した。

「でもデスマスクはああだから、面倒見てるっていうよりちょっかいかけてるだけって感じで、専らシュラとアフロディーテがよく面倒見てくれたかなぁ?って感じかな。で、オレに限って言えば、アフロディーテの方が何かと面倒見てくれたと思う。細かいことは忘れちゃったけど、そういや年中アフロディーテと一緒にいたような覚えがある」

「へぇ〜、ず〜〜〜っとサガにくっついてたわけじゃないの?、お前」

常日頃のミロのサガへの懐き方からして、それこそ年柄年中サガにひっついていたものと信じて疑っていなかっただけに、それはカノンにとっても新鮮な驚きであった。

「くっついてたくたって、そうもいかないことの方が多かったんだよ。サガとアイオロスはもうその時黄金聖闘士になってて、オレ達の面倒の他にも色々抱えてたから忙しかったんだ」

まるで1年365日、朝から晩までサガにくっついてたんだろうみたいなカノンの物言いに、さすがミロの顔も面白くなさそうに歪んだ。正直、そうできれば嬉しかっただろうが、実際はそんなに甘いものではなかったのだ。

「だからまぁ、思い返してみれば結構昔はアフロディーテとは……仲良かったのかも知れない」

あまり意識したこともなかったので、ミロとしても何と言っていいものやらわからないというのもあり、最後まで曖昧な言い回しであった。

「なるほど。でもま、それ聞いて何となくわかったよ」

「何が?」

「ん?。いや、アフロディーテがお前をどう思ってたのかってことがさ。何となく察しはついてたけど、あいつにとってお前って後輩っつーより弟なんだな」

「へ?、何それ?」

「だぁから、あいつはお前のことが可愛くてしょうがねーんだよ。弟を見守る兄貴の気持ちにでもなってんだろ。つか、あいつん中じゃお前は昔と何も変ってないってことなんじゃないの?」

そこまで言って、カノンはくすくすと楽しそうに笑った。だがそうは言いつつも、アフロディーテのその気持ちがまるで我が事のようにわかっている自分自身に、カノンは漠然と気がついていた。自分の兄を見ていてもいつも思うことなのだが、どうにもこうにもミロは年上の人間の保護者意識を絶妙に擽らずにはおれないらしい。もちろん、本人はそんなことをこれっぽっちも自覚しておらず、天真爛漫にしているのだが、つまりそれはミロが持って生まれた天性とでも言ったらいいのか……いすれにしても、理屈では何とも説明はできなかった。

「何だよ?、それ……」

そんなカノンの心の奥底を全く知る由もないミロは、思いっきりバカにされたような気がして、思わず憮然とした。

「ま、いいさ。とにかく今日のことは、半分以上はアフロディーテのお陰ってことだ。だからアフロディーテにも感謝してやんな」

「そうだな。それじゃオレ、明日にでもアフロのところに礼を言いに行ってくるよ」

カノンの言葉に頷きつつ、そういえば生き返ってからはゆっくりとアフロディーテと話をしたこともなかったな、とミロは思っていた。

「つってもお前がストレートに礼を言ったところで、あいつが素直な返答返すとも思えないけど。大概あいつも捻くれてるからな。でもま、表面上どうあれ内心では喜ぶだろうから、行ってやりゃいいさ」

アフロディーテもカノンに捻くれてるなどと言われたくはないだろうが、カノンのこんな物言いも今に始まったことではない。憎まれ口でコーティングはしてあるが、カノンもミロがアフロディーテのところへ礼を言いに行くことを、積極的に勧めてくれているのである。

「ああ、わかった」

端的に返事をして頷くと、ミロは再びベッドにころんと転がり、枕ではなくカノンの胸の上に頭を落とした。

「だ〜から、お前はどうしてオレを枕にするのが好きなんだ!」

自分の胸の上ですりすりと懐くミロの頭を、カノンは軽く小突いた。だがもちろんミロは離れようとはしない。もう幾度となく文句を言ったのだが、どうしてもミロはカノンを枕にするのが好きらしい。カノンに何度文句を言われても何度小突かれても、ミロは懲りたりすることは決してなかった。文句はキレイに聞き流して、好きなだけこうしてカノンに懐いているのである。言うまでもなく、そのまま眠ってしまったことも、数知れずであった。

「擽ったいんだってのに!」

素肌にミロの柔らかな猫っ毛が触れて動くから、擽ったくて堪らない。動くな!とカノンは胸の上ですりすり甘えるミロの頭を押さえ込んだが、結局、振り払うようなことはしなかった。

これは誕生日だから特別に……ということではなく、実はいつものことであった。そしてそんなカノンの顔には、優しい笑顔が浮かんでいた。


END
Happy Birthday MILO!

誕生日なんだからやっぱ甘々よね、甘々!と、遠慮も匙加減もせずにどっかどっかと甘味料を入れ込んでしまいました。ここまで根気強く読んでくださった皆様、もれなく胸焼けを起こされてるのではないかと推察いたします、すみません(^^;;)。相も変らず、こんなものしか書けない私でございます……。
今回、実は5月にS嬢からふんだくったもらった小説の続きを、誕生日に絡めて書いてみました。彼女の話はミロがカノンにピアスを贈り、告るところで終わってたんですが、実はその後カノンがお返しにピアスを贈るところまでネタはあったそうです。長くなるから書くのやめた、と言っていたので、じゃあ私にそのネタ使わせてくれと頼んで書かせてもらいました。彼女が具体的にどんな話を思い描いていたのかは聞いてないのですが、私が書くと見事なまでの胸焼け話になりますね(苦笑)。
さて、今回は更に私が以前より秘かに(でもない)萌えていた、アフロ&ミロをちょこっと入れてみました。サガに懐くミロ、ミロを猫っ可愛がりするサガは私の中では絶対に外せないのですが、同様にミロを可愛がるお兄ちゃんなアフロディーテというのにも萌えなのです♪。しかしカノンにサガにアフロディーテ、ミロを甘やかしたい放題の3人を一気に書いたら、とんでもないことになってしまいましたけれども(笑)。
最後に補足ですが、今回は13年前の女神降臨〜サガが乱を起こすまでの時間軸は、話の都合上強引に捩じ曲げました。シャカの誕生日まで無事に終わってなければ、話にならなかったので(苦笑)。寛大にご了承いただければ幸いです。