世界に一つだけの……
サガの掠れた喘ぎが、高く真っ白な天井に吸い込まれていく。
日付が5月30日に変わった瞬間から一体どれほどの時間、サガは激しい快楽の波にこの身を揺さぶられ、そして飲み込まれ続けているのだろう――?  その波に翻弄されるうちに完全に時間の感覚を失ってしまったサガには、もはやそれすらもわからなくなっていた。

「アッ……ロスっ……」

殆ど声にならない掠れた声が、途切れ途切れに喉の奥から絞り出される。
薄く開かれた瞳は艶やかに潤み、少し苦しげな吐息はますます甘い熱を帯びていた。
そして縋るように背中に回された手の、しなやかな指先に切羽詰まったような力が篭る。
そこから痒みに近い微細な痛みが走り、アイオロスはサガが絶頂を迎える寸前であることを知った。

「っ、あ……はぁっ、んっ……」

「いいぞ、サガ。我慢しなくていい」

子供に言い聞かせるような口調で耳元でそう囁きながら、アイオロスは一気に強く腰を入れた。
悲鳴のような嬌声が響くとともに繋がったそこが一層きつく収縮し、サガの身体が短く、そして激しく痙攣する。
深く埋まったアイオロスの分身がその刺激で張り裂け、僅かに一瞬だけ遅れて重なり合った腹部を熱い飛沫が濡らした。

「ふぅ〜」

溜め込んでいた熱をサガの内へ放出し終えたアイオロスは、乱れた呼吸を整えようと大きく息を吐き出した。
――共に高みへと昇りつめ、そして果てるのは、一体これでもう何度目になるのだろう?  サガは言うに及ばず、アイオロスにすらわからなくなっていた。

絶頂の高波が過ぎ去り、一気に脱力した身体をシーツの波に沈めていたサガが、激しく息を切らせながら薄らと瞳を開けると、外から吹き込む南国の風に煽られた白いカーテンがはためいているのが見える。
カーテンを巻き上げて吹き込んで来た風が、汗ばんだ素肌を微かに撫でていく感触がとても心地よかった。

サガが誕生日旅行と称してギリシャから遠く離れたこの南国の島までアイオロスに連れて来られたのは、現地時間の5月29日夜のことであった。
だがサガはここへ来てからというもの、このコテージから一歩も外へ出てはいない。
いや、出してもらっていないと言った方が、正解だった。
その原因は言うまでもなくアイオロスである。アイオロスがこうしてずっとサガを抱き続け、放してくれないからだ。
時間の感覚が失われているとはいえ、それでもとっくに夜が明けていることくらいはサガにもわかっていたが、アイオロスは一向にサガを解放してくれようとはせず、またその兆しすら見せない有様だった。
お陰でサガは世界屈指のリゾートアイランドであるこの地の、ギリシャとは違うはずの空や海の青を楽しむことも、白砂を踏むことも、爽やかに凪ぐ風を全身に受けることも出来ずにいるのである。
これではわざわざギリシャからここまでバカンスに来た意味など、はっきり言ってないに等しいとしか思えなかった。
一体何の為にここに来たのかとアイオロスに問うたのは、もう何時間前になるのだろう? その時彼はしれっとした様子で、「誰に気兼ねすることもない広々とした静かな場所で、二人きりで誕生日を過ごしたかったから。サガの誕生日を祝うのは、オレだけでいい」と言い放ったのである。
しかもそのためだけに小島一つを丸ごと借り切ったというのだから、酔狂としか言い様がない。
だが今更それを追求する気も咎める気力も、もうサガには微塵も残されていなかった。

サガは整わぬ息に胸を大きく上下さながら、恍惚とした表情で焦点の定まりきらない瞳をゆらゆらと彷徨わせている。
イク瞬間のサガの顔は――それを見ているだけで自分もイッてしまいそうになるくらい――官能的で例えようもないほどに美しいが、イッた後、こうして自分の目の前に全てを無防備に投げ出して虚脱しているサガもまた格別に美しい。
そんなサガを満足そうに見下ろして、アイオロスは乱れた青銀の髪を梳き上げながら、汗で濡れる額にキスを落とした。

アイオロスはしばしの間、目でサガの姿態を、手で艶やかで柔らかな髪の感触を存分に楽しんでから、髪を弄んでいたその手をサガの耳の後ろへと滑らせた。
そこから首筋を辿るようにして指先で軽くくすぐるように愛撫すると、小さくサガの身が竦んだ。

「も……う、いいだろう……」

三分と間を置かずに愛撫を再開したアイオロスの手を、力の入らぬ手でサガが押さえた。
下肢は一つに繋がったまま、放出を終えた直後のアイオロスの分身は、だが未だにサガの中でしっかりとした力強さを保っている。
アイオロスとてもう何度もイッているはずなのに、まるで衰えることを知らないかのような猛々しさだった。

「よくないよ。だって今日は一日中、サガを気持ちよくさせてやるって言っただろ」

「だから、それは……も、いいって……」

サガがアイオロスの胸を押し返そうとするが、アイオロスはびくともしない。
それどころかその手をあっさりと掴み返して、

「ダ〜メ。それじゃ二人きりで誕生日を過ごしてる意味がないし、何の為にここに来たかわからないだろ。このくらいじゃ、まだまだ」

「私がもう、いいと言って……いる……」

はっきり言って、サガはもうヘトヘトだった。
アイオロスの誕生日だと言うならそれこそアイオロスが完全に満足するまで頑張るが、今日は自分の誕生日。
いわば主役の自分が『もう充分』と言っているのだから、それを聞き入れて欲しいのだ。
大体何の為にここに来たかわからないとアイオロスは言うが、むしろそれはこっちが言いたい台詞である。
部屋に閉じこもってこんなことをしているだけなら、わざわざこんなところまで来る必要などないだろう。
いつも通り、人馬宮や双児宮に居たって何ら変わるところはないはずなのだ。
だがアイオロスはサガの内心などこれっぽっちも察してくれず、

「何だ、もうヘバったのか? 千日戦える黄金聖闘士がこの程度で音を上げるなんて、情けないぞ」

と言って挑発めいた苦笑を零したのだ。

「バッ、カ、使う体力の質そのものが、違……う、だろうがっ……」

「違わない」

断言するが早いか、アイオロスはいきなりサガの分身を握り込んだ。
サガが思わず息を詰まらせると、アイオロスは唇の端をつり上げてそれを扱き始めた。
ビクンとサガの腰が跳ね上がり、力を失っていたサガの分身が瞬く間に息を吹き返していく。

「ほら、な?」

「バ、カ! やめ……」

「やめない。だってさ……」

「やっ、あっ……」

「こんな風にサガを気持ちよくしてやれるのも、してやっていいのもオレだけなんだから」

ゆっくりとそこを扱き上げながら、アイオロスはサガの唇に軽く音を立ててキスをした。
口では拒んでいるが、反して手の中のサガの分身は見る見る間に熱く膨らんでいく。
その確かな手応えに、アイオロスは今度は少し意地悪く、そして満足そうにほくそ笑んだ。

「自っ信……過、剰……」

下肢から間断なく、そして容赦なくこみ上げて来る快感に早くも翻弄されかけ始めたサガは、喉の奥からその一言を絞り出すのが精一杯であった。

「なんかじゃない。事実、だろ?」

それともオレ以外にそんなことしていい人間、いるのか? と意地悪な口調でアイオロスが問う。
サガは苦しげな息の下で悔しそうにキュッと唇を噛みながら、ゆるゆると小さく首を左右に振った。
アイオロスは満足したように頷いて、

「それなら何の問題もなかろう」

大ありだ! とサガは思ったのだが、瞬時に勢いを取り戻した官能の焔に巻かれてそれは言葉にならなかった。

「んっ、んっ……はぁっ、あ……」

もう何時間も休む間もなく抱かれ続けているサガの身体は、頭の天辺から爪先までこれ以上ないと言えるほど過敏になっていて、理性で制御できる範囲などとっくの昔に超えている。
僅かな刺激にも身体が敏感に反応してしまい、正常な思考能力があっという間に消え失せてしまうのだ。
抗う術などないに等しく、いつしかサガの両腕は本人の意志とはほぼ無関係に、再びアイオロスの背に回されていた。

「そう、それでいい」

何も考えず、与えられる快感に素直に身を任せてくれればいいのだ――と、アイオロスは瞳を細めてサガを見つめ、満面に笑みを浮かべた。
絶妙に強弱をつけてサガの分身を扱きながら、アイオロスは僅かに体勢を立て直し、グッと力を入れてサガを突きあげた。

「はうっ!」

サガの腰が跳ね、弛緩していたそこが急激に収縮し、埋没しているアイオロスを強く締め付ける。
その刺激でアイオロスの分身はますます力強く膨張し、サガの内側を埋めつくした。
重い快感が圧迫感を伴ってせりあがってくる感覚に思わずイッてしまいそうになるのを堪え、アイオロスは小さく深呼吸をして間を取ってから、ゆっくりと腰を前後に動かし始めた。

「あっ、あぁ……はぁっ、んっ……」

青銀の髪を撒き散らしながら艶かしく喘ぐサガの仰け反った白い喉元に、アイオロスは吸い付くように口づけ、軽く二〜三度そこを啄んでからその唇を耳元へ移動させる。
耳朶を口に含んでじっくりをそこを唇と舌で舐って愛撫した後、アイオロスは小さな声で、だが万感の思いをこめて短く囁いた。

「HappyBirthday……」

END

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2006年双子座月間開催のバースディ企画『EROS4』様に出品させていただいた作品です。
素敵な企画に参加させていただきまして、ありがとうございました。