「アイオロス、ちょっと聞きたいことがあって来たんだ」 その日、夜も更けてから人馬宮を訪れたミロが、妙に改まった様子でアイオロスに尋ねた。 「何だ?、どうかしたのか?」 普段は何か相談事があると自分よりもサガのところに行くミロが、珍しく自分のところに来たことに、アイオロスは少なからず驚いていた。 「アイオロスにしか聞けないことなんだ」 ミロは更に神妙な顔になった。 「ほう、それまた珍しいな。何だい?、言ってみろ」 優しく微笑んでミロを促すと、ミロは意を決したように口を開いた。 「サガの性感帯教えてっ!!」 アイオロスは飲んでいた酒を気管に詰まらせ、大きくむせた。 「なっ、なっ、なっ……おまっ、お前はいきなり、何を……」 顔を真っ赤にし、派手にどもりながらアイオロスがミロに聞き返す。 「何今更照れてんの?。アイオロス、サガと寝てるんでしょ?」 アイオロスの狼狽ぶりに、ミロはきょとんとした顔を向ける。 「そ、そりゃ……まぁ……」 と、うっかり肯定してから、アイオロスはハッと気付き、 「バ、バカッ!、そんなことはどうでもいいんだ!。何だお前は唐突にっ!」 今度は気恥ずかしさに顔を真っ赤にして、いきなりとんでもないことを聞いたミロを叱りつけた。 「だって、アイオロスしか知らないことなんだろ?。他の誰にも聞けないじゃんか!」 「そ、それは確かにそうだが……って、オレが言ってるのはそんなことじゃない!」 またうっかり余計なことを肯定してしまってから、アイオロスは慌てて大声でごまかした。 「そんなこと出し抜けに聞いて……お前は一体何を考えているんだ!」 「知りたいんだよ、教えてよ」 「だから、何でお前がサガの……そんなこと知りたがるんだ!。第一、はいそうですかと教えられるものじゃないぞ!。サガは私のなんだからなっ!」 自分の大事な恋人の性感帯を、他のやつに教える馬鹿がどこの世界にいるんだ!と、アイオロスは内心で憤慨した。 「別にサガに変なことしようとしてるわけじゃないよ」 「当たり前だ!。そんなこと、命にかけても私が許さん!。でもそれなら何でお前はこんな、その、サガの……を聞くんだ!。それにお前はカノンと付き合っているのではなかったのか?!」 「だから、そのカノンだよ」 「は?」 「カノンの為に知りたいんだ、サガの性感帯」 軽快にミロにそう答えられ、アイオロスはますますミロの考えていることがわからなくなった。 「何でカノンが関係あるんだ?」 「サガとカノンは双子だから、性感帯も同じだと思ってさ。オレ、カノンを喜ばせてやりたいから!」 とんでもない事をあっけらかんと言うミロに、アイオロスは言葉を失ってぽかんと口を開けた。 「バッ、バカもんっ!!」 しばし呆然とした後、アイオロスはミロを頭っから怒鳴りつけた。 「何で怒るんだよぉ〜」 アイオロスの大声に顔をしかめながら、ミロが聞き返す。 「子供のクセにそんなことに興味もつなんて、10年早い!!」 けしからん!とアイオロスは肩をいからせた。 「何言ってんだよ、子供じゃねえよ、オレはもう20歳だぞ!」 まさかいきなり子供のクセになどと言われるとは思っていなかったミロは、さすがに頭に来て眉を吊り上げた。 「……あれ?、お前、もうそんなに大きくなってたか?」 今度はアイオロスがきょとんとしてミロを見た。大きくなったのは図体ばかりだと思っていて、実はアイオロスはミロの年齢をしっかり把握していなかった。 「そうだよ。だからちっともおかしくないの!」 言われてアイオロスは、ふむ……と頷きながら腕組みをした。 「納得した?。なら教えて」 「い、いや、だがそれとこれとは話が違うぞ。そのだな、サガはサガだし、カノンはカノンだ。……と、思う。そもそもこう言うことはだな、人に聞くものじゃなくて、その……何て言うか、お互いが協力しあってだな、その……」 はっきり言ってアイオロスは、自分で自分の言いたいことがわからなくなっていた。 「つまりだ、そんなことは教えられん!」 「ええ〜っ、ケチ!!」 「ケチとかそう言う問題じゃない!」 頭の中がごちゃついて何が何だかわからなくなったので、アイオロスはとにかくダメなものはダメ!と言い放った。例えどんな理由があろうと、アイオロスは自分とサガだけの大切な秘密を他人に言う気は更々なかった。 「じゃさ、初エッチの時のこと、教えて」 「はぁ?」 「どうやって初エッチに持ってったの?。サガ、その時どんな風にしてアイオロス受け入れてくれたの?。どうすればそう言う雰囲気に持っていけるの?」 だがミロもそう簡単にはひかず、今度はサガとアイオロスの過去のことを矢継ぎ早に尋ねた。 「だから何でお前はそう言うことを聞きたがるんだ?!」 辟易しながらアイオロスが聞き返す。 「だから、カノンだってば!。どうやったらカノンをその気にさせられるかなって思って」 「つかぬことを聞くが、お前達はその……まだ、なのか?」 ミロはこっくりと頷いた。 「まだのクセにあんなこと聞きたがってたのか?!」 「だってっ……カノンってばさ、オレのこと子供扱いしてさ、はぐらかしてばっかりなんだ。キスはさせてくれるけど、そこから先はダメなんだ。オレは……カノン大好きだから、カノンの全てを知りたいのに、いっつものらりくらりと躱されちゃうんだ」 あ〜、それはカノンの方が一枚上手なんだな、とアイオロスは思ったが、口には出さなかった。 「だからさ、いざその時になったらう〜んとカノン喜ばせようと思って。それでオレを子供扱いしたこと、後悔させてやろうと思って。でもその前に、そうなる雰囲気作りも大切かなって思って」 俯きながらブツブツと、まるで独り言のように呟いた。それを見ていたアイオロスは、呆れて物が言えなくなった。そう言うところが充分子供だぞ……と、つい言いたくなったのだが、泣きそうな顔で拗ねているミロを見ていたら、やはり何も言えなくなった。 「でももしかしたら、オレはカノンのこと恋人だって思ってるけど、カノンはオレのこと恋人だって思ってくれてないのかも知れない!」 急にガバッと顔を上げて、ミロが言った。 「だから拒むんだ!。だってオレのこと好きだったら、拒んだりしないもん。カノンはオレのことなんか好きじゃないんだ!!」 何やら妙な方向に思考を進めて、ミロはあたふたとし始めた。 「あのなぁ、ミロ。それは違うと思うぞ」 アイオロスは大きく溜息をついた。 「何でっ?!」 実のところアイオロスは、自分の前でカノンがそれは嬉しそうにミロの話をしているところを目の当たりにしている。確かに子供で困るとか、そんなことも言ってはいたが、表情は口からついて出ている言葉とまるっきり正反対の物だったのだ。 「1つだけ教えておいてやる。サガもそうだったよ。キスはさせてくれたけど、そこから先はのらりくらりでね。私もお前と同じように、不安に思ったものさ」 アイオロスはその時のことを思い出しながら、くすっと小さく笑った。 「サガとカノンは双子とは言っても性格が違うからな。全く同じとは言い切れんが、サガの場合はな、むしろそのキスの方が深い愛情の証だったんだ。……すぐにはわからなかったけどね」 アイオロスの言葉に、ミロは大きく目を瞠った。 「そう……なの?」 「ああ、具体的な意味は今でもわからないけどな。だからオレは今でも、サガとキスできることに幸せを感じているぞ」 そう言ってアイオロスは肩を竦めた。 「だから、お前もそう焦ることはないだろう。そう言うことは自然となるべくしてなるもんだし、カノンにとってお前は間違いなく特別な存在だよ。それは保証してもいい。だから安心しろ」 アイオロスはそう言ってソファから立ち上がると、ぐりぐりとミロの頭を撫でた。ミロは表情をパッと明るくして、大きく頷いた。 「ありがとう、アイオロス!」 アイオロスの一言でまたたちまち元気を取り戻したミロは、嬉しそうにそう言ってまた慌ただしく人馬宮を後にしていった。 「やれやれ……大人になったんだか子供のままなんだか、よくわからんやつだな」 まるでマメ台風が通り過ぎていったようである。アイオロスは思わず苦笑して、ドッと疲れた体をソファの背に静めた。 |
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END
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【あとがき】
双子、出てきませんでしたけど、まぁミロとロスの恋人自慢と言うことで(笑)。 |