◆Climax Valentine's Day

「こんちは〜」

サガが出かけてから約1時間後。
ミロが双児宮にやってきた。
つか、オレが呼んでおいたんだけどね。

え? 何でミロを呼んだかって?。
それはこいつがオレの恋人だから。
成り行きで他人(兄弟だけど)の恋人へのプレゼントなんか作らされたりもしたけど、オレはオレでこの通りちゃんとプレゼントを渡したい相手がいるってわけ。

オレはミロをリビングのソファに座らせて、アイオロスのを作るついでに多めに作っておいたチョコレートブラウニーを出した。
日頃からミロには手料理はよく振る舞っているが、実は菓子の類いを出したのは今日が初めてだったりする。
ミロもすぐにそのことに気付いたらしく、少し驚いたような顔をしながら早速チョコレートブラウニーに手を伸ばして一つを口に放り込んだ。
直後にミロは笑顔で「あ、美味い!」と呟き、二個目に手を伸ばしつつ「どうしたの? これ」と聞いて来たので、一応厳重に口止めした上で簡単に経緯を説明してやった。

やっぱりミロも"サガは何でも出来る"と思い込んでいたらしく、実はサガは手先が不器用で菓子作りなんかとても出来ないというオレの話を聞いてかなり驚いていた。

「へぇ〜、超意外。オレ、サガには出来ないことなんてないと思ってた。でも苦手なものが一つや二つあった方が人間らしくていいかもな」

そう言ってミロは、今度は楽しそうに声を立てて笑った。
だがミロはすぐにその笑いを収めると、ふと何かに気付いたように表情を動かし、

「てことは、オレのコレはアイオロスのついで? それとも余り?」

皿に残っているのチョコレートブラウニーを指差して、そうオレに聞いて来た。
その声にははっきりとした落胆の音が含まれている。どうやらミロはアイオロスのついでに作ったブラウニーが、オレから自分へのプレゼントだと思ったらしい。
まぁ確かにこれは先にアイオロスありきで作ったモンだから、ミロからしてみれば自分がオマケ扱いされたみたいでがっかりしたんだろうが、

「バァ〜カ、んなわけないだろ」

話の流れ的にそう思ったのも無理もないけど、このオレがそんな手抜きをするかっての。
オレはミロの頭を軽く小突いて立ち上がると、キッチンに行って冷蔵庫の中から特製チョコレートプリンパフェを取り出した。
この特製チョコレートプリンパフェは、もちろんアイオロス用に作ったチョコレートブラウニーの何倍もの手間暇をかけてオレがミロの為だけに作った物だ。
ただまぁアイオロスのことがなければコレを作ることもなかったので、ついでと言えばついでということになるかも知れないんだが、それは言わなきゃわからないので黙っておく。

その特製チョコレートプリンパフェの上に更にチョコレートアイスクリームを乗せてミロに出してやると、ミロは大きな目を更にまん丸く見開いてしばし言葉を失っていた。

「チョコレートをふんだんに使った手作りプリンに、生クリームとフルーツたっぷり、オマケにアイスまで乗ったお子様味覚全開のお前にはたまらない一品に仕上がってるぞ。しかもこのカノン様が愛情たっぷり込めてお前の為だけに作った世界に一つだけのパフェだ、心して食えよ」

オレがそう言うと、パフェをガン見して唖然呆然としていたミロが一気に破顔した。
ミロはすぐにスプ―ンを取ると、チョコプリンと生クリームを掬ってそれを口に運んだ。

「超美味い!」

そりゃそうだ、このオレ様が不味いモンなんか作るわけがない。
でもこんな嬉しそうな笑顔で率直に褒められて悪い気がするはずもない。

「どうだ? 惚れ直しただろ?」

冗談めかしてオレが問い返すとミロはスプーンを繰る手を止め、首を左右に振り、

「オレ、最初から限界ギリギリまでカノンに惚れてるから、これ以上惚れ直す余地なんかないよ」

そう言って無邪気な笑顔を見せた。

今度はオレが、唖然呆然として言葉を失う番だった。
よくもまぁそんな歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく、しかも一瞬の躊躇いもなく明快に言ってのけるもんだと呆れたが、ミロの方は全く気にした様子もなく本当に嬉しそうな笑顔を浮かべたままパフェを食べ続けている。
どうやら今は意識の全てがパフェに向いてしまっているようで、その様子はまるで腕白ざかりの子供のようだ。
そして今この瞬間、オレはこんな子供っぽい部分も丸ごと引っ括めてミロに惚れている自分に改めて気付かされた。

『ったく、案外重症だよなオレも……これじゃサガのこと言えねえや』

思わずオレは心の中でそう呟いて、微苦笑をもらしてしまった。
だがそれと同時に、今になってオレに頭を下げた時のサガの気持ちがわかったような気がした。

アイオロスの本当に嬉しそうな笑顔——サガもきっとそれが見たかったんだ。

サガからのプレゼントをもらったアイオロスも、きっと今のミロと同じような顔をしていることだろう。
サガの場合はちょっと裏事情があるから若干複雑な気持ちも混じるだろうが、それでもそんなアイオロスの笑顔を見て心の底から喜びを覚えているに違いない。

そう、今のオレと同じように――。


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2014.2.17改訂

料理下手なサガに料理上手なカノンという、我が家の基本設定とは真逆のパターンを書いてみました。
でも育ってきた環境を考えると、こっちのパターンの方がある意味現実的なのかも知れません。
ダメ嫁のカノンばかりを書いて来ましたが、意外と完璧嫁もハマりますね(笑)。

ところでアイオロスが真実を知る日は、一体いつになるんでしょう(笑)。

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