拍手ありがとうございました!

お名前(無記名可)
コメント返信
不要 

☆いただきましたコメントへの返信は、日記の方でさせていただきます。

こちらに掲載しておりますSSは、今まで書いた話の一場面抜き出しSSになっております。派生元の話はタイトルにリンクを貼ってありますので、よろしければそちらもご覧いただけたら嬉しいです。

◆幕間小劇 『HAPPY BIRTHDAY to Milo〜ロスサガの巻〜』
病床のカノンとミロが互いの想いを確かめ合い、いい雰囲気で二人だけの世界を構築していたその時、部屋の外では入室するタイミングを見事に逸してしまったサガが、半ば途方に暮れたように立ち尽くしていた。
部屋の中の二人が外まで聞こえるほどの大声で会話をしていたわけではもちろんないのだが、それでも聖闘士であるサガの耳には図らずも室内の二人の会話が見事に届いてしまっていたからである。
最初は会話が途切れたタイミングで部屋に入ろう……と思ってドアの前でその機会を待っていたのだが、却って入りづらい雰囲気になってしまい、サガはすっかり困り果てていた。
少々鈍いところのあるサガでも、さすがにこの状況で無遠慮に二人の間に入って行けるほど野暮でも空気が読めないわけではない。
かといって今更引き返すわけにもいかず、結局ここでひたすら中の様子を窺いつつ入室するタイミングを見計らっているという有様になっているわけだが、そうは言ってもいつまでもここに突っ立っているわけにもいかないだろう。
カノンに食べさせる為に作って来た食事が冷めてしまうし、それよりも何よりも、この有様は大間抜け以外の何ものでもないからである。

焦る気持ちと裏腹に、どうしてもそのきっかけが掴めず内心でオロオロしていると、

『やっぱサガ、ちょっと遅すぎるよね。オレ、様子見て来るよ』

というミロの声が聞こえて来た。
今だ! とばかりにサガは、小さく深呼吸をしてから急いで部屋のドアをノックした。
すると、あ、来た! という独り言のような呟きの後間もなく、部屋のドアが内側から開かれ、ミロがひょっこりと顔を出した。

「グッドタイミング! 今サガのところに行こうと思ってたんだよ、遅かったね」

悪気なくミロは言ったが、ただ単に入れなかっただけで遅くなったわけではない、とサガは心の中で思わずにはいられなかった。

「ああ、ちょっとな。すまんがミロ、これをカノンに食べさせて、薬を飲ませてくれ」

曖昧に言葉を濁してごまかし、サガは食事の乗ったトレイをミロに手渡した。

「う、うん、わかった。……って、部屋に入らないの?」

それを受け取りつつ、ミロが小首を傾げてサガに尋ね返す。
ミロはミロで、てっきりカノンの食事の面倒はサガが見る気でいるのだろうと勝手に思っていたからだ。

「いや、いい。後はお前に任せるから、カノンのこと頼んだぞ」

そんな野暮な真似出来るか! とやはり心の中で呟き、サガはミロに早口でそう言った。

「あ、うん」

反射的にミロが頷くと、それを見たサガは急いで踵を返し、

「それと、悪いが開いた食器は後で持って来てくれ」

最後に思い出したようにそう言い置き、訝し気に見ているミロから逃げるようにそそくさとその場を立ち去ったのだった。



サガがリビングに戻り一息入れていると、今度は私室の玄関のドアが開閉する音が響いて来た。
小宇宙や気配で誰が来たのかを確かめるまでもなく、訪問者がアイオロスであることがわかったサガは、静かにソファから立ち上がり彼を出迎える準備をした。

数秒後、思った通り姿を現したのはアイオロスだったが、そのアイオロスの出で立ちを見るなり、サガは驚いて思いっきり目を見開き、

「ア、アイオロス!? 何だその大量の荷物は!?」

両手両脇に山ほどの荷物を抱え、息を切らせて立っているアイオロスにその理由を問い質した。

「何だも何も、コレがいきなり人馬宮に降ってわいて来たんだよ!」

「はぁ!?」

アイオロスの説明の意味がわからず、サガは眉を顰めて短く聞き返した。

「だから、オレがリビングでテレビ見てたら、何の前触れもなく大量の荷物がウチに出現したんだよ! 何事かと思って見てみたら、袋や箱に日本語が書いてあってさ」

アイオロスは抱えて来た荷物を無造作に床に置くと、

「それ見てミロの仕業だってピンと来たよ。あいつ、確か今日カノンと一緒に日本に行ってたよな? 大方そこでしこたま買い込みすぎて持ちきれなくなったから、聖域(こっち)に荷物だけ送り返して来たんだろ」

と、些か憤慨気味に言った。
そのアイオロスの推察は、半分だけ当たっている。

「何だか知らんがとにかくバカスカ買い物したみたいで、持ちきれるだけ持って来たけどこれでもまだやっと半分だぜ。何でオレんとこへ送りつけて来たんだか知らんが、とんだ大迷惑だ! ウチへ置いといても邪魔だし、癪に触ったから天蠍宮に放り込んでおこうと思ったんだが、鍵がかかってて中に入れなくてな」

「それで双児宮(ここ)へ持って来たのか」

「ああ。あいつのことだからどうせ帰って来たら天蠍宮より先にここに寄ると思ってな。ここから持って帰らせて、ちょっと苦労させてやろうかと思って」

成り行きというものあったのだろうが、それより以前にここまで運んで来る自分自身の労力というものを考えた方が良かったのではないだろうか? とサガは思った。
思うだけにとどめて、口には出さなかったが。

「ミロ達ならもう帰って来てるよ」

「へ!?」

一人でプンスカ怒っていたアイオロスは、サガから返って来た思いもよらぬ答えに素っ頓狂な声を張り上げた。
荷物だけ先に送り返しておいて日本で遊び呆けてるものと思いきや、既に帰って来ているとはどういうことなのか?。
アイオロスが理由を問うと、サガは簡潔に事情を説明した。

「なるほど、そういう事情だったのか……」

事の顛末を聞き、アイオロスは納得して二度三度と頷いた。
これで荷物を送り返して来た事情もとりあえず理解できたが、何故当事者二人の自宅ではなく全然関係ない自分のところへ荷物を送って来たのか、その理由だけは依然としてわからなかった。

「でも何つーか、あいつも災難と言えば災難だな。もちろんカノンが悪いわけじゃないが、あいつが寝込んじまったってことは、必然的に今日の予定は全部パーになったってことだろ。ミロがそれを楽しみにしてたの知ってるから、さすがにちょっと気の毒な気もするよ。だからと言って、今日ばかりはさすがに誰か代わりの人間が行けばいいって話でもないからなぁ」

気を取り直し、アイオロスが言った。
ミロにとってカノンは唯一無二の大切な人間だ。
そのカノンの代わりを務められる人間など、この世の中に存在しない。
姿形だけはカノンと全く同じ一卵性双生児の片割れであるサガでも、こればかりは無理である。

最も、万が一にもありえないとは思うが、まかり間違ってカノンの代役にサガを貸してくれ――と言われたとして、そんな事はサガの恋人たる自分が絶対に許しはしないのだが。

「今日一日、ずっと一緒に居るというのがミロの一番の望みで、二人の間では既にそう約束をしていたらしいからな。だからミロとしては、約束の本筋は違えていないからこれで充分満足している……ということらしいよ」

アイオロスの言葉に何気なくサガが答えると、アイオロスは少し目を丸くして、

「へぇ〜、そうなんだ。それにしてもお前、よく知ってるな。ミロから聞いたのか?」

と、サガに問い返した。
性格的に考えてカノンがそんな事をサガに言うわけはないし、となるとミロが言ったとしか考えられないわけだが、サガはアイオロスのその問いには何も答えなかった。
というより、答えようがないというのが本当のところだった。
何しろそんなつもりはなかった、不可抗力だったとは言っても、結果的には立ち聞きで得た話なのだから、何となく気まずくて言えないのは当然のことである。

「しかし、あいつもいつの間にかそんな気の利いたことが言えるようになってたんだな」

サガからは特に返答はなかったが、アイオロスはそんなことは気に止めた風もなく、今度は一転してどこか感慨深げにそう呟いた。
ミロが言っていたことはもちろん彼の本心であるのだろうが、アイオロスから見るとまだまだ子供っぽいところの残っているミロがそんな大人びた対応をとった(らしい)ということが、少し意外だったのである。

「あいつだってもう子供ではないのだからな」

アイオロスの内心を察したらしいサガが軽くそう応じると、アイオロスは訝し気な視線をサガに向け、

「よく言うよ、普段はお前の方があいつを子供扱いしているくせに。猫っ可愛がりしてさ」

と、ヤキモチと厭味が入り混じったような口調で言った。

「私は別にミロを子供扱いしているつもりも、猫っ可愛がりしているつもりもない」

しれっと言い放ったサガの顔を、アイオロスは今度は呆れたように見直した。
どの口が言うか!? と思ったからだ。
誰がどこからどう見ても、サガはミロのことを子供の時と同様――つまり大いに子供扱いをして――彼を猫っ可愛がりしているのは事実だからである。
それは再三再四アイオロスもサガ本人に言ってはいるのだが、どうにもこうにも本人にその自覚がないのが困りものだった。
自覚がないものを何回言って聞かせても無駄なのだが、アイオロスもそれがわかっていないのか、はたまたわかっていても言わずにおれないだけなのか、いずれにしてもどっちもどっちとしか言いようがない側面があるのも事実である。

アイオロスは小さな溜息をつきつつ首を左右に振ると、自分に言い聞かせるようにポソリと言った。

「ま、あいつ自身がそれでいいと言ってるんだから、オレがとやかく言うことでもないか」

自分がミロの立場でも、恐らく同じことを言っただろうし、同じことをしただろう。
いつでもどんな時でも傍にいたい――その気持ちが常に根本にあるのは、自分もミロも変わらないのだから。

「そうだな」

同意して頷き、サガはくすりと小さな笑いを零した。

「それに風邪が治ったら、きっとカノンも埋め合わせに目一杯大サービスしてくれるだろうしな」

大サービスって、何を大サービスするんだ? とサガは思ったが、敢えて聞き返しはしなかった。
ろくでもない回答しか返って来ないような気がしたからである。

「とりあえずコーヒーでも入れよう。アイオロス、すまないがその荷物は邪魔にならない場所に適当に置いておいてくれ」

「ああ、わかった」

サガが適当にリビングの一角を指差しながらアイオロスに言ってキッチンの方へ踵を返しかけると、奥からドアの開閉する音と、ぱたぱたと近寄って来る足音が聞こえて来た。
間もなく、リビングに現れたのはミロであった。

「サガぁ、カノンご飯食べ終わったよ……って、あれ? アイオロスじゃん、いつ来てたの?」

サガの元に小走りに駆け寄り、開いた食器の乗ったトレイを差し出しながら、ミロは無邪気にアイオロスに声をかけた。

「いつ来てたの? じゃねえ! 能天気な顔しやがって」

アイオロスはそのミロのペチンと叩くと、すぐにその手を翻し、

「アレ、お前のだろうが!」

無造作に積んである荷物を指差した。
ミロはきょとんと丸めた大きな瞳をぱちくりと瞬かせてから、

「そうだけど、何であれがここにあんの?」

そう聞き返しながら不思議そうに小首を傾げた。

「何でここにあんの? じゃねえよ。オレが持って来たんだオレが!」

「へ? 何でアイオロスが?」

「何で何でってお前なぁ……」

ますます不思議そうにミロが目をまん丸くすると、アイオロスは疲労感たっぷりの溜息をこれみよがしについて、

「それはオレが聞きたいんだよ。オレが自分の宮(ウチ)で寛いでたら、いきなり降ってわいて来たんだよ、コレが!」

「え?」

ハテナマークを飛ばしながら考え込むように黙ったミロは、十数秒ほどして思い出したように手を打ち、

「あー、そっかぁ! オレ、天蠍宮に送ったつもりでいたんだけど、間違ってアイオロスんとこに送っちゃったんだ。何しろ慌ててたから、着地点を微妙に誤っちゃったんだな。ごめんごめん」

悪びれた様子などこれっぽっちもなく、楽し気に笑い声を立てた。
アイオロスは思わず眉間を寄せたが、サガは堪え切れずに小さく吹き出してしまっていた。

「何が微妙に、だ。微妙なんて可愛いレベルじゃないだろ!」

「え? 何で? マジでほんのちょっとの誤差じゃん、隣なんだし」

隣とはいっても隣接しているわけではなく、十二宮の各宮の間には長〜い階段があるわけで、ほんのちょっとの誤差などとはとても言えないのだが、実質的な距離などミロには関係ないらしい。
いよいよ本格的に呆れて、アイオロスは返す言葉を失った。

「でも何で天蠍宮(ウチ)にじゃなく、双児宮(ココ)にわざわざ持って来たんだよ?」

「天蠍宮にはお前が留守で入れなかったからだよ!」

「なら言っておいてさえくれれば、後で取りに行ったのに」

「お前な、どれだけの荷物を勝手にウチに放り込んだと思ってんだ? 邪魔臭くてしょうがねえんだよ、オレが!」

何しろリビングの一角に、大量の荷物がいきなり出現したのである。
各宮の私室はかなり広い作られているし、足の踏み場もないというわけではもちろんないのだが、邪魔であることに変わりはないし、何より親切に保管しておいてやる義務もないので、とりあえず持てるだけの荷物を抱えてアイオロスは双児宮まで降りて来たのだ。
ただ自宮に置いておくよりここまで持って来る方がよっぽど親切とも言えるが、単に双児宮に来る為の口実に利用しただけとも言える。
無論、アイオロス自身は全くの無意識の行動であったが。

「まだウチにいっぱい転がってんだからな。もうオレは届けてやらんぞ、後で自分で取りにこい」

「わかった。カノンの様子が落ち着いたら取りに行くよ。明日か明後日になっちゃうけどいいよね?」

すぐに取りに来いと言っても、さすがに無理だろう。
それくらいはアイオロスもわかっているので、ああ、と短く答えてあっさりと了承した。

「ところでミロ、カノンの様子はどうだ?」

会話が切れたのを見計らって、サガがミロにカノンの様子を尋ねた。

「うん、熱はやっぱ結構あったけど、でもご飯食べて薬飲んだら少し落ち着いたみたいに見えるかな。今し方、眠ったとこ」

「そうか」

ミロの返答を聞いて、サガはホッと安堵の吐息を零した。

「今日はオレがずっと傍についてるから、カノンのことはオレに任せておいてよ」

「ああ、頼んだよ」

改めてカノンのことをミロに頼んだ後、サガはふと思い出したように表情を動かし、

「それはそうとミロ、お前夕飯……というかこっちではまだ昼だが、食べていないのではないか?」

そうミロに聞き返した。
元々今日は、沙織の予約してくれたレストランで誕生日ディナーの予定だった。
その直前にカノンの不調が発覚したため、結局その予定をキャンセルする羽目になったのだが、ということは必然的にミロは夕飯を食べていないということになる。
サガもカノンのことに気を取られていてそのことを失念していたので、当然ミロに食事は出していない。
確認するまでもなく、それは明白なことであった。

「あ〜、そういえばそうだ。自分の事なんか気にしてる余裕なかったから、すっかり忘れてた」

サガに言われて、ようやくミロもそのことに気がついた。
予想外の事態に大いに慌てていたし、それより何よりカノンのことが心配で、自分の食事のことなど意識の片隅にもなかったのである。

「やっぱりそうか。それじゃお腹が空いているだろう?」

「そうだね、そう言われれば空いてるかも……」

今まで全く意識していなかったせいで感じなかったが、サガにそう言われた途端急に空腹感がこみ上げて来て、ミロは片手で自分の腹を押さえた。

「急いで何か作ろう。有り合わせで作るから大した物は出来んが、とりあえず今日のところはそれで我慢してくれ」

まさかこんなことになると思ってもいなかったので、ご馳走と呼べるような物を作れる材料など何も用意していない。
誕生日ディナーの予定が急拵えの簡単料理になってしまうのは可哀想だが、このまま空腹を抱えているよりは遥かにマシだろう。

「それで充分。だってサガの作る物は何だって美味しいもん」

申し訳なさそうにしているサガに向かって、ミロは笑顔で首を振ってみせた。
釣られてサガも、照れ臭そうに微笑む。

「でもごめんね、サガ。オレの飯の心配までさせて、余計な手間かけさすことになっちゃってさ」

「気にすることはない。どうせついでもあるしな」

言いながらサガは、ちらりと意味ありげな視線をアイオロスに投げた。
ついでというのはもちろんアイオロスのことで、彼の分の食事を作らなければならないかのだら、手間は同じだ……と言っているのである。
アイオロスもミロもサガの言わんとしている事は理解したが、ミロが楽し気にくすくすと笑ったのとは対照的に、アイオロスの方は「ついでかよ?」とでも言いたげな、微妙に不満そうな表情を浮かべていた。

「それにしてもミロ、お前さ、寝ているカノンの傍にただくっついてるだけじゃ退屈だろ?」

細かい事はまあいいやとばかりに、アイオロスはミロに素朴な疑問をぶつけた。

「ん〜、それはそうだけど、でも退屈したらカノンと一緒に寝ちゃえばいいやって思ってたんだよね。でも……」

そこまで言ってからミロは、アイオロスが持って来た荷物の山におもむろに歩み寄り、

「アイオロスがこれ持って来てくれたから、退屈なんてぜんぜんしなくて済みそうだよ」

その中からマンガ本のぎっしり詰まった紙袋と、携帯ゲーム機とソフトの入った袋を取り上げた。
渡りに船、とはこのことを言うのかも知れない。
アイオロスは手前にあった袋を適当に数個引っ掴んで持って来ただけなのだが、運良く中身はミロがこれからの時間を過ごすのに最適な物ばかりが入っていたのである。

「サンキュ、アイオロス」

「いや、別に礼を言われるような事でもないんだがな」

別に厚意からしたことでもなければ、ちゃんと中身を確認して持って来たわけでもないので、礼など言われても困ってしまうと言うのが本音だった。
何だか背中がむず痒くなって、アイオロスは微苦笑した。

「それじゃオレ、カノンの部屋に戻るね。ご飯は出来たら取りに来るから、テレパシーで呼んで」

「ああ、わかった」

サガが頷いたのを確認し、ミロは大きな二つの袋を小脇に抱えて足早にカノンの部屋へと戻って行った。

「確かに……本人はこの現状にも充分満足してるみたいだな」

リビングを飛び出して行ったミロを些か呆然と見送った後、今度ははっきりとした苦笑いを浮かべながら肩を竦めたアイオロスは、おもむろに踵を返すとミロと反対の方向、つまり玄関の方へ向かって歩き出した。

「どうしたアイオロス、帰るのか?」

てっきりこのまま昼食をとっていくものと思っていたサガは、さすがにびっくりしてリビングを出て行こうとしているアイオロスを引き止めた。

「いや……」

アイオロスは立ち止まって首を左右に振ると、一瞬の間を作った後に、

「ケーキくらい買って来てやろうかな、って思ってな」

少し照れ臭そうに言って、鼻の頭を掻いた。
そのケーキが誰の為の物か、など聞くまでもない。

「そうか」

アイオロスの意図を正確に理解したサガは、ふ、と表情を緩め、柔らかく微笑んだ。
アイオロスもサガに微笑み返し、

「じゃ、ちょっと行って来る」

「あ、アイオロス」

サガはもう一度アイオロスを呼び止め、その傍へ歩み寄った。

「ん?」

すぐ傍に来たサガにアイオロスが短く聞き返すと、サガはニコッと笑みを深め、

「ついでにここに書いたものを買って来てくれ」

超能力でメモ帳とペンを手元に移動させ、そこに素早く買い物を書き留めると、それを有無を言わせずアイオロスの手に押し付けた。
アイオロスはポカンとした顔でメモとサガの顔を交互に見遣り、

「……了解」

意味もなく何かを期待していたアイオロスは、拍子抜けしたような様子で目の前でメモをヒラヒラとさせてから、無造作にジーンズのポケットに突っ込んだ。

「それから」

「ん? まだ何かお遣いあるのか?」

サガは無言でゆっくり首を左右に振り、

「ありがとう」

そう一言告げると、少し背伸びをしてアイオロスの頬に軽くキスをした。
ミロと、そして自分の弟に対するアイオロスのさり気ない優しさと思いやりに、精一杯の感謝の気持ちを込めて。

予想外のサガのフェイントにアイオロスは目を丸めたが、すぐに幸せそうな笑顔を満面に浮かべ、

「どういたしまして」

同じく一言で応じ、アイオロスはサガの唇に軽いキスを返した。


- PatiPati (Ver 2.1) -