そんな経緯でミロはこうして獅子宮まで渋々やってきたのだが、結局扉を叩くことができぬまま、時間だけを空費しているという情けない有様に陥っているわけである。
この間何度、こんな状況に追い込んでくれたサガへの恨み言を口にしたことか――。
サガは平素は実兄のように慕う大好きな相手だが、今回ばかりは本当に余計なお節介、ありがた迷惑以外の何ものでもなかった。
もうグチャグチャ悩んでるのも面倒くさいしバツも悪いから、玄関の前にケーキだけ置いてこのまま帰っちゃおうかな、とミロがやけっぱちになりかけたその時、目の前の扉か内側から開いた。
いきなりのことにミロが驚いて固まっていると、中からアイオリアがひょこっと顔を出し、
「あ、本当にいた……お前、こんなところで何やってるんだよ? さっさと入って来ればいいのに」
完全にミロがそこにいることがわかっていたような様子でそう声をかけた。
「な、何でオレがここにいるって……?」
「ん? 今サガから連絡が来たからな。お前に届け物を頼んだんだけど、多分玄関前でグズグズしてるだろうから迎えに出てやってくれって」
正直半信半疑だったんだけど、ドアを開けたら本当にお前がいたからさ……と、アイオリアは楽しげに笑い声を立てた。
「あ、そうなんだ……」
サガの差し金と知ったミロは、どこまでもお見通しな上に逃げ道は徹底的に塞ぐとか、本当容赦ない……と思わず溜息をついた。
「えっと、その……これがサガに頼まれた届け物、バースデーケーキ。お前、今日誕生日だもんな、おめでとう」
捲し立てるように言って、ミロはサガから預かってきたケーキの箱をアイオリアに押し付けた。
本当は6年前には言えなかった「誕生日おめでとう」の言葉をもっときちんと伝えたかったのに、焦ったあまりに取ってつけたようなおざなり感満載な物言いになってしまい、ミロはますます気まずい思いをする羽目になったのだが、
「ありがとう」
アイオリアは一瞬だけ面食らったように目を瞠ったものの、気にした風もなくすぐに笑顔で礼を言ってミロからそのケーキの箱を受け取った。
「間違いなく届けたからな。それじゃ……」
とにかく居た堪れなくて一刻も早くこの場を離れたかったミロは、またしても捲し立てるように言って大急ぎで踵を返したのだが、一歩地面を蹴ったところでアイオリアに腕を掴まれ引き止められた。
「えっ?」
ミロが振り向くと、アイオリアは苦笑を浮かべながら、
「何もそんなに急いで帰ることないだろう。それとも何か用事でもあるのか?」
「いや……別に用事はないけど……」
と答えてから、しまった! 用事があるって言えばよかった! とミロは後悔したのだが、時既に遅しである。
「それならちょっと寄って行けよ」
「えっ? な、何で?」
「ケーキ、食べるの手伝ってくれ。どんなケーキが入ってるのかは知らんが、この箱の大きさを見る限りとてもじゃないがオレ一人で食べきれる量じゃない」
「いや、それならオレよりもアイオロスの方が……誕生日を兄弟で過ごすなんて13年ぶりなんだし、アイオロスを呼んで一緒に食べてもらえよ」
ミロが自分なんかよりもアイオロスと過ごせとその誘いを断ろうとすると、アイオリアは苦笑を深めて言った。
「兄さんはついさっきまでここにいたけどね。でもサガと約束してるからって、さっさと行っちまったよ。と言うか、お前もそのこと知ってるんじゃないのか?」
「……あ……」
そう言えばそうだった――と、ミロはこの時ようやくサガとの先刻のやり取りを思い出した。アイオロスはきちんとアイオリアへの誕生祝いを済ませてから来ることになっている、とサガが言っていたことも。
「そういうわけだから、お前が付き合ってくれよ、な?」
今度は人好きのする明るい笑顔を向けられ、ミロは断り切れずに頷くことしかできなかった。