十三年ぶりに入った獅子宮の私室は、綺麗に片付いているというより質素といった印象だった。
尤も自身の天蠍宮の私室も大差ないといえば大差なく、獅子宮に限らずどこの宮の私室もこんなものであるといえばそうなのだが。
「コーヒーでも淹れてくるから、適当に座って寛いでてくれ」
リビングのテーブルにケーキの箱を置くと、アイオリアは振り返ってミロにそう声をかけた。
「いや、ちょっと待ってくれ。いくらここがお前の宮だからとはいえ、今日はお前の誕生日、いわばお前が主役なんだぜ。その主役の手を煩わせるのは、いくら何でも申し訳ないというか決まりが悪い。コーヒーくらいオレが淹れるよ、いや、俺に淹れさせてくれ。キッチン使わせてもらっていいだろう?」
ミロは慌てて首を左右に振り、コーヒーは自分が淹れると言い張った。
「え? それは構わないけど、でもミロ……」
「いいっていいって、オレに任せてアイオリアはここでのんびり待っててくれ」
言うが早いかミロはアイオリアの肩を抑えて強引に座らせてから、小走りにキッチンへと消えていった。
――が、僅かにその一分後。
ミロがキッチンの出入り口からひょこっと顔を覗かせ、先刻までよりも更にバツが悪そうにしながらアイオリアに聞いた。
「ごめん、アイオリア……あの……コーヒー、どこかな?」
アイオリアはそんなミロの様子に思わずプッと小さく吹き出し、楽しげに笑い始める。
「コーヒー置いてある場所わかるか? って言おうとしたのに、人の話を最後まで聞かずに突っ走るから……ま、そういうところがお前らしいんだけどな」
そう言ってアイオリアはソファから立ち上がってキッチンに向かい、
「オレも手伝うよ」
と、ひょっこり飛び出ているミロの金色の頭をポンと叩いた。