「シャカの誕生日プレゼントのことを何でオレに相談するんだよ? お前がわからないものをオレにわかるわけないだろう」
呆れたようにそう言って、ミロは目の前で居心地悪そうに座っているアイオリアに向かって溜息をついて見せた。
先刻「相談がある」と言って天蠍宮を訪れたアイオリアがミロに持ちかけたその相談事というのが、『間近に迫った恋人シャカへの誕生日プレゼントに何を贈ったらいいか?』だったのだが、突然そんな相談を持ちかけられたミロからすれば、何でオレなんだよ? となるのは当然の話である。
「いや、お前が一番こういうことに詳しそうっていうか気が回りそうだからさ。みんなのこと意外と良く見てて理解してるからシャカのことも結構わかってくれてそうな感じするし、一番的確にアドバイスくれそうかなって思って」
「はぁ!? お前何言ってんの? 他の奴ならともかく、シャカのことなんてわかるわけないだろ……あのな、言っておくがお前の恋人は超がつくほどの変わり者なんだよ! 普通の人間の尺度じゃ測れないレベルの変人なの! そんな変人のことなんかわかんないよ! お前、いい加減その事実を正しく認識しろよ!」
ミロはそう畳み掛けるように言ったが、要約すると「知るかボケ!」ということである。何もそこまで変人変人言わなくても……とアイオリアは情けなく眉尻を垂らした。
「繰り返しになるが、オレ達の中でシャカのことを一番理解してるのって、確実に恋人であるお前なんだぞ。それなのにそのお前が何で誕生日プレゼントのことをオレに相談なんかしてんだよ? そんなことしなくても、お前ならシャカが欲しがってる物くらいわかるだろう?」
「それがわからないから来たんだろ!」
「だから、それがわからないってのがオレにはわからないんだってば!」
ミロからすれば何から何まで理解不能なのである。身も心も誰よりも近い距離にいる相手のことが何故わからないのか、それがミロにはわからないし不思議でならなかった。
「だってシャカって根本的に物欲がないから生活必需品以外の物なんか欲しがらないし、食に関しても出された物は何でも食べるしああ見えて結構大食いなんだけど、かと言って特に拘りがあるわけでもないし、雰囲気で食事を楽しむタイプでもないから誕生日ディナーってのもプレゼントとしては今一つしっくり来なくてさ」
それより以前に外に食事に行くとなると一般人ぶるのが面倒臭いって難色示すし……と今度はアイオリアが溜息をついた。
「それなら無理に特別なことしようとしなくていいんじゃないのか? 常日頃のあいつ見てても思うし今の話聞いても思ったけど、当の本人が自分の誕生日なんて気にも止めてなさそうなんだよな。ぶっちゃけ、何もしなくても大丈夫なんじゃないか? ってのがオレの率直な印象なんだが」
「うん、まぁそれもそうかも知れないんだけど、だからと言って知らんぷりなんか決め込みたくないし、プレゼントするからにはシャカに喜んで欲しいし……」
「まぁ、ガン無視ってわけにもいかないってお前の心情はオレも理解はできるけどな。それなら当日ケーキでも持ってって、あいつの誕生日祝ってやればいいじゃん。て言うかあいつならケーキすらなくてもただ一言お前が「誕生日おめでとう」と言ってやれば、それで十分喜んでくれそうな気がするけどな」
ミロは適当にそんなアドバイスを送っているわけではもちろんなく、自分の持っているシャカに対する印象と今のアイオリアの話を総合して割と真剣にそう結論を出したのである。
「うん……オレもそう思わないでもないんだけど、でも先月のオレの誕生日の時にシャカがしてくれたこと考えると、せめてそれに釣り合うくらいのことはしてやりたいなって思ってさ」
「何をしてもらったかは知らないけど、でもシャカの奴、自分のことには無頓着なくせにお前のことには意外と気配りしてるんだ。へぇ〜、意外」
「意外かな?」
「意外だよ。お前以外の人間は、まず間違いなくオレと同じこと言うと思うぜ。でもま、考えてみりゃ単なる同僚と恋人じゃ、態度や対応が違うのは当たり前の話ではあるんだがな」
それでもあのシャカがと思うと俄かに信じがたいというか、何とも想像し難いものがあるというのが率直なところだが、自分達が知らないと言うよりアイオリアしか知らないアイオリアにしか見せない一面をシャカが持っていることに、間違いはないだろう。
「改めて言っておくが、オレにはこれ以上のことは何も言えんしわからないからな。お前ももうちょっと頑張って知恵絞ってみて、それでもダメなら開き直って直接シャカ本人に何が欲しい? って聞いちまえばいい。多分、あいつなら深く気にもせずにあっさり答えてくれると思うぞ」
「うん……」
やや歯切れ悪く返答しながら、アイオリアは小さく頷いた。