翌日。
アイオリアにああは言ったもののやはり何となく気になり、ミロは一人で処女宮を訪問した。
ミロは珍しく私室の中で寛いでいたシャカに向かって、開口一番こう尋ねた。
「お前もうすぐ誕生日だろう。何が欲しい?」
「は?」
座を勧める間もなく突然そんな問いを投げつけられ、さすがのシャカも面食らったように間の抜けた声を上げた。
「だから、お前もうすぐ誕生日だろ。誕プレ何が欲しい? って聞いてんだけど」
「……お前が私に誕生祝いをくれるのか?」
どういう風の吹き回しかとシャカは訝しんだが、ミロは笑って違う違うと首を左右に振りながら、
「オレじゃなくてアイオリアな」
「アイオリア?」
シャカが小首を傾げて聞き返すと、ミロは今度は首を縦に振り、
「そう、アイオリア。あいつさぁ、来るべきお前の誕生日に何をプレゼントしようかって、今ものすごく頭を悩ませてるんだよ。お前を喜ばせたいけどいいプレゼントが思いつかないってオレのとこに相談に来たんだけど、正直そんなことオレに相談されても困るんだよな。だからオレに聞くな、もうちょっと自分で知恵絞れって突き放したんだけど、そうは言ったものの、あいつ1ユーロ禿できるんじゃないかって心配になるレベルで頭悩ませてたから、つい見かねちゃってさ。あの様子だと自分でお前に直接聞くなんてことはしなさそうだし、それならオレが一肌脱いでやるかと思ってこうやって直接お前に聞きに来たってワケ。当事者じゃないオレが聞く分には問題ないだろうと思ってな」
一通り経緯を説明してからミロは「で? お前何が欲しいの?」と立て続けにシャカに問いかけた。問われたシャカは若干困惑したように僅かに表情を動かし、ほんの数秒程考えるようなそぶりを見せた後にあっさりとこう答えた。
「何が欲しいと問われても、欲しい物など別にない」
「あー、お前ならそう答えると思ってたよ。つかアイオリアもそう言ってたけど、お前本っ当に物欲がないんだな。なるほど、アイオリアが頭を悩ませるわけだ」
概ね予想していた通りの答えが返ってきて、ミロは思わず苦笑いを零した。
「私はアイオリアのその気持ちだけで充分だ、あとは何もいらぬ。お前からさりげなくそう伝えておいてくれればよい」
「それも言うと思ってたけど、アイオリアの方はそれで済ませたくないから頭悩ませてるわけでな……」
そういうとこは本当に鈍いんだよなこいつ……と内心で溜息をついてから、ミロはふと何かを思いついたように表情を閃かせ言葉を継いだ。
「あ、そうだ、欲しい物がないなら何かアイオリアにして欲しい事でもいいんじゃないか?」
「え?」
「だから、お前がアイオリアにして欲しい事だよ。それなら何かあるだろう?」
「アイオリアに、して欲しい……事……」
思案するように黙り込んだシャカは、だが直後にいきなり閉じていた目を開き、ミロを思いっきり驚かせた。反射的に身構えてしまったミロだったが、すぐにシャカがその状態でうっすらと頬を染めていることに気づき、目を丸めた。
「その反応……って……えっ……?」
アイオリアにして欲しい事と聞いてこの反応が返ってきた、ということはつまり……いやでもこいつら付き合い始めて結構経ってるし、いくら何でもそれは……いやいやでもこのシャカがこんな反応を示すってことはやっぱり……と瞬時にあれこれ考えを巡らせたミロは、意を決してシャカに尋ねた。
「なぁシャカ……つかぬことを聞くがまさかお前達は、その……まだ、なんてことはない、よな?」