そして9月19日。
誕生日だからと言って、シャカの生活サイクルが変わるわけでもない。通常のオフの日と同じ時間に起き、朝食をとってから、シャカはいつも通り蓮華の台座に座り瞑想を始めた。
瞑想を始めてからどれくらいの時間が経ったのか、恋人の小宇宙が近付いてくるのを察知したシャカは、瞑想を中断して意識をそちらへと向けた。
「アイオリアか」
「ああ」
アイオリアが正面に立ち止まったタイミングで、シャカが声をかけた。
ごく短く返答しするなり、アイオリアはまだ一応瞑想中のシャカの手をおもむろに取ると、「ちょっと一緒に来てくれ」と彼を促しその手を引っ張った。
「?」
アイオリアの意図が読めず、シャカは思わず首を傾げた。アイオリアが自分をどこかへ連れて行こうとしているのは確実なのだが、一体どこへ連れて行くつもりなのか?。訝しく思いながらもシャカは黙って台座を降り、アイオリアに手を引かれるまま彼の後をついていった。
少し歩いて彼が立ち止まったのは、沙羅双樹の園の出入口の前だった。
「入ってもいいかな?」
アイオリアはシャカの方へ軽く振り返ると、律儀に彼に許可を求めた。
シャカが頷いたのを確認してから、アイオリアが沙羅双樹の園へ続く扉を開く。シャカの手を引いたまま沙羅双樹の園に足を踏み入れたアイオリアは、立ち並ぶ二本の娑羅双樹の見える場所まで行ったところで再び歩を止めると、そこでシャカの手を離しておもむろに腰を下ろした。
アイオリアが何をしようとしているのか、ここに来ても皆目見当のついていなかったシャカはその行動に虚を突かれ、思わず目を開いて彼の顔を見た。アイオリアはそんなシャカを見上げてにこっと微笑んでから、彼に向かって無言で自分の膝の上を指し示して見せた。
「あ……」
それを見て漸くアイオリアの意図を理解したシャカが、小さく短い声をあげ頬を赤らめた。
「ミロに聞いた。お前が、その、誕生日にオレに膝枕して欲しいって言ってたって。ミロに言われるまで気づいてなかったんだが、そう言えばオレ、お前に膝枕ってしてやったことなかったんだよな……」
アイオリアはそう言いながら、少し決まりが悪そうに笑って見せた。