「なぁシャカ……つかぬことを聞くがまさかお前達は、その……まだ、なんてことはない、よな?」
そうミロに問われたシャカは何が「まだ」なのかがわからず、彼にしては珍しくきょとんとした様子で目を丸めてミロの顔を見返した。
ミロは「あ、これわかってない顔だわ」とは思ったものの、さすがにこればかりはストレートに聞くわけにもいかず、
「いや、だからその、お前とアイオリアって恋人同士なわけじゃん?」
「そうだが……」
いつもと打って変わって奥歯に物が挟まったような物言いをするミロに不審を抱いたものの、だが直後にようやくミロのその曖昧な問いの意味するところを理解したシャカは、また「あ……」と短く声をあげ、今度は先刻よりもはっきりと頬を赤くした。
「……何故そのようなことを聞く?」
だがすぐ気を取り直したシャカは、頬に赤みを残したままミロにそう問い返した。
「だって『アイオリアにして欲しい事』って言った途端、お前がらしくもなく顔赤くしたりするからさ……まだなのかな? って思って……」
ミロの返答を聞いてシャカは溜息をつき、
「……それは無用の心配だ、とだけ言っておこう」
遠回しにミロのその疑念を否定した。
「そうか、そりゃそうだよな」
何となく安堵したように今度はミロがホッと吐息を零したが、
「ならば何故、あんな風に頬を赤らめたりなんかしたんだ? 今も言ったけどお前らしくもない。お前が顔を赤らめるような、アイオリアにして欲しい事って一体何なの?」
と、改めてシャカに問い直した。
「私は……アイオリアに……」
「アイオリアに?」
「膝枕、をしてもらったことが……ない……」
「は? ひ、膝枕!?」
ミロが思わず声を引っくり返らせると、シャカはキッとミロを一睨みしてからごく小さく首を縦に振ってみせた。
「膝枕って、この膝枕?」
自分の膝を指差しながらミロが重ねて問うとシャカは頷き、
「腕枕ならよくしてもらうのだがな」
「あ……そ……」
これってどさくさに紛れて惚気てんのかな? 惚気てんだよな……でもそう言う惚気を真顔で、しかも上から目線のでかい態度でしてくれるなよ、正直リアクションに困るから……と、ミロは内心でぼやいていた。
「膝枕くらいなら別に誕生日にかこつけなくても、アイオリアにやってくれって一言言えば済むことだと思うんだがな。でもさ、その、何て言うか、お前達もうそれよりもずっと先まで行っちゃってるのに、今更膝枕?」
「……今更だからこそ言えぬのだろう」
「あ、なるほど」
とっくに行くところまで行ってから、まるで後戻りをするかのように膝枕をしてくれなんて逆に照れ臭くて言えないってことか。なるほど、その照れ臭さがあのシャカらしくもない可愛らしい反応に繋がったってわけだ――とミロは理解し、思わず小さく吹き出してしまった。
「何がおかしい?」
「いや、おかしいっていうか可愛いなって思って」
オレ、お前のこと可愛いなんて思ったの初めてだよ、とくすくす笑い始めたミロを、シャカは複雑な気持ちで見つめることしかできなかった。
ミロに可愛いなどと言われたことは心外なのだが、その言葉が彼の悪意ではなく好意から出たものであることは疑いようがなく、さすがにシャカも文句を言えなかったからである。
「オッケーわかった。それじゃオレからそれとなくアイオリアに言っておいてやるよ、お前の望みをな」
やがて笑いを収めたミロが気さくにそう請け負うと、シャカはやや強張っていた表情をふと和らげ、微笑んで見せた。