「なぁカノン、"ひまわり"って花、知ってるか?」

今日、仕事が休みのオレが昼頃に起きだして飯を食っていると、ミロが突然ウチにやってきた。我が物顔で私室の中まで入ってくると(これはいつものことだが)、ミロはオレの前に腰掛け、いつになく神妙な面持ちでオレにいきなりそんなことを聞いてきた。

「ひまわりぃ!?」

何だそりゃ? ってか、人が飯食ってる最中に上がり込んできて、出し抜けに何を聞きだすんだ、こいつは?。

「その花がどうかしたのかよ?」

オレの反応で、オレもその花を知らないってことを見て取ったらしいミロは、オレの質問には答えずにう〜ん……と頭を捻った。

「何なんだ……お前は……」

こいつは時々……いや、しょっ中ワケのわからない行動を起こす。何の因果かこいつとはいわゆる特別な付き合いをしているオレは、さすがにある程度はこいつのこのワケのわからん(でも本人の中ではしっかりと1本に繋がってるらしい)行動パターンに慣らされ、ちょっとやそっとのことでは驚きもしなくなったけど、それでもやっぱり呆れずにいられない時もある。

「いや、あのさぁ……って、それ美味そうだね〜。オレも腹減った〜」

謎の行動の理由を話始めるのかと思いきや、ミロはオレの昼飯に目をつけて、さり気なくそれをおねだりした。いや、これはさり気ないとは多分、絶対言わないんだけど……何故かミロが言うとスッゲーさり気なく聞こえてしまうところが不思議だった。

「お前、飯食ってないの?」

オレが聞き返すと、ミロはこくこくと頷いた。

やれやれ……しょーがない奴だ。こいつの場合、腹減ってる時にはそれでなくても鈍い思考回路が更に低下するから、余計に話が前に進まなくなるんだ。とにかく何か食いモンやらねーと……確かサガ、もう1つ作り置いてってくれてたよーな気が……。オレは食事を中断して渋々席を立ち、キッチンへと向かった。朧げな記憶を頼りに冷蔵庫を覗くと、やっぱり今オレが食ってるのと同じグラタンとサラダが、もう1皿ずつちゃんと盛られた状態で入っていた。今日はサガは仕事で昼飯は職場で食うはずだし、夜は夜でちゃんと飯作ってくれるはずだから、これ、ミロに食わせちゃっても大丈夫だよな、多分。でも何かこんな風に上手い具合に一人前だけ残ってるのって、何かサガ……ミロが来るのを見越して作ってったんじゃないかと思えるくらい、絶妙なんだけど……いや、これはさすがにオレの考え過ぎかな。まぁいいや、とりあえずこれ食わせちゃえ。

レンジでグラタンを温めて、サラダにドレッシングをかけてミロに出してやると、ミロは嬉しそうにそれをパクつき始めた。ってか、お前、最初から昼飯目当てだったんだろう?。

「やっぱサガの作る飯は美味しいね〜」

でも喜々としてそれを頬張りながら、無邪気にんなこと言われると……結局文句の1つも言えなくなんだよな。くそ、大概オレもこいつに甘いんだ……まぁ、サガほどじゃねーけど。

オレは諦めて席に戻り、食事の続きを摂ることにした。くそっ、ミロに構ってる間に冷めちまったじゃねーか! でも温め直すのも面倒臭いので、オレはそのまま冷めちまったグラタンをそのまま食った。

普段は賑やかなミロも、食ってる間だけは静かだ。オレ達は黙々と食事をして、早々にそれを腹の中に収めた。

「で?。その"ひまわり"ってのは何だよ?」

食事を終えてとりあえずテーブルの上を簡単に片付けてから、オレは食後のコーヒーをミロに淹れてやった。もちろん、自分のついでにだけど。
でもって昼飯で中断していた話を切り出すと、ミロはそうそうと思い出したように頷いて(そもそも、それの為に来たんじゃないのか?)、

「カノン、知らない?。その"ひまわり"って花のこと」

コーヒーにミルクを落としながら、オレに聞き返した。ったく、本題に入るのに何分かかったんだよ?。

「知ってたらこんなこと聞く訳ないだろ?」

「それもそうだよな……そか、カノンも知らないのか……」

ちょっとがっかりしたようにそう言って、ミロはコーヒーを啜った。

「何でいきなりそんなこと聞きだすんだよ?」

とは言え、相変わらず話の本質は見えてこない。オレがミロに先を促すと、

「うん、いや氷河がさ……」

「氷河?。ああ、キグナスか……キグナスがどうかしたのか?」

何でここでいきなり青銅のキグナスの名前が出てくるんだ?と思っていると、ミロはごそごそとパンツのポケットを漁り始めて、何やら小さなビニール袋を取りだして、それをテーブルの上に置いた。

「……何これ?。ハムスターの餌じゃん」

ビニール袋の中には、縦縞模様の木の実のようなものが数粒入っていた。その木の実のようなものはオレも見たことがある。そう、ハムスターの餌だ。

「うん、それもそうなんだけど、これ……その"ひまわり"って花の種なんだって。氷河が昨日持ってきて、オレにくれたんだよ」

花の種?。へぇ〜、てっきり木の実だと思ってたけど、これって花の種なんだ。でもその花の種を、キグナスが何でミロになんか渡してったんだ?。

「何でキグナスがお前にこんなモン置いてくんだよ?。あいつ、あげる人間間違えてねえか?。花っつったら、アフロディーテかシャカだろう」

「いや、オレにって置いてったんだ。是非育ててみてくださいって言ってさ」

ミロ自身もどうやらキグナスの意図がまるでわかってないらしく、首を傾げている。そりゃミロだって首の1つも傾げたくなるだろうさ、オレだって不思議でしゃーないもんな。何考えてんだ? あいつ?。
まぁ10歩譲ってムウか、ウチの兄貴にってんなら話はまだわかるけど、よりにもよってミロ……このミロに花の種置いてって育ててくださいって、キグナス、それは超無理難題ってモンだと思うぞ。

「お前、何で?ってその理由をキグナスに聞かなかったのか?」

「聞いたよ。したらさあいつ『ひまわりって、何かミロに似てるんです。だから天蠍宮に植えてみて欲しくて』な〜んつって笑ってんだよね。」

はぁ? ミロに似てる?。どんな花だ、そりゃ??。バカでかくて毒々しい真っ赤っ赤な花なのか? その"ひまわり"ってのは。

「どんな花なんだよ?。お前に似てるって……お前に似てる花なんか、あんのか?」

どんなに想像力を駆使しても、全然イメージわかないよ。ミロと花って、結びつけようとしても結びつかないけどなぁ?。キグナスって目が悪いか感性が腐ってるかしてんじゃねぇの?。そういや、あいつの聖衣って確かミロの血で修復受けてんだったな。あ〜、それでバカまで伝染っちゃったのか、可哀相に。

「それがわかんないから、カノンに聞きに来たんじゃないか!」

オレの言い草にちょっと口を尖らせながらミロが言う。

「オレだって知らねえよ。キグナスに聞けよ、どんな花なんだって」

「青銅のガキに面と向かって知らないなんて、みっともなくて言えるかよ! 第一、あいつはもうカミュと一緒に、シベリア行っちまったよ!」

聖衣のことで恩義を感じ、更に自分の師(正確に言うと「師の師」らしいけど)であるカミュの親友で、かつカミュが死んでる短い間はミロが自分の後見人だったってこともあって、キグナスの中でミロはか〜な〜り高いポジションにいるらしい。カミュに対して程じゃなくても、結構ミロのこと崇拝してたりするんだよな。ミロもそれがわかってるから、キグナスの前じゃスカして先輩面してるし……なるほど、その意地と年長者としてのプライドが手伝って、知らないとは言えなかったわけね。全くキグナスに見せてやりたいよな、こいつがサガに子供みたいに甘えてるとことか、オレにゴロゴロ懐いてるとことか。一気にイメージ崩れるぞ、きっと。

ま、今はそんなことどうでもいいのか……。

「じゃあ、アフロディーテだな。あいつは花のエキスパートじゃん」

「やだよ、絶対バカにされるもん」

……そりゃそうだな。アフロディーテも一応こいつより年上だから、何かってーとこいつのこと子供扱いしてるもんな。オレよりもあからさまに。行ったらきっと子供扱い通り越して、幼児扱いだな。

「じゃシャカに聞けば?」

「やだよ! あの天上天下唯我独尊男にこんなこと聞いてみろ、鼻で笑われる!!」

それもそーだ。

「なぁ、サガはいつ帰ってくんの?。サガならきっと知ってるよね?」

ほぉ〜ら来た、ミロの「サガは?」攻撃。最後の最後は必ずサガをアテにするんだ、こいつは。

「サガが帰ってくるのは夕方だ。でもな、サガだって知ってるって保証はねーぞ」

何か知ってそうではあるけどな。

「夕方かぁ〜。じゃあ、それまで待ってようかな」

ダメだっつったって待つ気でいるくせに、白々しい奴だ。

「待つのもいいけどさ、自分で調べた方が早いんじゃないのか?」

ふと思いついてオレが言うと、ミロは目をぱちくりとさせた。別に待つのが悪いわけじゃねえけど、たかが花くらい、調べようと思えばすぐに調べられるだろう。サガに聞くにしても、きちんとやることやってからじゃないと怒られるんだ、『何でもすぐ人に頼るな!』ってな具合に。しかも何故かオレだけ。

「調べるって、どうやって?」

真顔で聞き返してくるミロに、オレは軽い頭痛を覚えた。オレは時々、サガやアイオロス……ってか教皇もだが……が、こいつらにどういう教育をしてきたのか、疑問に思うことがある。わからないことは辞書を引けって、教えなかったのかね?。

「植物辞典引きゃわかるんじゃねーの?。その"ひまわり"って言葉は日本語だろ?」

オレが確認すると、ミロが黙って頷く。通常、カミュとキグナスが会話をする時にはロシア語を使うらしいが、ミロを交えるとそれを日本語に切り替えるらしい。黄金聖闘士には常識として、母国語以外に3カ国語は喋れなきゃいけないと言う、暗黙の了解みたいなものがある。だからオレもギリシャ語の他に英語と日本語とドイツ語は完全マスターしてるし(因に海闘士時代は英語で会話してた)、このミロですら英語、日本語、そしてフランス語はペラペラだったりするのだ。

「サガの書斎には植物辞典くらいあるとは思うけど……日本語のはないかも知れないなぁ〜。教皇宮の資料室行くか?」

日本名よりも英語名がわかってる方が調べやすかったんだけど……まぁ、文句言っても仕方ないな。あそこに行けば、多分、日本語の植物辞典くらいあるだろう。

「カノン、一緒に行ってくれるの?」

1人で行けっつったって、ぜってー行かないクセに……。とことん白々しいやつだ。

「……これ、飲んだらな」

仕方ないから付き合ってやることにする。はっきり言って面倒臭いけど。でもせめてコーヒーくらいはゆっくり飲んで……と思ってたら、ミロのやつ、おもむろにミルクピッチャーを取って中のミルクをガバッとオレのカップの中に入れやがった。わっ!バカ、てめぇコラ何すんだっ!! 

「いや、こうすりゃコーヒー冷めるから、早く飲み終わるかと思って……」

オレがミロに文句を言うと、ミロはしれっとした顔でそう言いながら、自分のカップにもガバッとミルクを入れた。……やることが短絡的って言うかバカって言うか……確かに冷めるけど、不味くなるじゃねーかよ! ちゃんと温めたスチームミルクとか、せめて牛乳入れるってんならともかく、フツーの生クリームをガバッとなんて入れるかフツー!? オレは呆れてものも言えなくなったが、かと言ってこれを捨てるわけにもいかず、結局ミルクの味しかしなくなった生温くて不味いコーヒーを一気飲みせざるを得なくなった。






「ねぇ〜、カノンさぁ〜」

「……何だ?」

「この中の……どこにあるんだろう?。日本語の植物辞典……」

「……………」

オレとミロは教皇宮の資料室に入り、思わずそこで立ち尽くした。

「オレ、あんまりここに入ったことないから、何がどこにあるのかなんてわかんないんだけど……」

「何言ってる、オレなんかまだ2回目だぞ」

そう、オレはすっかりコロッと忘れてた。ここにある資料の数が、言語を絶するほど膨大な数だと言うことを……。ここに入って、恐ろしい数の書架が目の前にダーッと立ち並んでいるのを見て、やっとそれを思いだした。置いてある場所の目安もついてないのに、この中からただ一冊の本を探すなんて、自殺行為に等しいかも知れない……ってか、墓穴掘ったかも知れない……。

「どうする?」

「どうする……ったって……」

どうしよう?。

とりあえず司書に聞いてみるしかないよな。……って、その司書もどこにいるのかわかんねーじゃねーか! 

「お前達、2人揃ってこんなところで何をしている?」

オレ達が正に途方に暮れていると、不意に後ろからオレと同じ声が響いてきた。振り返るまでもない、そこにいるのは

「サガ!」

直後、ミロの嬉しそうな声が響いた。そう、サガだよ! 何ていいタイミング……いや、絶妙なる以心伝心、これぞ正しく双子マジック! そう思いながらオレが振り向くと、既に尻尾振りそうな勢いのミロが、早くもサガの側に駆け寄っていた。

「お前達がこんなところに来るなんて珍しいな。どうした? 通路でも間違えてここに迷い込んだのか?」

からかうようにそう言って、サガはミロに笑いかけた。んなワケあるか! オレはそこまでバカじゃねーよ! 

「違うよ、ちょっと調べモノがあって……」

「調べ物? お前達がか?」

オレが言うと、サガはちょっと驚いたようにって言うか、モロ「意外です」ってな顔して、目を思いっきり見開いた。

「それはまたどういう風の吹き回しだ?。普段だったら頼まれてもやらないお前達が、調べ物なんて……」

やらなきゃやらないで怒るクセに……。まぁ、そりゃ常日頃のオレ達を見てる限り、ここに来ること自体が意外って気持ちはわからないでもないけどさ、何か……やっぱちょっとムカつくんですけど、その態度。あからさまに「バカ」って言われてるみたいで……。

「それはそれとして、お前達、教皇宮に来るときにはもっと服装をきちんとして来なさい。休みの日なのだし聖衣を着てこいとまでは言わんが、それじゃあまりにラフすぎるだろう。ここは遊ぶ場所ではないのだぞ、みっともない」

サガはすぐにオレ達の服装に目をつけて、軽く眉を顰めた。確かにミロはTシャツにカーゴパンツ、オレもシャツにジーンズと言うラフラフな格好ではあったが、サガ……いちいちそんな細かいところに目をつけて説教かまさないでくれよ。いいじゃん、別に仕事しに来たわけじゃないんだし、大体オレはミロに付き合って渋々来ただけなんだぞ。それなのに、何でこんな下らないことでサガに説教食らわなきゃいけねんだよ。ったくもう、サガは本当に細かいっつーか神経質すぎるって言うか小煩いって言うか……。

でもここはサガお兄様の助力をお借りしなければいけない状況なので、オレは喉まででかかった文句をグッと押し込めた。

「あのさ、日本語の植物辞典探してるんだよ。どこら辺にあるか、兄さん知らない?」

「植物辞典? 日本語の?」

オレの言葉を反芻しながら、サガは目をぱちくりとさせた。くそう、何かいちいちムカつくんですけどその態度……。

「いや、場所は知っているが……日本語の植物辞典など探して、一体何をするつもりなのだ?」

もしかしたらとは思ったけど、ホントに知ってるってよ……。よくもまぁ、覚えてられるもんだよな、こ〜んなだだっ広い資料室のどこに何があるかなんてよ。ま、サガだからな……ここにある資料や書籍、ぜ〜んぶ覚えてたって不思議はねえけどよ。

「いや、キグナスがこいつにさ……」

オレは手早く、サガに経緯を説明した。オレから話を聞いたサガはミロのことをじっと見て、

「なるほど……氷河も上手いことを言うものだな」

変に感心したようにそう言いながら、くすっと笑った。ん? てことは……

「兄さん、その"ひまわり"って花がどんな花か知ってんの?」

キグナスの意図がわかったっぽい様子のサガにそう尋ねてみると、やっぱりサガは頷いた。

「それってどんな花?。全然わかんなくてさ、それでカノンと調べに来たんだよ」

「ほう、それで珍しく自力で調べに来たのか。それは感心なことだな」

どうやらサガは一応オレ達を褒めているらしいのだが、どこをどう聞いてもけなされてるようにしか聞こえないのは、オレの被害妄想か?。

「ひまわりと言うのはキク科の一年草で、8月から9月に花をつける、日本ではポピュラーな花だ」

サガが簡単にひまわりの説明をしてくれた。が……オレもミロもはっきり言ってチンプンカンプンだった。だって、"キク科"なんて言われたってわかんねーもん。その"キク"ってのも、花なワケ?。

「そうだな、ちょうど今が種まきをするにはいい時期かも知れん。氷河もそれで種を持ってきたんだろう。そんなに育てるのが難しい植物でもないから、天蠍宮に植えてやるといい。日当たりのいい場所にな」

ふぅ〜ん、今が種蒔き時期ね……てことは、開花するまで約3ヶ月かかるのか。……って、そんなことはどうでもよかったんだ。肝心の花の姿は?。そのミロに似てるって言う、得体の知れない花の姿! オレ達が知りたいのは、それなんだけど。

「いや、どんな花かってのはわかったけど(わかってないけど)……写真見たいな、そのひまわりの……」

「こっちへ来なさい」

オレが言うと、サガはオレ達を先導して資料室の奥の方へと入っていった。位置的にはちょうど真ん中あたりか?でサガは立ち止まると、サッと書架に目を走らせて、すぐに1冊の分厚い本を取り出した。

それって、もしかして……

「これが日本語の植物辞典だ。お前達が探しに来たのはこれであろう?」

オレとミロは同時に頷いた。っつーか、こんな中からよくもまぁ、迷いもせずに1冊の本を探せるよな……我が兄ながら、感心するよ、ホント。

サガはすぐに辞典を開けると、ぺらぺらとページを捲り始めた。そして少ししてその手を止めると、その辞典をオレ達の方へ差し出した。

「これがひまわりだ」

サガはそう言って、開いたページの写真の部分を指差した。サガが指差した先には大輪の黄色い花が写っている写真があった。へぇ〜、これが"ひまわり"……か。

「何々? 『ひまわり【向日葵】・学名:Helianthus annuus L。キク科の一年草。8〜9月、茎の先に黄色の大きな花をつける。観賞用に栽培される他、種は食用になり、油もとれる』だって。へぇ〜、サガの言った通りだ」

そこに書いてある一文をミロが声を出して読み上げた。食用なのはわかるよ、だってハムスターが食ってるモン。

それにしても……オレが最初に思い描いてたイメージと随分違うなぁ、これ。スッゲーでっかくて真っ赤な毒々しい花かと思ってたけど、こんな可愛らしい花なんだな。

「……でもさぁ、これのどこがオレに似てるんだろう?」

そこまで読み上げたミロは残りの難しい部分を全てすっ飛ばし、再び写真に目を戻した。そしてそれを見ながら首を傾げてたが、でもオレはこれ見てやっと……何となくだけどキグナスの言ってる意味がわかるような気がしてきた。

「お前のその見事な金髪が、ひまわりの鮮やかな黄色の花弁に重なるのだろうな」

サガがそう言うとミロは、へっ?とマヌケな声を出して、自分の髪を一房摘んでマジマジと見た。

「でもさぁ、金髪って言うならシャカだって金髪だしさ、氷河自身だって金髪なんだぜ」

そりゃ確かに金髪が重なるってんなら、シャカやキグナスにだってそれは当てはまるよな。まぁ、同じ金髪っても3人3様で随分と印象は違うし、この写真見るかぎりだけでもシャカやキグナスってひまわりってイメージじゃねえな。

「もちろんそれだけが理由ではないだろうがな」

サガは意味あり気にそう付け加えて、また笑った。ますますわからない、と言った顔で、ミロが更に深く首を傾げると、サガは堪らないと言った様子で吹き出した。

「まぁ、せっかくだから育ててみるといい。本物を目の当たりにすれば、多分、氷河が言っている意味はわかると思うよ」

オレ達の手から辞典を取ると、サガはそれを閉じて書架に戻しながらそう言った。

「そう言うことなら……育ててみようかな?」

ミロはサガに言われて、たちまちその気になったらしい。おい、大丈夫なのかよお前、花なんか育てられるのか?。サガは簡単だって言ってたけど、こいつにゃ無理じゃねぇのかぁ?。

「そうしてやるといい。きっと氷河も喜ぶだろう」

……またサガ、そんな無責任なこと言って、ミロを乗せるんじゃねえよ。大体、キグナスなんか喜ばしたってしょうがねえだろう。それにあいつ喜ばせるならカミュでもあてがっときゃいいんだよ。

「うん、ありがとうサガ、育ててみるよ」

あ、ヤバイ、よい子のお返事モードになっちゃったじゃねえか! こうなると次に煽りを食らうのは……

「カノン、協力してくれよ。一緒に育てようぜ!」

ほぅ〜ら、来たっ! ぜってーこいつが1人で花の栽培なんかやるわけないんだっ! でもってこの場合煽りを食らうのはオレ! もう完全にわかってる図式なのに、何でお約束通りそれに乗せちゃうかなぁ!? 

「2人で一緒に頑張りなさい。それじゃ、私は仕事に戻るから……」

サガはミロとオレに笑顔でそう言い置いて、さっさと自分の仕事をすべく資料室の更に奥に入っていってしまった。くっそぉ〜、サガの奴、無責任モード大全開じゃねえか! ってか、絶対にこの状況を面白がってるだろう!? 

「んじゃカノン、天蠍宮に戻ろっか?。早速植えようよ、この花!」

ミロは嬉しそうにニコニコと満面に笑みを浮かべて、オレに言った。

くっそぉ〜、兄貴のバカっ!! オレが植物なんかろくに育てたことないの知ってるくせに! こうなるの狙ってたな、畜生!! 



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