「一体どうしたっていうんだよ?、今日は……」

アイオロスは突然火がついたように泣き始め、一向に泣き止む気配のない幼い弟をあやしながら、自宮で文字通り途方に暮れていた。

先月、アイオロスの両親が突然他界した。
両親の訃報を受けアイオロスが実家に駆け付けたとき、生まれた直後に会っただけの弟・アイオリアは、やっとではあるが伝い歩きができるくらいにまで成長していた。それでもアイオロスが唯一の身内だとわかったのか、アイオリアは一生懸命に壁を伝いながらアイオロスの元まで歩いてきて、にこにこと無邪気に笑いながらアイオロスにしがみついたのである。アイオロスの中に、弟に対する情愛が生まれたのはこの時であった。
アイオロスにもその実弟であるアイオリアにも、元々両親の他には身寄りもなく、頼れる者もいなかった。だからアイオロスが自分の元へアイオリアを引き取ったのは当然の成り行きであったが、黄金聖闘士とは言え本来であればそんな勝手は許されない。
何故ならここは女神の膝元である十二宮。例え聖闘士の身内と言えど、一般人が容易に足を踏み入れていい場所ではないからだ。
増して黄金聖闘士以外の者がここを住居にするなど、言語道断なのである。
にも関わらず、アイオロスがアイオリアを引き取ることをあっさりと教皇が許したのは、弟のアイオリアもまたアイオロス同様、黄金聖闘士となるべき宿命を背負った子供であったからだ。
もう少し成長したら候補生として宿舎へ移し、他の候補生と一緒にアイオロス自らが指導をする。
それを条件に、シオンはアイオリアを引き取ることを許可したのだった。

だがいかに黄金の宿命の元に生まれたとはいえ、今のアイオリアは幼い乳飲み子に過ぎない。
アイオロスとて黄金聖闘士とはいってもまだ10歳にもなっていない子供、赤ん坊の面倒を見るのは心身両面において大変な重労働であった。
シオンはベビーシッターとして人馬宮付の世話係を増やしてくれたが、彼らが居てくれるのはアイオロスが不在の間の日中だけ。夜間はアイオロスが一人でアイオリアの面倒を見なければならず、彼らの安息日の時にはそれが丸一日中である。
最もアイオリアは、アイオロスかいつも面倒を見てくれている世話係の者が傍にさえ居ればあまり泣くこともぐずることもないし、お腹が一杯になればすぐに寝てしまうし、夜泣きも殆どしないしで、比較的手のかからない子供であったのだが、そのアイオリアが今日に限っては何をしても泣き止まず、アイオロスをてこずらせていた。
いつもであれば泣いていてもアイオロスが抱っこをしてやればピタリと泣き止むのに、今日は大音量で泣き続けるばかり。
ミルクをやってもダメ、オシメを替えてもダメ、抱っこしてもおんぶしてもダメ、しかももう夜なので世話係も帰ってしまっていて頼れる人間はいない。
どうしたものかと、アイオロスは心底困り果てた。

「なぁ、泣き止んでくれよ……」

むしろアイオロスの方が、泣きたい気分になってしまったくらいである。
アイオロスが疲れ切った情けない声でアイオリアに言うと、また突然に、今度は電池が切れたかのようにピタッとアイオリアが泣き止んだのである。
つい1秒前まであれだけ激しく泣いていたのにいきなりピタリと止まり、それはそれでアイオロスを驚かせた。

「………何だったんだ?、一体………」

何が何やらわけがわからず、アイオロスは思わず首を傾げたが、

「オレが困り果ててたのが通じたんだな、きっと」

と勝手に解釈し、ひとまずホッと胸を撫で下ろしたのだった。
あんな調子で延々泣き続けられたら堪ったものではなかったが、アイオロスが安心していられたのもほんの束の間であった。
アイオロスの腕に抱かれていたアイオリアが、明らかにぐったりとしていたからである。
泣き腫した顔を真っ赤に染め、アイオロスの胸に頭を凭せ、四肢は力なくダランとしている。弛緩した小さな体は、ずっしりと重かった。
これは泣き疲れたからとかそういうことではない。
アイオロスの顔が、一瞬のうちに強張った。

「アイオリア?」

アイオロスは腕の中のアイオリアを軽く揺すってみるが、アイオリアはぐったりしたままである。

「アイオリア、アイオリア?」

名前を呼びながら2度3度と軽く揺するが、やはりアイオリアはぐったりとしたままピクリとも動かない。アイオロスの顔色が、瞬く間に蒼白になった。
一体何がアイオリアの身に起こったのか、アイオロスには皆目見当もつかなかったが、とにかくこのままにしておいては大変なことになる……そう直感で感じ取ったアイオロスは、イスの背に掛けっぱなしにしておいた上着を無造作に掴むと、それにアイオリアを包んで一目散に私室を飛びだした。
とにかく世話係の家に行けば、何かしらの対処をしてもらえるはずだ。
アイオロスではどうにもこうにも対処の仕様がなく、他に助けてくれる人間は思い当たらない。夜間だの業務時間外だの何だの、そんなことを気にしている暇はアイオロスにはなかった。
人馬宮を飛び出したアイオロスは、アイオリアを抱えて一直線に十二宮の階段を駆け降りた。





とにかく下へ下へ、一刻も早くと脇目も振らずに走っていたアイオロスがその意に反して足を止めたのは、双児宮に入ってすぐであった。
焦りに気が急いていたアイオロスは、この時自分がどこの宮まで降りてきていたのかさえ把握していなかったが、双児宮に入るとすぐに私室のドアが開き、サガが中から姿を現したところで、反射的に止まってしまったのであった。

「アイオロス、どうしたんだい? そんなに慌てて……」

「サガ……何で……?」

明らかに自分がここに入ってきたのがわかって中から出てきた様子のサガに、アイオロスは切迫した状況を一瞬だけ忘れてそう聞き返した。

「上から君の小宇宙が降りてくるのを感じて……しかもいつになく乱れていたからちょっと気になって……」

言いながらサガは、アイオロスが胸に抱いているアイオリアに目を落とした。

「……その子が君の弟?」

アイオロスがまだ赤ん坊の弟を引き取ったということは、サガも話に聞いて知っていた。
もちろん詳しく話を聞いたわけでも、アイオロス本人と話をしたわけではなかったが、それでもアイオロスが赤ん坊を抱いていれば、それが引き取った弟なのだということは嫌でもわかる。

「う、うん……」

「どうかしたの?」

アイオロスが何やら非常に焦っているのは、その様子からも小宇宙の乱れからも一目瞭然だった。
サガがアイオロスにそう聞き返すと、アイオロスは驚いたように目を瞠った。
サガがそんなことを聞き返してきたことが、いや、自分の様子がおかしいことに気付いて私室から出てきたこと自体が、アイオロスには驚きであり戸惑いだったのである。
それは平素のサガのアイオロスに対する態度を思えば、無理もない話だった。

「あ、実は……」

だがアイオロスはすぐに先を急いでいることを思い出し、といって心配してくれているらしいサガを無視して素通りすることも出来ず、アイオロスはかなりざっくばらんにかい摘んでサガに事情を説明した。
サガはお世辞にも理路整然とは言えないアイオロスの説明を聞き終わると、そのままアイオロスを通してくれるのかと思いきや、おもむろにアイオロスの傍に歩み寄り、腕の中でぐったりしたままのアイオリアを覗き込んだ。

「ちょっと……いい?」

「えっ……?」

アイオロスが頷くよりも早く、サガはアイオロスの腕の中のアイオリアに向かって手を伸ばした。
サガの行動の1つ1つが信じられずに呆然としていたアイオロスがふと我に返ったときには、もうアイオリアはサガの腕の中に抱き取られていた。

「熱が出てる」

「えっ!?」

「この子、発熱してるんだよ」

「熱……?」

きょとんとした目をパチクリと瞬かせているアイオロスに、サガは腕の中のアイオリアの小さな額に浮かぶ汗を指先で拭いながら、

「気付いていなかったのかい?」

ボケッとしたままのアイオロスに、微苦笑を浮べて聞き返した。

「いや、全然気付かなかった……」

アイオロスは、ゆるゆると首を左右に振った。

「結構出てるよ。顔だって真っ赤だし、抱っこしてて気付かなかったの?」

「いや、赤ん坊っていっつもあったかいからさ。それにとにかくすげー勢いで泣いてたから、そのせいかと思ってた……」

事の重大さをまるで理解してないかのような、どこかのんびりとしたアイオロスの物言いに、サガは一瞬だけ呆れたような表情を端正な貌に閃かせた。

「激しく泣いていたのは、体調が悪くて苦しかったからだと思う。それを泣いて君に訴えていたんだよ」

「じゃ、急に泣き止んだのは……?」

「多分、今度は熱のせいで泣く元気がなくなったんだろうね」

「たっ、大変だっ!!」

ようやく事の重大さを理解したアイオロスが、先刻以上に焦った様子でサガの腕からアイオリアを抱き取った。

「待って! アイオロス!」

そのまま何も言わずに駆け出したアイオロスを、再びサガが呼び止めた。

「悪いけど急ぐんだ。熱が出てるってわかった以上、もう1秒たりとものんびりしてられないんだよ!」

それでも足を止めて、アイオロスは振り向き様にサガに言った。
サガに言われるまでアイオリアが発熱してることにも気付かなかったアイオロスだが、それとわかったからにはもう一刻もじっとしてなどいられない。
早く何とかしなくては……と、アイオロスはただただ焦燥感を募らせるばかりであった。

「気持ちは分かるけど、落ち着いて。一体その子を抱えてどこへ行くつもりなんだい?」

サガの方は年に似合わず落ち着き払った様子で、冷静にアイオロスにそう聞き返した。
だがそのサガの落ち着き方が、アイオロスの焦りを余計に煽った。

「昼間こいつの面倒を見てくれてる世話係の人のところだよ! オレじゃどうしていいのかわかんないんだっ!」

だからこんなことをしている暇はないんだ! と、危うく怒鳴ってしまいそうになったのを寸でのところで押し止めて、アイオロスは早口で答えた。

「そういうことなら、教皇宮に行って教皇様にご相談した方が早いよ」

「えっ?」

「教皇宮には教皇様付の医者がいるから、すぐに何かしらの対処はしてもらえると思う。人馬宮の世話係の人なら、住んでいるのは麓の村だろう? 今からそこまで行って、それから医者に行くなり呼ぶなりするよりも、双児宮(ここ)からでも教皇宮に引き返した方が距離的にもずっと近いよ」

「あ……」

焦るばかりで全く冷静な判断が出来ていなかったアイオロスは、サガに言われて今やっとそのことに気がついた。
確かにサガの言う通り、教皇宮には教皇付の医師が24時間常駐している。麓まで降りていってから医者を頼むより、教皇宮に引き返したほうが何倍も早く、そして確実であるのだ。

「さ、行こう」

その場でピタリと動きを止めたまま、また呆然と立ち尽くしているアイオロスの肩を軽く叩きながら、サガが促した。

「行くって、どこへ?」

「教皇宮に決まっているだろう?」

さらりと言われたその一言に、アイオロスは我が耳を疑うほどに驚愕した。

「……サガも一緒に……行ってくれるの……?」

サガの言い方はどこからどう聞いてもそういう意味にしか聞こえなかったが、やはりアイオロスにはすぐには信じられず、自分の聞き間違いか勘違いかと、何故か恐る恐るといった様子でサガにそう聞き返していた。
サガは直接的には何も答えずに小さく微笑をすると、さぁ早くともう一度アイオロスを促し、今アイオロスが降りてきた方へと先に歩き始めた。

「あ、ま、待って、サガ!」

アイオロスが慌ててサガを追う。
すぐにサガに追いついたアイオロスは、今下ってきたばかりの階段を、今度はサガと並んで上ることになったのだった。




「はぁ、よかった……一時はどうなることかと思った……」

教皇宮を出るなり、アイオロスはそう呟いて大きな安堵の溜息を吐き出した。

サガと2人でアイオリアを抱えて教皇宮に飛び込み、ちょうど仕事を終えて私室に引き取ろうとしていた教皇シオンを捉まえてアイオリアのことを話すと、シオンはすぐに控えている医師を呼んでくれた。
最もアイオリアの様子をシオンに説明したのはサガで、その後駆け付けた医師に同様の説明をしてくれたのもサガだった。アイオロスは幼い弟の初めての病気にかなり動揺しており、満足にそれを伝えることもできなかったのだ。
鼻持ちならなくすら見えていたサガの落ち着きと冷静さが、初めてアイオロスには頼もしく見え、サガが一緒に来てくれて本当に良かったと心の底から思ったのだった。自分一人ではどうなっていたか、考えたくもなかった。

幸いアイオリアの発熱は乳幼児によくある突発性のもので、重大な病ではないとの診断がすぐに医師から下された。
ここに運び込んだ時には高熱でかなりぐったりしていたアイオリアも、投薬と水分の補給を受けると間もなく容体も落ち着き、何事もなかったかのようにすやすやと静かな眠りに落ちていた。
大事を取ってアイオリアは今晩はこのまま教皇宮で医師が様子を見てくれることになり、アイオロスとサガは2人で帰宅の途についたのだった。

アイオロス自身が無意識のうちに口にした通り、本当にどうなることかと冷や冷やしていただけに、思いの外軽く済んでアイオロスも一安心したのだが、緊張感が緩んだ途端に一気に気が抜けてしまい、今度は大きな疲労感に襲われることになった。
アイオリアを引き取って初めて、アイオロスは心の底から赤ん坊の面倒を見るって大変なんだと実感した。

「本当によかったよ、大変な病気じゃなくて」

アイオロスの独り言に同調したサガの声で、アイオロスは俯けていた顔を弾かれたように上げてサガを見た。
くすっ、と小さな笑い声がアイオロスの耳に届く。それはアイオロスが初めて聞いた、サガの笑い声だった。

「あ………」

自分の頬が、カッと熱くなったことがアイオロスにもわかった。
サガと出会ってから三年。常に間近にいながらも遠い存在だったサガと、こんなに近い距離でこんな風に向きあったのも、初めてだった。

「あ、あの……ありがとう、サガ……」

モゴモゴと口篭りながら、アイオロスはようやくサガに向かって礼を言った。

「オレ、こんなこと初めてだったからもう何が何だかわかんなくて、パニクっちまって……その、何かみっともないとこ見せちゃって……」

羞恥とそれ以外の不思議な感情とに頬を真っ赤に染めながら、アイオロスは決まりが悪そうに頭を掻いた。

「別にみっともなくなんかない。小さな赤ん坊のことだし、わからないのは当然だよ。それに身内なんだからなおさら焦ってしまう気持ちもわかる。僕が君の立場でも、きっと同じようになったと思うよ」

サガは気休めに言ってくれたのであろうが、それでもそのお陰でアイオロスの気持ちは随分と軽くなった。

「でもサガがいてくれなかったら、オレ一人じゃどうなってたかわからなかった。本当にありがとう、サガ、助かったよ」

アイオロスはサガに、改めて礼を言いながら頭を下げた。
あの時サガが自分の異変を感じて双児宮から出てきてくれなければ、適切な助言をしてくれなければ、こんなにも迅速に事は解決しなかっただろう。
アイオリアも幸い大きな病気じゃなかったから良かったが、もしこれが一分一秒を争うような病気だったら、世話係の住む村まで降りていく間に取り返しのつかないことになっていたかも知れないのだ。
これから先も小さな赤ん坊を抱えている以上、今晩と同じようなことが起こらないとも限らない。
だが今度はアイオロスももっと冷静に、落ち着いて対処できるようになるだろう。それも今日のサガの助言があってこそだ。

「そんな風に礼を言われるようなことじゃないけど……」

今度はサガが気恥ずかしさに頬を染めた。

「それにしても赤ん坊ってのはホント、大変だよ。今晩それを思い知った。この先がちょっと不安になっちまったよ」

アイオロスの方も照れを隠すようにして笑い声を立てながら、軽く愚痴を溢した。

「確かに小さな赤ん坊がいると大変だろうし、わからないことも多いと思うけど、1つ1つ学んでいくしかないよね。それにいつまでも赤ん坊のままってわけじゃないし、何かと手がかかるのもほんの少しの間だけだよ」

びっくりするほど大人びたことを言うサガに、アイオロスは思わず唖然として黙り込んでしまった。
確か自分とサガは同じ年であったはずだが、ついそれを疑いたくなってしまった程、精神的にはサガの方が遥かにしっかりとしていた。
それと同時に不意に我に立ち返ったアイオロスは、今こうして自分がサガと会話を交わしながら並んで歩いていることに、信じられない思いを抱いていた。

あんなに自分と関わり合いになるのを避けていたサガが、何故いきなりこんな風に自分に接してきたのだろう?。
困っている自分を助けてくれ、そしてこうして励ましてくれて、優しく穏やかな笑顔を見せてくれる。
あれほどまでに自分を避けていたサガの、アイオロスから見れば余りに突然の変貌ぶりに、アイオロスは戸惑わずにはおれなかった。

「早く大きくなって欲しいけどな。今日みたいな思いはもう、まっぴらごめんだよ」

何故? とその理由(ワケ)をサガに問い返したい衝動を押さえ込み、やっとの思いでそう言うと、アイオロスはまたわざとらしく笑い声を立てた。
そのわざとらしい笑いにつられたかのように、サガもまたくすりと小さな笑いを溢す。

「これからは僕で力になれることがあったら協力するよ」

さり気ないサガのその言葉に、アイオロスはまたも大きな驚きに包まれた。
目をこれ以上ないくらいにまで大きく見開いて自分を凝視するアイオロスに、サガはこれまでとは違うはっきりとした笑顔を向けたのだった。




その日を境に、アイオロスとサガの関係は180度急転した。
協力するよとの言葉通り、以来サガはアイオロスを助けて幼いアイオリアの面倒を一緒に見てくれるようになり、日中も一緒にトレーニングやら勉強やらに励むことが多くなった。
サガの方に一体どんな心境の変化があったというのかアイオロスにはさっぱりわからず、最初こそ少なからず戸惑いを覚えたものの、それもほんの僅かな期間であった。
日が経つにつれてそんな細かいことはどうでもいいとアイオロスは思うようになり、友達にはなれないと完全に諦めていたサガと、こうして友情を育むことができるようになったことを、素直に喜ぶようになっていた。
三年もの間あんなにギクシャクしていたのがまるで嘘か夢だったかのように、2人は急速に友誼を深め合い、気付いたときには互いが互いの大切な親友となっていたのだった。

そんな中でアイオロスの、サガを友人として大切に思っていたはずのその気持ちが、いつごろから別の形へと変化を遂げたのか、本人にも明確にはわかっていなかった。
赤ん坊だったアイオリアが成長し、他の同い年くらいの子供達と共に黄金聖闘士の候補生となった頃には、アイオロスは友人としてではなく『特別な存在』としてサガを意識し、誰よりも大切に思うようになっていたのである。

数年後、アイオロスが胸に秘め続けた自分への想いを知ったサガは、アイオロスが望んだ通りにその想いに応えてくれたが、ただサガ自身がいつ頃からアイオロスを、アイオロスがサガを思うのと同じように大切に思うようになってくれていたのか、それだけははっきりとはわからぬままであった。


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