「へぇ〜………」

いくつかの感情が綯い交ぜになったような複雑な表情で、異口同音に間の抜けたような声をあげたのはアイオリアとミロであった。
2人がマジマジと見る視線の先には、照れ臭そうにしているアイオロスが座っており、ミロの隣ではカノンが面白くなさそうに頬杖をついて、横目でアイオロスを見遣っていた。

4人がいるのは獅子宮のリビングだが、この4人がこうして顔をつきあわせていること自体、非常に珍しいことであった。
アイオロス、アイオリア、ミロの3人だけなら珍しいことでも何でもない。ここにカノンがサガ抜きで加わっていることが、かなり珍しいことなのである。最も意図的にではなく、単なる偶然というか成行き上そうなってしまっていただけだが。
今日は仕事が休みで暇を持て余していたミロがカノンを誘って獅子宮に遊びに来たら、たまたま同じく仕事が休みだったアイオロスが先客として獅子宮を訪れていたのである。アイオロスはこの宮の主であるアイオリアの実兄であるのだから、いつ何時ここを訪れていても全くおかしくはなく、それだけにアイオロスが居るからといって即回れ右をするわけにもいかず、結局カノンはほぼ渋々といった感じでこの場に同席する羽目になったのだ。
そして最初他愛のない世間話から始まったはずの会話は、どこをどうすっ転んだのか、いつの間にかアイオロスとサガの馴れ初め話になっていたのである。
主にミロとアイオリアが聞かせろ聞かせろとせがんだせいであるのだが、聞きたくないと思う反面でやはりそのことに関心のあるらしいカノンも、結局気のない素振りを装いつつもしっかりとアイオロスの話に耳を傾けていたのだった。

「オレ、てっきりアイオロスがサガに一目ボレして、押して押して押しまくってサガ落としたんだと思い込んでたけど……」

「オレも……」

ミロの言葉に同意しながら、アイオリアが頷く。
普段のアイオロスとサガを見ている限りそう思われても仕方のないところもあり、そのことは少なからずアイオロス自身も認めているので、別にその勘違いを咎めたりする気はなかった。

「まさか3年間もろくすっぽ口もきかないで反目しあってたなんて、思わなかった。ていうか、今でも信じられないんだけど……」

だが初めてアイオロスの口から語られた真実は、ミロやアイオリアの予想を大きく覆すものだった。
ミロ達が物心ついた頃には、アイオロスとサガはいつも一緒に自分達の面倒を見てくれた、頼りになる先輩で兄で親のような存在だった。
いつも2人が一緒にいるのは当たり前で、極論すれば2人で1人のようなところがあったのだ。
そして今の2人はと言えば、もう女神も教皇も、いや、聖域中が公認のラブラブカップルである。
教皇からの伝聞によれば、アイオロスとサガは13の年から恋人付き合いをしているそうだが、当時まだ幼かったミロ達には友達と恋人の境界線の判別がついていなかった。
それだけに2人の馴れ初めは非常に気になるところだったので、いい機会とばかりにミロが率先してアイオロスにそれを聞いてみたのである。
最初は話すのをやや渋っていたアイオロスだったが、元々サガと違ってそういうこと隠しておける性格でないだけに、結局あれよあれよと言う間に口車に乗せられて、気付けば全部話をしてしまっていたのだった。

「反目しあってたってのとはちょっと違う気もするけどな。まぁ、でも正直、私としては面白くなかったよ。あの時のサガときたらもう冷たいし素っ気無いし、なまじ容姿が整ってるだけにお高く止まってる感じがしてな、いけ好かないとも思ったものさ」

「いけ好かない?! アイオロスがサガのこと、そんな風に思ってたのか?!」

「ああ、一時だけどな」

今現在のアイオロスから判断すると、絶対に絶対に絶対にアイオロスの方が猛アタックをしてサガを落としたものとしか思えなかっただけに、次から次へと出てくるその意外な事実に、ミロとアイオリアはますます目を丸くして大袈裟に驚いた。

「それでよく恋人同士になれたね」

「それはまぁ、あの当時のことを思い出すと、私ですら不思議に思うことはあるけどね」

ミロの素朴な疑問に答えつつ、アイオロスは明るい笑い声を立てた。

「今ではあの時サガが何故私と……と言うか、他人との接触をああも極度に避けていたのか、何故訓練や礼拝が終わると1人でさっさと姿を消してしまったのか、その理由の見当が薄々つくようになったから、まかり間違ってもそんなことは思わないだろうが」

「……悪かったな。どうせ原因はオレだよ」

アイオロスの言葉に、ムスッとしたままカノンが投げやりな口調で吐き捨てるように言った。
アイオロス自身それを言うつもりは毛頭無かったのだが、確かにカノンの言う通り、原因は当時存在を隠匿されていたカノンにあったのだ。
現世に復活後、サガに双子の弟がいたことと、彼がここまで存在を隠匿され続けてきた経緯、そしてかつての兄弟間の確執などを知ったとき、アイオロスは初めて出会った当時のサガの言動の裏にあったものが何だったのか、漠然とながらわかったような気がしたのだった。

「いや、別にそれを今更どうこう言うつもりじゃないんだけどな」

カノンが存在を隠されていたのはカノンのせいではない。それどころか、むしろカノンは当時の聖域の体制の被害者と言える。
そのカノンを責めるつもりなどアイオロスにあるわけもなく、ただそういう事情があったんだなと今になって漸く分かったという話をしただけのつもりだったのだが、それでもカノンの気に障ってしまったらしい。仏頂面を浮べるカノンに、アイオロスは苦笑いをするしかなかった。

「え、でもさ、やっぱり先にサガに『好きだ』って言ったのは、アイオロスの方なんだろう?!」

気まずくなりかけたその場の空気を、無邪気なミロの声が破る。
意識してのことなのか否かはわからなかったが、これは絶妙のタイミングであった。

「お前に見透かされてんのも癪に障るが……悔しいがその通りだ」

やっぱりなぁ〜、と、ミロとアイオリアの嬉しそうなハモリ声が響く。
相変わらずカノン1人は、面白くもなさそうに頬杖をついて目線を明後日の方向に向けていたが。

「え、それで何? 告って即OKもらったの?」

尚もミロは根掘り葉掘りアイオロスに聞いた。

「まぁな」

一言で短く答えたアイオロスの顔は、やっぱり嬉しそうというか幸せそうであった。

「その時にはもう、サガもアイオロスのことが好きだったんだな」

「そんなこと当たり前だろう。でなきゃOKなんかくれるもんか」

素っ頓狂なことをいうミロを、軽く窘めるようにアイオリアが言った。

「あれ? てことは待てよ、アイオロスの話を総合すると、アイオロスとサガの関係修復のきっかけ作った功労者って……お前?」

ミロは頭の中でアイオロスの話を整理しながら、不意にアイオリアの方に顔を向け、確認を求めるようにアイオリアに言った。

「そういうこと……になるのかな?」

それこそ乳飲み子の頃のことなので、アイオリア自身がそのことを記憶しているわけもない。
だが兄の話を聞く限り、ミロの言う通りということになるのだろう。
アイオリア的には不思議な心境だった。

「じゃ何? アイオリアがアイオロスとサガのキューピッドっでやつなのか。へぇ〜……」

楽しげにアイオリアをまじまじと見た後、ミロは視線をアイオロスの方へ戻し、

「てことはアイオロスはさ、アイオリアに感謝しなきゃいけないってことなんじゃないの?」

と、からかうようにアイオロスに言った。

「そっか。つまりオレは兄さんに大きな貸しがあるってことなんだね」

同時にアイオリアもアイオロスの方へ視線を戻すと、妙に嬉しそうに頷きながらミロの後を引き取るようにしてそう言った。
本人の記憶の有無に関わらず、どうやらこれは客観的な事実のようであるから、物心ついたときからアイオロスに頭が上がらなかったアイオリアにしてみれば、なるほど確かに自分が優位に立てたような感じがして嬉しいのかも知れない。

「バカ、お前はそれ以上に私に借りがあるんだ。苦労してお前を育てたのは、私なんだからな!」

だがそんなものがアイオロスに通用するわけもなく、アイオリアは一言の元にそれを跳ね除けられた。

「そっかぁ〜、アイオロスの一目ボレじゃなかったのかぁ〜。てっきりそうだと信じて疑ってなかったんだけど」

アイオロスとアイオリアのそんなやり取りなど素知らぬ顔で、ミロは独り言のように呟くと、両手を頭の後ろで組んで天井を見上げた。
2人は常日頃からラブラブはラブラブなのだが、誰の前でも感情を素直にストレートに出すアイオロスと、人前では比較的感情を抑制するサガの、いわば印象の違いみたいなものだろうか。それがあるからどうしてもサガというよりアイオロスの方から……というイメージが強くなってしまうのだろう。
これはミロに限った話ではなく、十二宮の黄金聖闘士のほぼ全員が、等しくそう思っていると言っても過言ではなかった。

ミロのその言い草に、一体私のことをどういう目で見てるんだ、お前は……と聞き返そうとしたアイオロスだったが、

「一目ボレは一目ボレだろ」

それより早く、今まで黙っていたカノンが突然口を開いた。

「へ?」

アイオロス、アイオリア、そしてミロの間抜けな声がハモる。
カノンは今日ここに来て初めてニヤリと唇の端を持ち上げたが、それはかなり意地の悪い微笑みであった。

「どういうことだよ?」

3人の共通クエスチョンを代表してミロが聞き返すと、カノンはますます意地悪そうに、それでいて楽しそうに笑ってから

「アイオロス、お前サガに初めて会ったとき、ビックリして声も出なかったって言ったよな?」

「あ、ああ……」

「それって、何でだよ?」

質問しているのは自分たちの方なのに、逆にカノンに問い返されて、アイオロスは口篭った。

「何で……って、サガがその、今まで見たこともないくらい可愛いって言うか、キレイな子だったからさ。それでビックリして……」

「それが答え」

「はぁ?!」

ワケの分からないことをいうカノンに、また3人は揃って間抜けな声を張り上げた。

「それが答えだっつってんの。サガに見とれて声も出なかった、それってつまり、サガに一目ボレしたってこと以外の何物でもないじゃんか。ただ単にその時はサガに相手にしてもらえなかったから、自覚してないだけの話だろ」

カノンにそう言われたアイオロスは、しばしきょとんとしたままカノンを凝視していたが、やがて

「そうか……そう言われてみれば、そうかも……」

と、我が事ながら他人事のように呟くと、そうか、それもそうだよな……とブツブツ独り言を繰り返した。
カノンが言った通り、出会ってからしばらくの間、サガと思ったように親密な関係を築けなかったせいもあり、アイオロスは全くそのことに気付かずにいたのだが、なるほどそれは盲点といえば盲点であった。
1人でブツブツ呟きながら頷くアイオロスの様子を見ながら、もう堪らんとばかりにカノンが吹き出し、声を立てて笑い始める。

「お前って、ホントに間抜けなのな」

カノンは心底楽しそうに笑ったが、ミロとアイオリアはアイオロスの手前、おかしくても大爆笑することは出来ず、アイオロスに遠慮しつつ声を殺して笑っていた。
アイオロス1人、決まりが悪そうに表情を歪めながら、憮然と腕を組んで黙り込んでいた。

「なるほど、やっぱりアイオロスの一目ボレだったってことはわかったけど……」

ようやく笑いの収まったミロが、それでも目の端にうっすらと笑い涙を滲ませながら、口を開いた。

「でもその時点ではそれを自覚してなかったわけだろ。具体的にはさ、いつごろから『サガのことが好きだ』って自覚したわけ?」

アイオロス的には不満ではあったものの、間抜けなオチがついたところでこの話は終わりになるかと思いきや、ミロは更なる質問をアイオロスに浴びせかけた。

「え? いつごろって言われてもなぁ……」

適当に躱せばいいものを、やはり躱しきれないところがアイオロスだった。
その質問を受けたアイオロスはバカ正直にそれに応じ、記憶を掘り起こし始めてしまったのである。
う〜ん、と唸りながら2〜3分ほど記憶を検索した後、

「はっきりと『これがきっかけ』とは言えんな。正直なところ、こればかりは私にもわからん。ふと気付いたときにはその……好きになってたんだよな」

首を左右に振りながらそう答えて、アイオロスは最後の自分の言葉に照れ臭そうに苦笑した。

「え〜? わからないって、そんなのアリかよ?」

だがミロはその答えに納得せず、不満そうに文句を垂れた。
本来であればミロが文句を垂れる筋合いのものではないのだが……。

「そんなのアリか? と言われても、それが事実なんだから仕方ないだろう。それじゃ聞くがな、ミロ、お前は一体いつから、何がきっかけで『カノンのことを好きだ』って自覚したんだ?」

「……えっ?」

今度はミロが返答を詰まらせた。
そしてカノンも突然自分たちの方に話を振られ、ビックリしたように表情を固まらせた後に、思わず視線を転じてマジマジとミロの横顔を見つめてしまった。
やはりカノンとしても、ミロの答えが気になるらしい。
そして1人第三者的立場のアイオリアは、兄→ミロ→カノンに順繰りに視線を走らせ、他の2人と同様にミロが口を開くのを待っていた。

「何がきっかけって、いつからって言われても……」

曖昧に答えながらミロがカノンを見遣ると、息を詰めるようにして自分を見ているカノンの濃蒼の瞳とぶつかった。

「……気がついたら……その……」

今度はミロは赤く染めた顔を伏せて、モゴモゴモゴモゴと口の中で呟く。
普通の人間であれば絶対に聞こえないであろう言葉でも、聖闘士であるアイオロス、アイオリア、カノンの耳には、それがはっきりとした言葉として耳に届いていた。

「ほ〜らな、お前だって同じじゃないか」

してやったりの顔で、アイオロスはニヤッと笑った。
あっ、とミロがそれに気付いたときはもう遅く、これはアイオロスの逆王手であった。
ミロは返す言葉を失い、カノンは……やはり何かを期待していたのだろうか、拍子抜けしたというよりは落胆したような表情を僅かに閃かせた後に、バカ!と呆れたように吐き捨てて、プイッとミロから顔を背けた。
そしてアイオリアはと言えば、自分と魔鈴の方に話が振られなくてよかったと、内心で胸を撫で下ろしていたのであった。

「人を好きになるなんてのはな、大体がしてそんなものなんだよ。何もかもがはっきりとした理由に裏付されるようなことでもないだろう」

最後は年長者らしく、落ち着き払った様子で諭すようにそう締め括ったアイオロスであったが、

「じゃあ……サガは?」

今度こそこの話は終わり、とアイオロスが思ったのも束の間、今度はやや遠慮がちにアイオリアが質問を投げてきた。

「は? サガ?」

「そう、サガ」

アイオロスはこくん、と頷くと、先を続けた。

「サガは兄さんのこと、いつから好きだったのかな? って思ってさ」

「いつからって……」

自分のことですらわからないのに、サガのことがわかるわけもなく、アイオロスは思わず眉間をきつく寄せた。

「そんなの、余計私にわかるわけがないだろう。サガに聞かなきゃ」

結局、アイオロスにはそう答えることしか出来なかった。

「サガもアイオロスと同じなんじゃないか?。今アイオロスが言ってたじゃん、人を好きになるなんてのは、大体がしてそんなもんだって」

自分もアイオロスと同じだとたった今自覚したばかりのミロが、アイオロスをフォローするかのようにアイオロスに代わってそう答えた。

「うん、それはそうかも知れないけど、何て言うか……サガはちょっと違うような気がするんだよな」

「はぁ?」

アイオロスとミロが、またも見事なハモリ声をあげる。
カノンは聞きたいような聞きたくないような顔で、だんまりを決め込んだまま横目でアイオリアをチラリと見ただけだったが。

「少なくともサガの方は、兄さんよりはもう少しはっきりとそういうこと自覚してそうなんだよね」

何故と聞かれたら何となくとしか答えようがないが、アイオリアはそんな気がしてならなかったのである。

「兄さん、サガに聞いたことないの?」

「何を?」

「いつからオレのこと好きだったんだ?って」

「あるわけないだろ!」

気になったことが無いと言えば嘘になるが、アイオロスとしてはサガが自分と想いを同じくし、自分を受け入れてくれたことでもう充分幸せだった。だからさほど深く気にしたこともなかったのだが、

「第一、聞いたところで素直に答えてくれるわけもないだろう、あのサガが」

だがその理由を問おうとしなかった最大の理由は、それを問うたところでサガが素直に答えてくれるとは到底思えなかったからだ。
そこら辺の気質は、サガは今も昔も殆ど変わっていない。

「確かにそれもそうか……」

サガは物腰柔らかで優しい性格の持ち主だが、反面、とんでもなく意地っ張りで頑固な部分も持ちあわせており、容易に本心を他人に見せたりするような性格ではなかった。捻くれているというのではないが、素直でないことは間違いない。
そのことは恋人であるアイオロス、双子の弟であるカノンは骨身に染みてよく知っており、最近ではミロもアイオリアも先の2人ほどではないにせよ、何となくそのことが実感できるようになっていた。

「カノン、わかんない?」

「はぁ?!」

ミロが主語も何もなしに、唐突にカノンに聞いた。

「いや、だからカノンはサガと双子だし。双子って何ていうの?独特のシンパス能力って言うか、テレパシーみたいなもんがあるんだろ? 俗にいう双子マジックってやつ。だからカノンならサガの気持ちわかるんじゃないかなっていうか、読めるんじゃないかなって思って」

ミロが言うと、アイオロスとアイオリアも同時にカノンの方を注視した。
特にアイオロスなど、目がかなり真剣であった。

「わかるわきゃねーだろ、そんなこと」

確かにカノンはサガと双子の兄弟だ。しかも一卵性であるから、言い換えれば元は1人の人間になるはずだったわけだが、とは言えそれとこれとは話は別。
確かに双子の兄弟ゆえ、他人にはわからないことが何も言わずともお互いにはわかってしまうことはあるし、ミロの言うような能力が生まれながらにして多少なりとも備わっているのも事実だが、元が1人だったからとは言っても、やはりカノンとサガは別個の人間である。
双子と言えどお互いがお互いの心までも共有しているわけではないのだから、何から何まで全てがわかるというわけにいかないのは当たり前のことだ。
第一、お互いの心の裏側まで全てを読み取れることが出来ていれば、そもそも十数年もの長い間、すれ違って憎み合って諍いを繰り返すこともなかったのである。

「カノンにもわかんないの? 全然?」

「当たり前だ! お前等、双子ってのを何か変に勘違いしてるみたいだがな、オレ達はお互いの翻訳機じゃねーの! んなことまでわかってたまるかっ!」

わからないしわかりたくもない!……と、最後の一言は心の中で呟いたカノンであった。
何だつまんね〜と、ミロが呟く。アイオロスは引きつり笑いを浮かべ、アイオリアは表情の選択に困ったような顔をしている。
本当にこいつらは双子の兄弟を何だと思ってるんだ!と、カノンは怒りを通り越して呆れ果てた。

「そんなに知りたきゃ、アイオロスが玉砕覚悟でサガに聞いてみりゃいいだろう。どうせ答えてくれないから、なんて情けないこと言ってねえでさ。一回でダメなら五回でも十回でも聞いてみりゃいいんだ。そうすりゃサガだってそのうち根負けして、答えてくれるんじゃねーの?」

カノンはそう言いながら、小さく肩を竦めた。

「いや、別にそこまでして知りたいとは思わんよ。私はサガが……私の気持ちを受け入れて、私に応えてくれたことで満足しているし、サガと出会えて、私の人生の中にサガという存在を得られたことが、何にも変え難い最高の宝だと思っているからね」

それを知ることができたらそれはそれで嬉しかっただろうが、それを無理矢理聞きだそうとまでは思わない。
これは負け惜しみでもやせ我慢でも何でもなく、アイオロスの嘘偽りのない正直な気持ちだった。
晴れ晴れとした表情で爽やかに言われ、アイオリア、カノン、ミロの3人はポカンとアイオロスの顔を見つめた後、三人三様異なる表情を作って顔を見合わせ、苦笑と溜息を交換しあったのだった。


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