ミロが血相を変えて双児宮に飛び込んできたのは、3時を少し回ったくらいの時間だった。昨夜教皇宮の宿直当番だったオレは、一眠りしてやっと起きたところで、眠気覚ましのコーヒーを入れたばかりの時だった。

「サガ!、サガ!」

ミロは入ってくるなり、サガの名前を連呼した。

「うるっさいなぁ〜、お前は!。せめてちゃんとノックしてから入ってこいよ。ここはお前ん家じゃないんだぞ!」

コーヒー片手にオレがダイニングから出ていくと、ミロは不躾な訪問を謝りもせず、切羽詰まった表情のまま

「カノン!、サガは?、サガは居るか?、サガどこ?!」

と、サガの所在を矢継ぎ早に尋ねた。

「いるわけねえだろ、まだ仕事だよ」

サガは教皇宮で教皇補佐の仕事をしている。仕事が詰まっているときなどは時間も不規則になるが、基本的な勤務時間は朝9時から夕方5時まで。いわゆるサラリーマン定時と言うやつだ。安息日でもない日のこんな時間に、サガが家にいるわけもないだろう。ミロだってそんなことくらい知ってるはずなのに……って、こいつは慌てると理路整然とした思考回路が停止するんだっけ。一体何をそんなに慌ててるんだか。

「ああ、そっかしまった!、そうだったぁ!。じゃ仕方ない、カノンでもいいよ、とにかく助けてくれ!」

「はぁ?!」

何だよ、その「仕方ない」ってのは。大体、助けてくれって、サガに何を助けて欲しいってんだよ?。ったくこいつは何かあるとすぐ家に飛び込んできては、面倒押し付けていくんだよな。ってか、何でもかんでもサガに頼り過ぎなんだ。何かって言うとすぐサガ、サガだもんな。サガも放っておきゃいいものを、くっだらないことまで真剣に相手するから、ミロが調子に乗るんだよ。っつーか、サガ、ミロに甘すぎ。同様にカミュやシャカやアイオリアにも甘い!。サガはこいつらが小っせえ時から面倒見てきたらしいからしょうがないけど、こいつらの甘え癖が抜けないのは、サガ自身の甘やかし癖が抜けないからだとオレは思っている。お陰でオレまで、こんな風に煽りを食う羽目になるんだよ。

「一体何事だよ?。どうせ大したこっちゃねーんだろーが。てめえで何とかしやがれ!」

「それが出来ないから困ってんだろ?!。とにかく、いいから一緒に来てくれよ!」

情けない顔でそう訴えたかと思ったら、ミロはいきなりオレの手を掴んで引っ張った。わっ!バカ!、コーヒー溢れんじゃねーか!。

オレが文句を言ってミロの頭を叩くと、ミロはオレの手からコーヒーを取ってそれをサイドボードの上に適当に置くと、有無を言わせずまた強引にオレの手を引っ張り、来たときと同じくすごい勢いでオレを連れて双児宮を飛び出した。

「何があったっつんだよ?!。説明くらいしろっ!」

手を引かれて走りながら、オレはミロの後ろ頭に向かって怒鳴った。

「天蠍宮が大変なんだ!」

「だから何がどう大変なんだって聞いてんの!」

「とにかく、来てくれればわかる!」

結局ミロはオレの質問にはっきりとした返答を返さないまま、走るスピードを上げた。おい!、お前は聖衣着てるからいいかも知れねーけど、オレは今、生身なんだ。ちっとは加減しやがれ!……って、あれ?、何でこいつ、聖衣着てんの?。寝起きでボケてた上に、こいつがあんまり慌ただしいんで全然気付かなかったけど、こいつ、聖衣着てるじゃん。何か変だな。またどっかの結界が破れて、使い魔でも飛び出して来たってんで、スクランブルかかったか?。いや、でもそれだったら天蠍宮なんて言うわきゃねーな。十二宮の結界がそう簡単に破れるわけないし、別の場所だったらさっさと現地へ赴くハズだし。第一たかが使い魔程度で、こいつがオレやサガに助け求めるわけもねえしな。何が何だかさっぱりわかんねーよ。

そうこうしているうちに、オレ達は天蠍宮に着いた。天蠍宮はシンと静まり返っていたが、特に変わった様子は見受けられない。それなのに、何でこんなにこいつは慌ててるんだ?。

あれ?、でもちょっと待てよ……何か、いつもの天蠍宮と雰囲気違うような……。

「おい、ミロ……ここ、宝瓶宮か?」

そう、通路が異常にヒンヤリとしているのだ。天蠍宮の通路はこんなに寒くない。このヒンヤリ加減は、宝瓶宮だ!。ん?、でも、オレ達は今、4つの宮しか通り抜けてないよな。あれ、宝瓶宮はもっと上だし……あれ?。

「違うよ、天蠍宮だよ」

「だよな……」

そうだよな、どう考えても天蠍宮だよな。ん〜?、でも何か変だぞ。朝、家に帰るとき通ったけど、そん時はいつも通りの天蠍宮だったはずなのに。

「とにかく、中入ってくれ」

私室のドアの前に立ったミロは多くを語らずに、オレに中に入るよう促した。何だよ?、ここお前ん家だろ?、何でお前が先に入らねえんだよ?。

不審感を抱きつつ、オレは天蠍宮の私室のドアを開けた。その瞬間

「おわっ!!」

中からものすごい冷気が吹き出してきて、その余りの冷たさにオレは驚き、慌ててそのドアを閉めた。なっ?!、何だこの冷気!。冷たい通り越して痛ぇじゃねえか!!。低温火傷しそうな勢いの冷気だぞ!。

「おっ、おい、ミロ……何だここは、シベリアか?!」

「うん、プチシベリア。いや、プチ北極かも……」

げんなりしながらミロが言う。

「一体どう言うことなんだッ?!」

いい加減切れたオレは、ミロを怒鳴りつけた。

「カミュだよ」

それはわかるよ!。十二宮の中にプチシベリアだかプチ北極だかを作れるような奴なんて、カミュ以外にいるわけねえんだから!。オレが聞いてんのは、そんなこっちゃねーんだよ!。その理由つーか、発端と過程を聞いてるの!。

「カミュが……シュラとケンカして飛び出してきたんだ。で、超機嫌悪くてさぁ……その怒りの凍気で天蠍宮が凍っちゃったんだよ」

シュラとケンカしたぁ?!。つまりはそれって、痴話ゲンカだろう。それじゃ何か?、天蠍宮はそのとばっちり食ってプチシベリアになったってわけ?。オレがそう言うと、ミロは黙って頷いた。

「このままじゃ天蠍宮が氷の館になっちゃうよ」

……もう充分なってると思うけどな。

「で?、オレにどうしろって言うんだよ?。カミュを異次元へでも飛ばしゃいいのか?」

はっきり言ってオレは呆れ返っていたが、ミロが何のためにオレを……って言うか元々はサガだったんだけど……呼びに来たのか、とりあえず聞いてみることにした。

「何でカミュを異次元になんか飛ばさなきゃいけないんだよ!。違うよ!、カミュを宥めて欲しいんだってば!」

「宥めるぅ〜?!」

「そうだよ。カミュを宥めて説得して、とりあえず怒りを収めさせて欲しいんだ。でもって、シュラと仲直りさせて欲しいんだ。そうすれば天蠍宮も元に戻るからさ。でないとオレ、聖衣脱げないし、ず〜っと小宇宙燃やしてなきゃいけないし、それどころかマジで凍死するかも知れない」

なるほど、ここにきてようやくお前が聖衣来てるわけがわかったよ。防寒のためだったのか。

っと、それはいいとして、何でオレがそんなことしなきゃいけねんだよ?。つまりは何か?、オレに痴話ゲンカの仲裁しろって言いたいわけ?。冗談じゃねえよ、勘弁してくれ。

「カミュはお前の親友だろう?。お前が宥めすかして説得して、ついでにシュラと仲直りさせてやりゃいいじゃねえか」

「それが出来たら苦労はしねえよ!。もう、オレの手に負える状態じゃないんだってば!。だからサガに頼みに行ったんだ!」

「だから何でそんなことをサガに頼みに来るんだ!」

「サガの言うことならカミュも素直に聞くと思ったからだよ!」

確かに……カミュは(カミュも、だな)サガを慕ってるし、それ抜かしたとしてもサガは人を搦め手で説得すんの、得意だからな。10歳も20歳も年上の神官ですら、簡単に言いくるめられるんだから、カミュくらいの小僧を説得するなんてチョロイだろう。……何て納得してる場合じゃない!。

「だったらサガが帰ってくるまで待ってりゃいいだろ。オレを巻き込むな!」

サガはそう言うこと得意でも、オレは苦手なんだよ。しかもよりにもよって痴話ゲンカの仲裁だなんて、まっぴらごめんだよ!。

「待ってられないから頼んでるんじゃないか!。これ以上放っておいたら、マジで天蠍宮が氷の棺に閉じ込められちまう。何とかしてくれよ〜」

ミロは心底困り果ててるらしく、情けないツラでオレに泣きついた。

「何とかしろっつっても……」

「カノン、サガと双子だろ。サガが出来ることはカノンにだってできるだろ!」

無茶苦茶言うなよな。そりゃ、技とかは同じもん出来るケドよ、こう言うのはまた別問題だろう……いくら双子だっつったって、得手不得手までまるっきり一緒ってわけじゃないんだぞ。性格だって、まるで違うんだから。

「ミロ、少し冷静になれ。いいか、確かにカミュは、サガの言うことなら聞くかも知れない。けど、オレの言うことなんか聞きゃしねーかも知れないぞ」

見捨てて帰ろうかとも思ったが、またいつの間にかしっかりミロがオレの腕を掴んでいて、帰るに帰れなかった。にゃろう、オレが逃げねえように予防線張ってやがるな。

「だったらサガのふりしてカミュを説得してくれ」

……あのな……だからそう言うわけのわからん無茶を言うなっつの!。根本的な論点がズレてんだ。見た目は似てても中身がまるで違うんだ。ボロが出るに決まってるだろう!。

「とにかく、まずはカミュに会ってくれ!」

ダメだこりゃ。何言っても無駄だわ……。オレは諦めの溜息をついた。ったく、何でオレがこんな目にあわなきゃいけねんだよ、夜勤明けで疲れてんのに。

オレが突如我が身に降り掛かった不運を呪って無言で居ると、それを了解と取ったミロが玄関のドアに手をかけた。

「ち、ちょっと待て!、ミロ!!」

オレはミロを慌てて引き止めた。

「何だよ?」

ミロが不満そうにオレを睨む。何だよ?、じゃねーよ!、何だよじゃ!。こんな格好でこのプチシベリアの中に入れってのか?!。オレはな、起きたばっかなんだよ、Tシャツとスエットパンツ姿なんだよ!。黄金聖衣着ているお前ですら凍死しそうな程の極寒地帯にこんな格好で入ったら、オレが凍死しちまうだろう!。オレはギリシア育ちなんだ、カミュやキグナスみたいに寒さに鈍感じゃねえんだよ!。

気の急いているミロを制して、オレは自分の聖衣を呼びだすことにした。聖衣着てなきゃとてもじゃないけど中に入れねえよ。

オレは小宇宙を燃やして、自分の双子座の聖衣を呼んだ。……って、あれ?、聖衣が来ない……。

「いっけね……今、サガが着てるんだっけ……」

これはオレも不覚だった。そうだ、聖衣は今、仕事中のサガが着てるんだった。共有が許されているとはいえ、正当な双子座の聖闘士はサガだ。聖衣の優先権も当然サガにある。オレが聖衣を纏えるのはサガが聖衣を纏っていないときだけで、サガがそれを纏っているときにはオレがどんなに呼んでも聖衣はオレの元には来ないんだった。

「しょーがねぇなぁ……とりあえずこれ着ろよ」

呆れ顔でそう言いながら、ミロは自分のマントを聖衣から外して、オレに貸してくれた。っつーか、お前にそんな呆れ顔される覚えはねえぞ!!。

オレはミロからそれを受け取り、渋々羽織ると、プチシベリアとなった天蠍宮私室へ足を踏み入れた。






天蠍宮の中は想像以上に寒かった。と言うより、冷気が刺さってマジ痛い!!。オレは堪らず、ミロの後ろに張り付いた。

カミュの怒りとやらも、どうやら黄金聖衣を凍りつかせるほどハイパワーマックスにはなってなかったようで、ミロの体はほんとのほんとの気休め程度の冷気よけにはなった。

このくそ迷惑な状況を作りだしている張本人はといえば、天蠍宮の私室リビングのソファに悠然と腰掛けて、我が物顔で紅茶を啜っていた。黄金聖衣も纏わずに、半袖の私服姿で平然と!。

「ミロ、どこに行って……」

ミロが帰ってきたことを気配で察したらしいカミュは、ゆっくりとオレ達の方へ顔を向けた。

「カノンじゃないですか。どうしたのです?」

そしてミロの後ろに張り付いているオレを見つけ、表情も崩さぬままそう聞いてきた。オレがサガの振りをするより以前に、もう完璧見抜かれてるじゃん。やっぱミロの考えは浅はか以外の何物でもないってこったな。ま、そんなことはどうでもいいや。

一応、パッと見はいつも通りのカミュだった。特に怒りを表に出しているわけでも悲しそうにしているわけでもなく、表情に乏しいクールな顔でオレを見ている。最も、こいつの場合は怒れば怒るほど表情が凍てつくらしいんだけど。表面上クールな顔して、内面でカッカしてるんだよね。それがこんな風に小宇宙の乱れになって現れるらしいんだけど、いい迷惑なんだよな。

「カミュ、いいか、よく聞け。オレはサガの代理で来たんだからな。これからオレが聞くこと、言うことは、そのままサガの言葉として捉えるんだぞ」

正攻法でオレが説得に乗り出しても聞きゃしないだろうから、オレはサガの威光を笠に着ることにした。とにかく、こんなくっそ寒いところに長時間はいられない。自分のためにも、先手必勝の短期決戦で説得するしかない!。

「シュラとケンカしたそうだな。原因は何だ?」

「シュラが悪いのです」

どうやらサガの威光作戦は成功したらしく、オレが尋ねるとカミュは思いの外あっさりとそれに答えた。でもそれ、全然答えになってねーよ。

「いや、その、どっちが悪いかどうかは理由を聞かなきゃわかんねえだろう。何が原因なんだ?」

「アイオロスです」

相変わらず表情を凍てつかせたまま、カミュは言った。

「アイオロスぅ〜?!」

オレと何故かミロまでもが同時に声をあげた。……何で今更ミロが驚いてんだよ?。

『おい!、何でお前まで驚いてんだよ?』

オレは小声でミロに聞いた。

『知らなかったもん』

『知らなかったぁ?!』

『カミュ、そこまで言わないんだもん』

オレは軽い頭痛に襲われた。せめて聞きだす努力くらいはしてくれよ……。何でもかんでも面倒を、オレ……じゃなくてサガ任せにする気になってんじゃねぇ!。

「何でアイオロスがお前達のケンカの原因になるんだよ?」

バカミロへの説教は後回し(と言うか、後でサガに押し付けてやる)にして、オレはカミュへの質問を続けた。アイオロスはサガの恋人(ふんっ!)だから、サガ絡みでならケンカの原因にもなりうるだろうけど……。何かサガが関係してるんかな?。

だがカミュは、すぐにはその質問に答えず、黙りこくったままじ〜っとオレを見つめている。おい!、勘弁しろって、寒いんだから!。聞かれたことにさっさと答えろ!。それとも、やっぱ何かサガに関係あんのかよ?。だからオレに言えないのか?。

「シュラが悪いんです……」

カミュはさっきと同じセリフをもう一度繰り返した。だから、それはわかったっての!。オレが聞きたいのは、その先なんだってば。

オレが先を急かすと、やっとカミュはぽつりぽつりと話を始めた。

「……昨夜私は磨羯宮で夕食を作って、シュラの帰りを待ってたんです。それなのにシュラは……アイオロスと食事に出かけてしまって、しかもそのまま人馬宮に泊まって、朝帰りだったんです」

シュラが人馬宮にお泊まりして朝帰りぃ?!。ちょっと待て、それは浮気じゃないか!。

「昨夜だけじゃありません……3日前も、一週間前も、10日前だって……」

おいおい、そんなに頻繁にかよ?!。アイオロスのやつ、あんなにバカみたいにサガに愛してるとか何とか言ってサガにくっついてるくせに、シュラと浮気してんのか?!。シュラだって、特に酔っ払ったときなんか無茶苦茶カミュとのこと惚気るクセして浮気かよ!。

「勘違いしないでくださいカノン、浮気じゃありません……」

だがカミュは間髪入れずにそれを否定した。浮気じゃないって、これを浮気と言わずして何と言う?。

「シュラは……アイオロスを敬愛し、尊敬しているのです」

は?、敬愛?、尊敬?。

「はい。もう言葉では言い尽くせないくらい、アイオロスを敬っているのです」

カミュの口調は淡々としていたが、平静とは言い難かった。

「……何かちょっと言ってる意味がイマイチわかんねえんだけど。つまりシュラは浮気はしてないし、アイオロスにも恋愛感情は持ってない……こう言うことか?」

「はい、そうです」

カミュのきっぱりとした肯定を受けて、オレは一気に脱力した。何だよ、浮気じゃないならいいじゃんか。

「あのさ、カミュ……それだったら何でお前はそんなに怒っているわけ?。お前がそんなに怒る理由が、どこにあるんだよ?」

はっきり言ってオレにはさっぱりわからない。シュラがアイオロスと浮気してるとか、マジボレしてるとかってんなら話はわかるけど、尊敬してる程度だったらいいじゃんか。それって、いいことなんじゃないのか?。

「恋愛感情の方がまだマシです。それならば奪い返す自信はあります」

ん〜……まぁ、そりゃカミュは綺麗だから、ちっとやそっとの奴じゃ太刀打ちできないだろうよ。でもさ、やっぱわかんねえよ。結局何がこいつの怒りに火を付けたわけ?。

「尊敬や敬愛の対象と言うのは次元が違います。ある意味、恋愛感情より重いものなのです。実際シュラは、私のことよりアイオロスのことを優先させるのですから」

ああ、なるほど、言われてみれば……そう言うことも言えるかも知れないな。

「ヤキモチを焼いても怒っても無駄なのです。シュラにとってアイオロスは絶対的な存在なんです。とても敵いません」

へぇ〜、ヤキモチだなんて自分で言うあたり、カミュも結構可愛いとこあるんだな。その凍ってる表情で言われると、全然真実味に欠けるんだけどさ。

「無駄だってわかってるなら、怒らなきゃいいじゃないか。別に恋人としての立場は安泰なんだから、問題ないんじゃないのか?」

「頭でわかっていても、感情が必ずしもついてくるとは限りません!。そんな簡単に割り切れるものではありません!」

珍しく、カミュが声を張り上げた。って言っても普段よりほんのちょっと大きい声ってだけだけど。

「私にだって我慢の限界はあります。アイオロスが目に前に来た途端、たちまち私のことなど意識から飛んでしまうのですから」

う〜ん、カミュの気持ちもわからないでもないけど……シュラのやつ、アイオロス絡むとそんなに極端に態度が変わるのか?。どうもオレにはよくわからん。

「とりあえず、お前の言い分はわかった。けどさ、何も天蠍宮に来てここを凍りづけにするこたねえだろう?。シュラにお前に謝るよう、オレから言ってやるから、お前はまずは自分の宮に戻れ、な?」

シュラのところへは後でサガを行かせよう。とにかく、オレはこいつを天蠍宮から追い返して、さっさとお役ご免になりたかった。うう〜、超さみぃ〜。早くウチ帰ってあったかいコーヒー飲みたい……。

「嫌です!」

だがカミュはそれを一言の元に拒否してぷいっとそっぽを向いた。おい!何でだよ!!。

「ミロに慰めてて欲しいのか?。だったらミロを一緒に行かせるから、とにかく宝瓶宮へ帰れって、な。天蠍宮はお前の冷気に慣れてないんだ。そのうちぶっ壊れっかも知れないぞ」

オレ、一緒に行くのヤダよ〜……と、ミロが小声でオレに囁いたが、オレは無視を決め込んだ。どうやら親友のミロも、カミュがこの状態になると全くお手上げらしい。だったら尚更、オレなんかの手に負えるわけもないので、ミロが何と言おうがミロに押し付けてやることに決めた。

「嫌です。宝瓶宮に帰るには、人馬宮と磨羯宮を通らなきゃいけないじゃないですか」

あ、そっか……。アイオロスは今は仕事で居ないからいいとして、磨羯宮は……いるよな、シュラ。通ったからと言って必ず鉢合わせするわけじゃないだろうけど……。オレはもう一度、宝瓶宮に帰れと言おうとして、やめた。目の前のカミュには、もう全く取りつく島がなかったからだ。

ダメだこりゃ、やっぱりオレの手には負えないや。もう知らん、オレは帰るぞ……。オレが早々に諦めて天蠍宮を去ろうとすると、慌ててミロがオレにしがみついた。

「ここまで来て、見捨てないでくれよ!」

ミロは必死の形相だ。そう言われてもねぇ……。

「だから最初からオレには無理だっつたじゃんか。ダメだ、説得しきれねえよ。仕方ねえから気が済むまで好きにさせとけ、シュラがそのうち迎えに来るだろうから」

多分、シュラが迎えに来て謝らなきゃ収まりつかないだろな。オレもお手上げだよ。ってーか、そもそもオレは無関係なんだ。これ以上巻き込まれて堪るか!。

「待てるかよ!。何時来るかもわかんないのにっ!」

だがやっぱりミロもそう簡単には引かなかった。まぁね、自分家をいつまでも凍りづけにされてちゃ堪んないだろうけど、それもオレには関係ないこった。

「待てないってんなら、お前が磨羯宮に行ってシュラに頼めばいいだろう」

そう言った瞬間に、オレはしまった!と思ったが、時既に遅しだった。

「じゃ、カノンも一緒に来てくれ!」

だ〜か〜ら〜……オレは関係ないって言ってんのにぃ〜……。だがミロはやっぱりオレの文句なんか聞きもせず、またオレの手を引っ張って今度は磨羯宮へ行くべく天蠍宮を飛び出した。


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