オレとミロが磨羯宮の私室に踏み込むと、シュラは暢気にリビングで雑誌を読んでいた。こんにゃろう!、オレ達の苦労も知らないで!!。

「あれ?、カノンにミロじゃないか。どうしたんだ?」

シュラはオレ達に気付くと、雑誌から顔を上げてちょっと驚いたように聞いてきた。

あまりにこいつがのほほんとしてるので、さすがに怒りを覚えて殴りたい衝動に駆られたが、オレはまずはそれをぐっと堪えた。下手に短気を起こすと、後でサガに叱られるのはオレだからだ。

オレは手っ取り早くシュラに、オレ達がここに来た経緯を離した。お前とケンカしたカミュが天蠍宮に篭城していること、そのカミュの怒りの凍気で天蠍宮がプチシベリアと化していること、既にオレ達の手には負えないことを手短に説明してやると、

「朝ここを飛び出して行った時、下に降りて行ったから行き先は恐らく天蠍宮だとは思ったが……」

シュラは読んでいた雑誌を閉じながら、やれやれと言うような感じでそう言った。やれやれと言いたいのはオレの方なんだけどな、シュラ……。

「そう思ったなら、何故すぐ迎えに行ってやらないんだ?」

「そうだよ。お陰でオレの宮が凍っちゃったじゃないかっ!」

オレの後についてミロが抗議の声を上げる。

「ミロを相手に愚痴の一つも言えば収まるだろうと思ってな。頃合いを見計らって迎えに行こうと思ってたが」

あっけらかんと言うシュラに、オレはまた大きな脱力感を覚えた。

「お前なぁ……少しはカミュの気持ちも考えてやれ。我慢限界に達してブチギレしてんのに、そう簡単に収まりつくわきゃねぇだろう」

「そんなに怒ってるのか?」

シュラのお気楽さ加減に、オレは今日何度目かの頭痛を覚えた。

「ああ、表情カチンコチンに凍り付かせて怒ってるよ」

オレはほんのちょっとだけ大袈裟にそう言ってやった。するとシュラは、

「それがおかしいんだ。何故そこまでカミュが怒るのか、オレにはわからん」

平然とそんなことを言いやがったのだ。はぁぁ〜?!。何言ってんの?、こいつ。

「わからん……って、お前マジでそんなこと言ってんのかよ?」

「ああ」

即座に頷くシュラに、オレは呆れてすぐには言葉が接げなくなった。同様にミロも、オレの横でポカンと口を開けてシュラを見ている。

「お前があんまりアイオロスを大事にしすぎて、カミュをそっちのけにするからだろう」

まさかこんなことまで説明する羽目になるとは思わなかった……。だがオレがそう言うと、シュラはきょとんとした顔でオレを見て、

「別にそっちのけにした覚えはない」

いけしゃあしゃあとそんなことを言いやがったのだ!。

「そっちのけにしてんだよ!。しかも度が過ぎてんだよ!」

オレの思っていることを言葉にしたのはミロだった。だがシュラは思いっきり心外とでも言いたげに表情を歪めて、

「そんなことはしていない!」

些か口調を強めて、ミロに言い返した。

「カミュはな、そっちのけにされてると思ってるらしいぞ。だから怒ってるんじゃないのか」

何でこんなことまで懇切丁寧に説明してやらなきゃいけないんだか……。何か言ってるこっちがバカバカしくなってきたよ。

「それはカミュの思い違いだ」

「でもな、カミュから話聞いたけどな……」

オレはさっきカミュに聞いた今日のこと、3日前のこと、1週間前のこと、10日前のことを、シュラの前に突き付け、カミュが怒るのは当たり前だと言ってやった。

「カミュにはアイオロスがオレにとってどれほど大事な人間か、ちゃんと話してある。あいつだってよくわかってるはずだ。そんなに怒るはずもないんだが……」

シュラは相変わらずよくわかってないような顔で首を傾げ、ぶつぶつと呟いた。

「だから……今ミロが言ったろう。度が過ぎてんだよ、度が!。大体お前、何でそこまでアイオロスに心酔してるんだよ?」

「アイオロスはオレにとって師も同然なんだ!」

オレの質問にシュラが間髪入れずにそう力説した。それを聞いた瞬間に、オレは思い出した。そう言えばこいつらがチビだった頃、当然年長者のサガとアイオロスがこいつらの面倒を見ていたわけだが、とにかくシュラはアイオロスに懐いていたと、サガも言ってたっけ。そうか、シュラにとってのアイオロスは、ミロにとってのサガと同じようなもんか。でもある意味、ミロより極端だよな……。

「お前の言い分はわかったけどな、今日のはどう考えてもお前が悪い!。とにかく、カミュに謝れ」

無意味に押し問答してても始まらない。とにかくこいつが頭下げて、天蠍宮からカミュを連れ出せば済むことなんだ。

「結果として待ち惚けを食わせた形にはなったから、そのことについてはもう謝ったぞ」

「足りねえんだよ!。もっかい謝れ!」

「同じことで2度も3度も謝れるか!」

あ〜もうっ!!。今はそんなことごちゃごちゃ言ってる場合じゃねぇだろう!。

「大丈夫だ。あいつはそんなに怒りが持続する方じゃないから、もう少しすれば落ち着くよ」

だ〜か〜ら〜……落ちついてんのはお前だけだっつの!。

「んな無責任なこと言うなよ!。天蠍宮はな、今それこそ大変なことになってんだぞ!。オレなんか聖衣は脱げないし、ずっと小宇宙燃やしてなきゃならないしで、気の休まる暇がねえんだ!。それもこれも、お前がカミュを怒らすから悪いんだぞ!」

そうだそうだ。ついでに言うなら、全く関係のないオレまでえらい迷惑被ってるんだ。

「お前は幼いときからのカミュの親友だろう。そんなことには慣れっこのはずだが」

「オレの慣れの範疇を超えてんだよ!!」

ミロが怒鳴る気持ち、わかるよ。この期に及んでもシュラは、まだカミュがほんのちょっと拗ねてる程度にしか思ってないらしい。こいつ、こんなに楽観主義者だったっけ?。って言うより、自分とカミュとの信頼関係を過信しすぎてないか?。

「シュラ、四の五の言ってねえでとにかく天蠍宮に来い!。でないとこのこと兄貴に言い付けて、兄貴からアイオロスにチクリ入れてもらうぞ!!」

堂々めぐりにいい加減うんざりしたオレは、最後の切り札を出した。すると案の定、シュラの顔色が変わった。

「ちょ、ちょっとそれは困る。サガからアイオロスにそんなこと言われたら……」

ははは、青くなってやんの。さすがによくわかってんじゃん、シュラ。サガの言葉がアイオロスに及ぼす影響力は、ほぼ絶対的なんだ。サガに一言でもそんなこと言われてみろ、例えそれが事実と大きくかけ離れてることでも、あいつはそれを頭っから信じるぞ。そんでもってアイオロスに怒られるのはお前だ、シュラ!!。

それにしても効果覿面なんだよな、このサガのご威光作戦。

「よし!、わかったら一緒に天蠍宮に来い!」

これ以上は問答無用。オレはミロにシュラの脇をがっちり押さえさせて、シュラを磨羯宮から引っ張り出した。






天蠍宮に入って、その冷気を直に感じた途端、シュラもようやくカミュの怒り具合がわかったらしい。さすがにこれはマズイと思ったらしく、シュラは一目散にカミュの居るリビングへ走っていった。

オレはまたミロのマントを羽織り、ミロを冷気避けにしながら、シュラの後を追った。もうお役ご免でいいだろうとも思ったのだが、さすがに事の顛末が少々気になったので、面倒見のいいオレは一応最後まで見届けることにした。けどやっぱ寒いっ!!。

「うおわっ!」

オレ達がリビングに入った途端、一際大きな冷気の塊が中から吹き出してきて、ミロが悲鳴をあげた。オレは咄嗟にミロを楯にしてその冷気の直撃を免れたが、どうやらやっとこさっとこ姿を現したシュラに、瞬間カミュの怒りの小宇宙が爆発したらしく、それが天蠍宮リビングにブリザードを起こしたらしい。

オレが寒さに耐えながらミロの後ろから顔を出すと、シュラはもうカミュの隣に座ってカミュを宥めにかかっていた。すごい、さすが慣れてるぜ……。

「カミュ、今朝のことはもう謝っただろう?。何がそんなに気に入らないのだ?」

シュラが穏やかな口調でカミュにそう尋ねる。カミュは相変わらず表情を凍てつかせたまま、ぷいっとシュラから顔を背けていた。

「あなたには、待っている者の気持ちなどわからないのだろう」

そしてカミュは顔を背けたまま、表情に負けず劣らずの冷たい口調でシュラにそう言い放った。う、カミュ、オレ、お前の気持ちちょっとわかるかも知れない……。

「そんなことはない。今朝のことは……いや、3日前の事も1週間前のことも……お前に待ち惚けを食わせてしまったことは悪いと思っている」

「10日前のことは?」

「あ、いや、もちろん10日前のこともだ」

嘘つけ嘘を。んなこと忘れてたクセに。さっきオレに言われて思い出したんだろうが。

「あなたは私なんかよりアイオロスの方が大切なんでしょう」

げ、カミュのやついきなり核心突きやがった。シュラ、間違っても「うん」なんて言うんじゃねえぞ!!。

「何を言っている、カミュ!、そんなことはない!」

強い口調できっぱり言って、シュラはカミュの両肩を掴むと、カミュを自分の方へ半ば強引に向かせた。いいぞいいぞ、その調子!!。

「お前のことは大事だ!。でもアイオロスは特別なんだ」

わっ!バカッ!!そうじゃねえだろう、そうじゃ!!!。シュラがそう言った途端、カミュが僅かに眉間を寄せた状態で、またその表情を凍り付かせる。ヤバイ、また怒り始めるじゃねえか!。

「カミュ、前にも何度も言ったはずだ。アイオロスはな、オレの師も同然の人なんだ」

だがカミュがまた怒りの小宇宙を爆発させるより先に、シュラがそれを押さえるかのようにカミュの両肩においた手に力を込め、心持ちカミュの体を引き寄せて、しっかり目を覗き込みながら先刻より更に優しい口調でカミュに語りかけた。

「いいか、オレにとってのアイオロスはな、クリスタル聖闘士や、氷河や、え〜っと、何だったっけ?、海闘士の七将軍の1人の、え〜っと……」

アイザックだ、アイザック。オレは思わず、シュラの小宇宙にそう語りかけた。

「そうだ、アイザックだ!。そのアイザックにとっての、お前の存在と一緒なんだ。あいつらは、誰よりもお前を尊敬し、特別に思っているはずだろう」

巧い!!と、オレは思わず心の中で手を叩いた。

「我が弟子と同じ……」

カミュがそう呟いたのと同時に、急激に天蠍宮内の冷気が和らいだ。そしてカミュの凍てついた表情も僅かに和らいだのがわかる。弟子バカのカミュには、この戦法はかなり効果があるのだ。

「そうだ、あいつらにとってのお前が、イコール、オレにとってのアイオロスだ、わかるよな?」

いいぞいいぞ、冷気がどんどん和らいで行くぞ。カミュの怒りが収まっている証拠だ。すごい、すごいぞ弟子作戦!!。

「いや、それだけじゃないな。アイオロスはオレにとって師であると同時に、兄であり、父親のようでもあった……」

だがそこで丸く収まると思いきや、シュラは更に言葉を接いで思いを馳せるように天井を見上げたかと思ったら、いきなり修行時代の思い出話を語り始めたのだ。おい、シュラ……ちょっと待てお前、余り余計なことまで言うんじゃないぞ!!。

だがシュラはオレのそんな心配を他所に、アイオロスと出会ってからシュラがアイオロスに受けた数々の恩とやらを、事細かにカミュに語って聞かせたのだ。カミュはおとなしく黙ってそれを聞いていたが、何か、少しまた寒くなってきたような気がするのはオレの気のせいか?。

それにしてもよくそんな昔のことまで、1つ1つ細かく覚えているなと感心するほど、シュラの語るアイオロスのエピソードは数限りなくあった。ギリシア語の全くわからなかった自分に、スペイン語の辞書片手に一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてくれたこと(サガが居るときはサガが通訳してくれたろう)、故郷が恋しくて泣いている自分の側に一晩中ついていて慰めてくれたこと(ミロも確か、サガにそんなことしてもらってたぞ)、修業中大怪我を負って瀕死の状態になった自分を、三日三晩寝ずに看病してくれたこと(ヒーリングしてくれたのはサガだろう)、etcetc.....。とてもじゃないけど、いちいち覚えてはいられないぞ、そんなことまでと言う細っけぇことまで、まるで昨日のことのようにシュラは覚えているらしい。オレは関心するを通り越して、ちょっと呆れた。

「それにアイオロスは……13年前のオレの罪を全て許してくれたんだ。知らぬこととは言え、アイオロスをを手にかけてしまったこのオレを、笑って許してくれた……。こんなこと、誰にもできないぞ。自分を殺した相手を、何も言わずに許してくれるなんて!」

あ〜、まぁそりゃそうかも知れねえけど、諸悪の根源っつーか、主犯のサガのことすらあっさり許せるような奴だぜ。しかもあんなことされても、まだサガのこと「愛してる」って言えるような奴なんだ。お前許すくらい朝飯前だろう。

「アイオロスこそ、心・技・勇・体全てが完璧に揃った、聖闘士の中の聖闘士なんだ!。わかるよな、カミュ、アイオロスがオレの尊敬に十二分に値する人だと言うことが」

……おい、シュラ、何か論点ズレまくってないか?。この際お前がやらなきゃいけないことは、カミュに謝り倒してカミュの怒りを収めて、カミュをこっから磨羯宮なり宝瓶宮なりに連れ戻すことなんだよ!。誰がアイオロスを熱く語れと言った!!。

「いや、それだけじゃない、アイオロスはな、男の優しさをも完璧に備えているんだ」

ま、まだ言うか?!。ってか、お前、それはアイオロスを美化しすぎなんじゃないのか?。お前さ、兄貴の前でデレッとしてるアイオロス、見たことないのかよ?。あれを見ていると、とてもじゃないけどそんな美辞麗句言う気にはなれないぞ。それにしてもこいつ、完璧自分の世界入っちゃってるよ。なるほど、これじゃカミュが激怒するわけだよ。しかも本人それに気付いてねえんだから、始末に負えねえや。

カミュはそんなシュラに冷ややかな目を向けていたが、

「優しいと言うならば、サガの方が優しい……」

やがてポソリと一言、言い放った。その言葉にオレの楯……じゃなくて、ミロも大きく頷いたが、それはオレも同感だった。うん、確かにそれはその通りだ。弟のオレが言うのも何だけど、サガの方が下のモンには優しいと思うぞ。何しろサガは、神のような男と言われてたくらい優しかったんだから。いや、邪悪な人格がなくなった分、今の方が昔よりず〜っと優しいぞ。それもオレが一番よく知ってる。

「いや、確かにサガは優しいかも知れない。が、サガの場合は優しいと言うよりは甘いんだ」

……何だと?!。

「真の男の優しさと言うのは、優しさの中に厳しさが、厳しさの中に優しさが完璧に同居している状態を言うんだ。アイオロスにはそれがあるが、サガにはそれがない。サガはな、甘すぎるんだ。優しいのと甘いのとは全然違うのだぞ」

ちょっと待ておい!。何だ、その言い草はっ!。サガは甘いだけ?!、冗談じゃねえぞ、コラッ!。

「甘やかすばかりが優しさじゃない。時には突き放す厳しさも必要なんだ。アイオロスはそれができる、だがサガはそれができない。アイオロスとサガの決定的な差はここなんだ」

あったま来たっ!!。言わせておけばこんにゃろう!。

「おいコラてめぇ、黙って言わせておけば図に乗りやがって!。いっくら何でも今のは聞き捨てならねえぞ!」

オレはミロの背後から出て、シュラに詰め寄った。

「何がだ?」

にゃろう、相変わらずしゃあしゃあとした顔で聞き返しやがって!。

「何がだ?、じゃねぇ!。てめぇ、言うに事欠いてウチの兄貴のことバカにしやがったなっ!」

「バカになどしてないぞ」

「したじゃねえか!。甘いだの何だのと!」

「それは事実を言っただけだ」

あんだと、コラ!。

「てめえにそんなこと言われる筋合いはねえんだよ!。いいか、オレの兄貴はな、お前ごときに優しさ云々の講釈たれられるほど、安っぽい男じゃねんだ!」

「何だと?!」

シュラがキッとオレを睨み上げ、勢いよくソファから立ち上がった。

「オレは間違ったことは言っていないぞ。サガはな、昔から大甘だったんだよ!。ミロ達がイタズラしても叱りもしないで甘やかしてばかりいたんだ。だからミロ達が、こんな甘ったれて育ったんだぞ!」

「何おう!!」

いきなり引き合いに出されたミロが、オレの背後から怒鳴り声をあげた。当たり前だ、そんな言い方されたらミロだって怒る。最も、それについてだけはちょっと一理あるような気もしないでもなかったが、そんなこと言ってる場合じゃない!。

「アイオロスなんて、口で怒るより先にすぐ尻叩いたぞ!。サガはそんなことしなかったぞ!、叱るときだって優しく叱ってくれたんだ!」

これについてはオレではなく、当事者たるミロが応戦した。

「それが甘いというんだ!。時にはな、ひっぱたいてわからせなきゃいけないことだってあるんだ。アイオロスはそうだった。厳しくしなきゃいけないときには、ビシッと厳しく叱ってくれた。殴られもしたが、その拳には愛情がたっぷり詰まっていたんだ!」

ああ?!。それはお前の思い過ごしだ思い過ごし!。語りながら悦に入ってんじゃねぇ!。

「アイオロスは乱暴なだけだったじゃないか!」

そうだそうだ、いいぞ、ミロ!。もっと言え!。……ってお前、何で尻押さえてんの?。お前、チビの頃そんなにアイオロスにこっぴどく尻叩かれたわけ?。

「違う!。それはアイオロスが、子供の時からオレ達を対等に、男として扱ってくれた証拠だ!。サガはオレ達を子供扱いするだけだったろう!」

ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う……全く、こいつの思考回路はアイオロスの1文字が加わると、冷静とか客観的とか、そう言う計算式が全てすっ飛ぶのかよ!。

だが、そう言われてミロが鼻白んでしまったので、オレがまたその後を引き継いだ。

「いいか、てめえがアイオロスを崇拝するのは勝手だが、その引きあいにサガを出してんじゃねぇ!。大体、アイオロスとサガでは比べ物にならねえだろう!」

「何?!、どう言う意味だ?!」

「アイオロスはただ単に思考回路が行動に直結してるだけだ。要は単純なんだ。でもサガは違うぞ。サガは野蛮なことはしない。アイオロスより遥かに思慮深いからな。サガは相手を、優しく理詰めで説得するんだ。サガの方がよっぽど効率的で、賢いんだよ!。アイオロスなんかにゃ絶対真似できないんだからな!」

それにある意味、サガの方がよっぽど厳しいんだ。サガにマジ説教食らってみろ、絶対に言い逃れなんかできないし、その上マジギレされた日にゃスニオン岬行きだ!。サガの厳しさは、他でもないこのオレがよぉ〜〜〜っく知ってんだよ!。だからてめぇに甘いだの何だの、言われる覚えはないんだ!。

「サガのは理屈っぽいと言うんだ!。まどろっこしいんだ!」

それでも負けじと言い返してくるシュラに、オレも最後の堪忍袋の緒が切れた。

「理屈っぽいんじゃねぇ!。サガはな、優しくて頭がいいんだ!。無駄に人を怒鳴ったり殴ったりはしねんだよ!」

怒鳴られたことも殴られたこともあるけど、この際それはなかったことにする!。脳ミソまで筋肉のアイオロスと、知性派のウチの兄貴をいつまでも同列線上に並べられて堪るか!。

「大体、サガが甘っちょろくて変に理屈っぽいから、13年前にお前を更生させることが出来なかったんだろうが!。そしてそのまま、甘ったれて大きくなったんじゃないか!。しかも今だってお前にメチャ甘だろう!」

「それこそ余計なお世話だ!。別にオレは今も昔も、サガに無条件に甘やかされてるわけじゃない!。それにな、仮にアイオロスがオレの兄貴だったとしたって、それこそオレを更生なんかさせらなかっただろうさ、どあほう!」

「どあほうにどあほうと言われる筋合いはオレにはない!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる!。大体てめぇがバカなんだ、アイオロスバカ!」

「何だとこの野郎っ!。オレがアイオロスバカなら、お前はサガバカだろう!」

「ふんっ!。オレの兄貴はなっ、大声で自慢するに値するだけの男なんだよ。筋肉バカのアイオロスとは違うんだ!」

「アイオロスが筋肉バカなら、サガは頭でっかちだろう!」

「頭でっかちだぁ〜?!。脳みそまで筋肉化してるよりゃ、遥かにマシだ、このボケッ!」

「何だと?!、貴様そこまでオレの尊敬するアイオロスを愚弄するか?!」

「てめえが最初にオレの兄貴を小馬鹿にしたんだろう!」

「小馬鹿になどしてはいない。サガの甘さを指摘しただけだ!」

「おう、だからオレもアイオロスの単純さを指摘してやったまでよ!」

「こんの野郎〜!、もういい加減我慢できねえぞ!。外に出ろ!外にっ!!」

「上等だぜ、コラ!。もっぺんあの世に送り返してやるっ!」

オレとシュラは、光速で天蠍宮の私室を飛びだした。このクソガキ、オレと兄貴をバカにした罪は重いぞ、覚悟しやがれ!。


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