天蠍宮私室を飛びだすなり、戦闘モードに入ったカノンとシュラは、天蠍宮通路で自己の小宇宙を燃焼させ、増大させた。シュラは山羊座の聖衣を呼びだすと、それをその身に纏い、更に完璧な体勢を作る。そして益々強烈に、小宇宙を燃やし始めた。生身ながらもカノンも負けじと小宇宙を燃やす。はっきり言ってカノンは、事の始まりが何であったかなど、すっかり忘れ去っていた。 「何だ何だ?!、どうした?、何の騒ぎだ?!」 2人のただならぬ小宇宙を感じて、下からムウ、アルデバラン、デスマスク、アイオリア、シャカが、上からはアフロディーテがこの天蠍宮にやってきて、戦闘モードの2人を見つけ、ぎょっとした。 「一体どうしたと言うのです?、ミロ!」 ムウが事の次第をこの宮の主に問い質す。本来当事者であったはずのカミュとそしてミロだったが、いつの間にか当事者が入れ替わり、既に部外者となっている。 ミロとカミュが集まった黄金聖闘士達に事の次第を説明すると、皆一様に呆れ顔となり、直後、大きく溜息をついた。 「何と下らない……」 そうぼやいて小さく頭を左右に振ったのはムウである。 「あ〜あ、ったくしょうがねぇなぁ。アイオロス信者のシュラには、何言ったって無駄なのに。カノンの奴、ムキになるだけバカ見るぞ」 シュラと同期で、シュラのアイオロス崇拝がいかほどのものか一番よく知るデスマスクが、達観した口調でそう言うと、同じく同期のアフロディーテも深く頷いた。 「それを言うならカノンも極度のブラコンだからな。レベルは同じだ。きっといい勝負になるであろう」 悟りきったようにそう言い放ったのは、シャカである。結局のところ、とどのつまりはどっちもどっちと言うことなのである。集まった面々は、諦めの深い溜息をついた。 「てっ、天蠍宮が壊れるぅ〜〜〜」 やっとカミュの冷気から半分解放されたと思ったら、今度は黄金聖闘士同士のケンカである。バトルが始まったら、天蠍宮が無傷でなど済むわけがない。ミロはおろおろと右往左往し始めた。だが集まった他の面々は、当然のことながら2人を止めようなどと言う気は全くないようで、既に傍観の体勢をとっている。自分の宮じゃないだけに、気楽なのだ。 「ア、アイオリア!、頼む!、アイオロスとサガを呼んできてくれ!。天蠍宮が壊されちゃうよ〜〜〜!!」 唯一、心配そうにしていたアイオリアに、ミロは泣きついた。黄金聖闘士の中でも割に常識をよく心得ているアイオリアは、ミロの頼みをすぐに聞き入れ、とにかくバトルを始めさせるんじゃないぞとミロとカミュに言い置いて天蠍宮を飛び出していった。
「な……何だ?、この小宇宙は?!」 どんどんと増大していく2つの小宇宙は、紛れもなく戦闘時の小宇宙だ。しかもこの十二宮内部から発せられている。至近距離だ。何か緊急事態かと2人の中に緊張が走ったが、直後、その小宇宙が誰のものであるかを感じ取り、サガとアイオロスは慄然とした。 「この小宇宙は……カノン!」 思わず声を上げたのは、サガだった。間違いなく、片方の小宇宙は自分の弟のものであった。 「もう1つの方は……シュラだぞ!」 続いてアイオロスが声を上げた。もう片方の小宇宙は、自分が一番目をかけている、いわば一番弟子のような存在であるシュラのものだ。 一体何故この2人の小宇宙がこんなにも増大しているのか?。十二宮内に何か非常事態が起こったのだとしたら、他の黄金聖闘士達の小宇宙も感じるはずなのに……。サガとアイオロスは思わず顔を見合わせた。 その時、教皇宮にアイオリアが血相を変えて駆け込んできた。 「兄さん、サガっ!!」 アイオリアはすごい勢いで2人の側に駆け寄ると、兄・アイオロスの腕と、サガの腕を掴んだ。 「ど、どうしたんだ?、アイオリア!。この小宇宙は一体……」 尋常でない弟の慌てぶりに、アイオロスが理由を聞き返した。 「カノンとシュラが、天蠍宮で大喧嘩してるんだ!」 「何だってぇ?!」 サガとアイオロスは、同時に声をあげた。 「カノンがシュラと……い、一体なんで……?!」 サガは平素の彼らしくもなく、慌てた。何しろ、自分の弟は既に前科何犯の要注意人物なのである。改心したとは言え、まだ頭に血が上ると何をしでかすかわからないところがある。聖戦以後、ここまでずっとおとなしくしていたのに、ここまで来て何か問題を起こされたのではかなわない。 「オレもよくわからないけど、兄さんとサガのことが原因らしいんだ!」 「私とサガ?!」 「とにかく早く来て2人を止めてくれ!。オレ達じゃ止められないんだよ!!」
「サ、サガぁ!」 ミロがサガとアイオロスの姿をいち早く見つけ、大急ぎで駆け寄った。 「ミロ、これは一体どういうことなんだ?!」 「どうもこうもないよ!。カノンとシュラがケンカ始めちゃったんだ!」 それまでの過程を全てぶっ飛ばして、ミロが2人に訴える。はっきり言って説明にも何にもなっていない。ただ誰の目にも明らかな事実を伝えているだけなのである。 「……元々、ケンカしていたのは私とシュラだったのですが……」 そんなミロをフォローするかの如く、慌てまくるミロとは対照的に、冷静にカミュは事を要約してサガとアイオロスに伝えた。 「そんな下らないことでケンカを始めたのか?!」 それを聞いたサガも、さすがに呆れずにはいられなかった。 「2人にとっては大事なことなんだろ」 だが暢気にそう答えたのはデスマスクである。 「お前達は何をそんなのんびりと構えているのだ?!」 「何を言っても無駄なことは、私達が一番よく知ってるからです」 薔薇の花を弄びながら、今度はアフロディーテが答えた。 「気が済むまでやらせておくに限るな」 そして最後に、シャカがそう締め括った。 「何を無責任な……」 「止めてくれよ、サガぁ!。天蠍宮が壊れる!!」 我が宮のことなだけに、他の傍観者のように気楽では居られないミロは、必死にサガにそう訴えた。 「わかった。安心しなさい、必ず止めるから」 ミロの肩をポンポンと叩いて落ち着かせると、サガはアイオロスを促してカノンとシュラのバトルフィールドの中へ踏み込んでいった。 「やめないか、お前達!!。人の宮で何をしているのだ!」 小宇宙を最大限にまで高め、2人が踏み込もうとした瞬間に、サガとアイオロスが2人の間に割って入った。 |
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