とある晴れた日の午後のこと。 ムウが自宮の私室でゆったりとティータイムを過ごしていると、突如玄関が勢いよくドンドンとノックされた。そのノックの仕方で訪問者の見当がついたムウは、別に出迎えに行くわけでもなく、ソファに座ったまま淹れたばかりの紅茶を啜っていた。 出迎えなかったからと言って居留守を使っているわけではない。別に玄関まで出ていかなくても、すぐに勝手に中に入ってくるであろう事がわかっていたからだ。 案の定、5秒と経たないうちに玄関の扉が開閉する音が聞こえ、間もなくその訪問者がリビングへ姿を現した。 「よう、ムウ。返事がなかったから、勝手に入ってきちゃったぜ」 うっかりすれば住居不法侵入になるのだが、そんなこと気にもしていないのか、ミロは悪びれた様子も全く見せることなく笑顔でムウにそう言った。 「貴方が勝手に入ってくるのはいつものことでしょう。わかっていたから出なかったんですよ。それにしても、もう少し静かに扉を叩いてくれませんか?、喧しいですよ」 言っても無駄であることはムウも熟知していたが、まぁこれはムウとミロとの挨拶みたいな物である。 「別に壊れるほど強く叩いてるわけでもあるまいし、固いこと言うなよ。それよりもさ、頼みがあって来たんだ」 「それもわかりますよ。その出で立ちをみれば一目瞭然です。聖衣の修復でしょう」 何か用事や頼みごとがあるのだと言うことは、ミロがここに来た時点でわかりきっていた。よく言えばかなり外向的で社交的なミロは、十二宮内にも外にも、親しい友人はいる。用事もなしにムウのところへ、ましてや遊びになど訪れることは皆無に等しいのだ。しかも聖衣ボックスを背負っているとなれば、わざわざ用件など聞くまでもないだろうが、ムウがちょっと不思議に思ったのは、ミロが背負っている聖衣ボックスが1つではなかったと言うことだ。 「でも何故、2つも聖衣ボックスを背負っているのですか?」 そう、ミロは2つの聖衣ボックスを背負って、白羊宮に現れたのである。1つは自分自身の蠍座の聖衣として、もう1つは……?。 「ああ、これね……よいしょっと!」 ミロは背負ってきた2つの箱を床に下ろすと、ふぅ〜、と大きく息を吐きだした。 「双子座の聖衣じゃないですか……。一体何故、貴方がこれを持ってきたのです?」 置かれた聖衣ボックスを見て、ムウは僅かに目を瞠った。ミロが持ってきたもう1つの聖衣は、サガのものである双子座の黄金聖衣だったのである。 「うん、実はさぁ〜、こいつをちょっと改造して欲しいんだ」 ミロは双子座の方の聖衣ボックスをポンポンと叩きながら、ムウに言った。 「改造?……修復ではなくて、ですか?」 「そう、改造。ちょっとばかしデザインを変えて欲しいんだよね」 「双子座の聖衣をですか?!」 「そうだよ」 しれっとしてそう答えたミロを、ムウはマジマジと見つめた。 「……一体どう言うことですか?」 持ち主であるサガ、もしくはカノンが頼みに来たのであれば話はわかるのだが、何故ミロが双子座の聖衣の改造などを頼みに来たのか、さすがにムウにもさっぱりミロの意図が理解できなかった。 「ん?。いやさぁ、ジェミニの聖衣ってさ、何つーの、結構デザインごっついじゃん?」 「……それが?」 「オマケに露出度が目茶苦茶少ないじゃん?」 「……ですから、それが何か?」 「だから〜、露出度少なすぎて面白くないんだって」 「はぁ?!」 ムウは、彼らしくもなく素っ頓狂な声をあげた。 「見えるの、二の腕がちょっとだけなんだもん。つまんねーじゃん。だからちょっと改造して欲しくてさ」 「…………つまる、つまらないの問題じゃないでしょう」 「そう言う問題だよ!。せっかく中身が綺麗なのに、勿体ない!」 力説するミロに本気を見て取って、ムウは呆れた視線を投げ返した。 「全く、何を言い出すのかと思えばくだらない」 その後、嫌みの意味も込めてムウは思いっきり溜息をついた。 「何がくだらないんだよ?」 「くだらないですよ。大体、持ち主であるサガかカノンならともかく、何故無関係の貴方がそんな依頼をしてくるんですか」 「無関係じゃないよ。オレはこれでもカノンの恋人だぜ」 ミロに真剣にそう言い返され、ムウは更に呆れてすぐには言葉を継げなかった。 「恋人云々はこの際関係ないでしょう。聖衣の持ち主は貴方ではないのですから、貴方がどうこう言う権利はないはずですよ?。それに確かにこの聖衣はカノンのものでもありますが、正当な所有権はサガにあるのです。貴方とカノンだけで勝手に決めていいものでもありません。サガが改造に承知していると言うのなら、話は別ですが……」 例えそうであったとしても、ムウはサガが直に頼みにでも来ない限り、首を縦に振るつもりはなかった。だがあのサガがこんな馬鹿げた理由で聖衣の改造を承知などするはずがない。確認したわけではなかったが、100%あり得ないこととムウは確信していた。 「サガが承知してるわけないだろ。ついでに言うなら、カノンもこのこと知らないよ。極秘プロジェクトだもん」 とんでもないことをあっけらかんとミロは言った。 「それじゃっ……この聖衣は無断持ち出しですか?!」 さすがに驚いてムウが聞き返すと、ミロは首を左右に振って 「いや、カノンには断ってきたから、無断じゃないよ」 相変わらず悪びれた様子の欠片も見せずに、答えた。確かにカノンもこの聖衣の持ち主ではあるから、無断持ち出しでないことはないのだが……。 「サガはどうしたんです?。カノンはともかく、サガがそうあっさりと聖衣を第三者に預けるわけはないはずですが?」 カノンと違って神経質なサガが、あっさりと他人に聖衣を預けるはずなどない。ミロがサガを言い包めることなど天地がひっくり返ってもあり得ないし、一体どうやって丸め込んだものやら、ムウにはむしろそっちの方が不思議であった。 「サガ?、居ないよ」 「居ない……って、出かけてでもいるのですか?」 「そう。今日サガもアイオロスも仕事休みだからさ。アイオロスたきつけて、サガ連れ出させたんだよね。今頃仲良くデートしてると思うよ〜」 さすがにサガが居たら、そう簡単には持ち出せないもんな〜と、ミロはケタケタと笑った。アイオロス……と、ムウは思わず頭を抱え込みたくなった。まさかアイオロスを上手く利用したとは思いもしなかったが、確かにミロはこう言うことには妙に頭が回るのだと言うことを、ムウは今の今まで完全に失念していた。 「……カノンには何て言って持ち出してきたんです?」 聖衣の改造は極秘プロジェクトだとつい今し方ミロが言っていたばかり。サガを上手く躱したうえで、更にカノンには何て言ってきたものやら……。 「オレの聖衣をムウにメンテナンスしてもらうから、ついでにお前の聖衣もどう?って言ったら、あっさりOKしてくれたよ」 「それじゃ、貴方のそのスコーピオンの聖衣は……」 「そう、カモフラージュ♪」 無邪気に答えるミロを見て、ムウは大きな疲労感に襲われた。カノンの大雑把な性格はムウも知ってはいたが、些か度を越しているように思えるのは気のせいではないだろう。確かにミロは一応カノンの恋人だし、その安心感も手伝っていたとは言え、さすがに大雑把にも限度があろうと思わずにはいられない、ムウであった。 「貴方に聖衣を預けて、当のカノンは何をしてるんですか?」 「自分家にいるよ。新しいゲーム預けておいたから、それに夢中になってる」 ムウはまたしても絶句した。サガ(と言うかアイオロスと言うか)と言い、カノンと言い、ミロにあっさり手玉に取られるなど情けないにも程がある。 「もう1つ聞いていいですか?。改造改造と言いますが、どこをどう改造しろと言うのです?。アームやレッグのパーツでも短くして、肌の露出度を上げろとでも言いたいのですか?」 馬鹿馬鹿しいと思いつつ、ほんの僅かな好奇心が手伝って、ムウはミロにどんな風に聖衣を改造して欲しいのかを尋ねてみた。 「違う違う!。ヘソ見えるようにして欲しいんだ、ヘソ!」 「はぁぁ?!」 ムウは先刻に勝るほどの素っ頓狂な声を出し、大きな目を更に大きく見開いて、ミロの顔を見た。 「ヘソ……って……」 ムウが自分の腹部のヘソの位置を指差すと、ミロは満面に笑みをたたえて全身で頷いた。 「そう、ヘソがね、ちらっと見えるように改造して欲しいんだよ。こう、聖衣の隙間からチラッと」 楽しげに言うミロの顔を、ムウは穴が開くほどマジマジとじ〜っと見つめた。 「……貴方、カノンにおヘソも見せてもらえないんですか?。よくそれで恋人だなんて大口叩けますね、呆れたものです」 やがてムウはその言葉通りのあからさまな呆れ顔で、大きく深い溜息をついた。 「なっ!、んなことあるわけねえだろっ!!。カノンの体はなぁ、頭のてっぺんから爪先まで、前後左右余すところなく知り尽くしてらぁ!」 自身のプライドにも関る問題だけに、ミロは声を荒げて捲し立てた。他人が聞いたら思わず赤面してしまいそうなくらいの結構際どい台詞なのだが、ミロはそのことに全く気付いていなかった。この場にカノンがいたら、恐らく問答無用で異次元に吹っ飛ばされていたであろう。 「そう言うレベルの話じゃなくてさ、何て言うのかな〜?、えっと、日本語で言うところのチラリズムってやつ!。隙間からチラッと見える生肌って、結構そそるじゃん♪」 更に力を入れて言葉を継いだミロに、ムウは冷笑を向けた。 「馬鹿だ馬鹿だとは思ってましたが、ここまでとは……開いた口が塞がらないとは正にこのことですね」 「なっ?!、誰が馬鹿だよっ?!」 「今、この場には私の他には貴方しかいません。貴方以外の何者を指していると言うのですか」 嫌み、皮肉を言わせたら、恐らく黄金聖闘士随一のムウに正面切って言われ、ミロは思わず鼻白んだ。 「全く、再三言ってますが下らないと言うか、呆れてものも言えません。そんな馬鹿げた聖衣の改造などお断りです」 「いいじゃん別に〜。壊せって言ってるわけじゃないんだから」 「だからそう言う問題じゃないと先程から言っているでしょう。論点が根本的に間違っているんです。大体、持ち主本人の了承もなしに、そんなことできる道理がありません。重ねて言いますが、お断りです!」 ムウはまるで小学生児相手の時のような説教をミロにかまして、断固としてミロの依頼をはねのけた。そんなつもりは更々ないが、万一にもミロの言う通りに無断で双子座の聖衣を改造なんかしてしまったら最後、バレたらタダでは済まないのはムウとて同じだ。そんな危険な遊びに付き合うほど、ムウは馬鹿ではなかった。 「どうしても改造して欲しければ、サガの許しを得て、サガとともに来ることですね。持ち主の依頼であれば私は拒めませんし、文句を言える義理でもありませんから」 更に突き放すように言って、ムウは殆ど冷めてしまった紅茶に口を付けた。 「持ち主じゃないけどさ、もっと強力な人からの許可はもらったよ」 だがそのすぐ後に付け加えられたミロの言葉に、ムウはまた慌てて視線をミロの方へ転じた。 「もっ、もっと強力な人の許可……とは、まさかシオン様ですか?。シオン様がそんな馬鹿げた許可を出すわけが……」 「いや、教皇じゃない、教皇よりもっと上。絶対誰も逆らえない人だよ」 嬉しそうにそう言って、ミロはにっこりと笑った。 「誰も逆らえない……って、まさかそれはもしや……」 「そう、女神♪」 ムウは思わず、驚きに任せて勢いよくソファから立ち上がってしまった。 「ア、女神が、まさか、そんな……」 ことを許すわけがないと、ムウは自分で自分に言い聞かせた。いや、でも、しかし…… 「マジだって〜。ホラ、これ女神からもらってきた、自筆の念書♪」 ミロはそう言いながらシャツの胸ポケットから四つ折りにした紙片を取りだし、ムウにそれを渡した。ムウは半信半疑(と言うか、絶対に信じたくない気持ちで)それを受け取ると、恐る恐る折り畳まれた紙片を広げた。 そこには……
と、間違いなく沙織の直筆で、しかもグラード財団の透かしの入った正式書面用の用紙に書いてあり、その上ご丁寧に財団印まで押してあったのだ。 これにはさすがのムウも閉口せざるを得ない。今日一番ムウを驚愕させたのは、間違いなくこの1枚の、だが絶対的な力を持った紙っぺらであった。 「女神……」 ムウはその紙っぺらを持ったまま、がっくりと肩を落とした。 「……ミロ、一体どんな手を使って女神を言い包めたのです?」 この書面が本物であることは、紙片に固着している女神の小宇宙からも疑う余地はない。だが一体ミロがどうやって、こんな個人的な、しかも邪な考えから生まれた要望を、女神に納得させたと言うのか、その過程の方がムウには気になった。 「別に。さっきお前に言った通りのことそのまま言っただけだけど」 「まさか。あんな理由で女神が簡単に許可するわけが……」 「あっさり許可してくれたよ。『サガとカノンは美人だから許すわ!』って、もう超あっさり、しかもすっげぇ嬉しそうにノリノリで」 ムウは今度は、激しい眩暈に襲われた。が、よくよく考えれば、あの女神だったらそれくらいは言い兼ねないことに気付き、ムウは小さく左右に頭を振った。 「きっとこれがアルデバランとかだったら、女神も許してくれなかったと思うけどね〜」 アルデバランを引き合いに出して、ケラケラと笑い声を立てたミロの頭を、ムウが光速でひっぱたいた。 「痛てっ!、何すんだよ!!」 いきなり乱暴に頭を叩かれ、ミロは当然抗議の声を上げたが、ムウは完全にシカトを決め込んだ。表面上は表情を崩していなかったが、自分の恋人をバカにされて大人しくしていられるほどムウでは穏やかな気質の持ち主ではなく、無礼な発言者に向かってしたたかな逆撃を加えたのであった。 「ちぇ、まぁいいや。とにかくさ、女神の許可があれば誰も文句は言えないだろ?。改造してくれるよね」 こう見えてアルデバランにはベタ惚れのムウの前で、ついうっかりと余計なことを口走ったのはマズかったので、ミロもとりあえずどつかれたことにこれ以上言及するのは止めておいた。下手すると更に墓穴を掘りかねないからだ。 「仕方がありませんね……」 こうなってしまったら、ムウとしても甚だ不本意ながら承諾せざるを得ない。女神がうんと言ってしまった上に、念書までよこしたとあっては最早逆らう余地など残されてはいなかった。サガとカノンには災難だが(自分もよっぽど災難だが)、ムウとてここは大人しく従うより他術はないのだから致し方ない。ムウはまたもや、溜息をついた。 「ところでミロ、この女神の言っている『浜あゆ風』と言うのは何なのです?。魚ですか?」 日本には「鮎」と言う魚がいることはムウも知っている。だがこれは川魚のはずなのだが浜といえば海だし……となるとやはり海には海に、鮎と言う魚がいるのだろうか?。いや、それより以前の問題として、魚座の聖衣と言うならともかく、双子座の聖衣を改造するのに何故魚なのだろうか?。 「違うよ。それは『浜崎あゆみ』とか言う、日本のアイドルのことだ。この姉ちゃんがヘソだした途端、日本中でヘソ出しが流行ったんだとよ。ああ、これだ、これ」 ミロはまた胸ポケットから、今度は雑誌の切り抜きのような物を出すと、それをムウに見せた。帰ってくるときに、女神に持たされたものだと言うその切り抜きには、茶だが金だがわかんないような人工染色の髪をした目のでかい女性タレントが、携帯電話片手に見事なヘソ出しルックで写っていた。 「あまり品があるとは言えませんね……」 ムウはそう呟いて、興味の欠片もなさそうにその切り抜きをミロに返した。 「だからさ、そこはムウのお力で品良く改造してくれよ。なっ?、頼むよ、ムウ様ぁ」 冗談口の中に本気の要素を練り込め、ミロはムウを拝むように顔の前で両手を合わせた。 それにしてもまさかたかがカノンのヘソの為に、わざわざ日本の女神のところにまで聖衣改造の許可をもらいに行くとは、知能犯なんだかただの馬鹿なんだが、ムウも正確な判断に困るところではあった。 「ねぇ?、改造にどれくらい時間かかる?」 ムウの無言を肯定と受け取り、ミロは早速改造に要する時間を尋ねた。 「1時間くらい……でしょうか」 「わかった。それじゃオレ、双児宮で時間潰してくるよ。1時間後にまた来るから、よろしくなっ!」 ミロはムウの手から女神の念書を取り返すと、大事にそれをまた胸ポケットにしまって、喜々とした様子で白羊宮を出ていった。 厄介な頼みを押し付けられたムウは、うんざりとした面持ちでしばらく双子座の聖衣が収納された聖衣ボックスを眺めていたが、やがてすっかりと諦めをつけると、聖衣ボックスを抱えて作業場へと入っていった。嫌な仕事は、さっさと終わらせるに限るのだ。
1時間後、ウキウキしながら再び白羊宮を訪れたミロは、テスト装着用の人形に装着された、予想外の形に改造された双子座の聖衣を見て声を張り上げた。 「貴方のご希望通り、おヘソが見える形に改造したのですが?」 「違う〜〜〜!。オレが思い描いていたのはこんなんじゃない!」 しれっとした顔で言うムウに向き直り、 「これはただ、ウエストんとこぶった切っただけじゃん!。これじゃモデルチェンジ前の、青銅聖衣みたいじゃないか!!」 見事にウエストのところをカパッと切られ、ビキニ状態のようにされてしまった双子座の聖衣を指差しながら、ミロはムウに詰め寄った。何しろ本当にウエスト部分を切り取られ、単に上下にセパレートされただけの状態なので、元のデザインがごっつい分非常にマヌケに見えるのである。 「何が気に入らないんです?。貴方が見せてくれた切り抜きだってこんな感じだったでしょう」 「あれはオレの希望じゃなくて、女神が『こんな感じもいいわぁ(はぁと)』っつってただけだろ!。オレの希望は最初にちゃんと言ったじゃないか!」 「どこがちゃんとなんですか!。ヘソ見えるように改造してくれって言うから、その通り改造してあげたんじゃないですか!」 「だ〜か〜ら〜、チラッと見えるようにっつったろ、チラッとだチラッと!。こんなにガバッと開けろなんて言ってねぇよ!」 「ヘソヘソと馬鹿みたいに力説してたのは貴方でしょう!。希望を叶えてやったのに文句を言われる筋合いはありません!」 「こんなに開いてたら年中ヘソと腹が晒されるだろ?!。ありがたみも何もないじゃないかっ!。こう、たまにチラッと見えるのがいいんだってば!!」 「じゃぁどうしろと言うんです?!。もっときちんと具体的に説明なさい!!」 元々馬鹿馬鹿しい依頼を強制的に押し付けられた揚げ句、それを聞いてやったら聞いてやったで文句を言われ、さすがにムウも頭に来て、ミロにつられるように声を張り上げて徹底抗戦した。そもそもミロがきちんと具体的な説明も施さずに行ったから悪いのであって、こんな風にケチをつけられた義理ではないのである。 「だから、こう、何て言うのかな?。普段は見えなくて〜、ふとしたときにチラッと生肌とヘソが見えるってのが理想的なんだ」 「ですから、具体的にと言っているでしょう!」 「ん〜とぉ………」 具体的に!と再三念を押され、ミロは腕組みをして考え始めた。自分の頭の中では漠然としたビジョンはできているのだが、それを言葉に変換するのは非常にミロには難儀なことであったのだ。 「そうだ、腕を伸ばしたり上げたりしたときに、腹んところが開いて、チラッと見えるのがいい!」 約1分ほど考え込んだ後、ミロは目を輝かせながら手を叩いた。 「それは、つまり?」 正面に立っているムウが、冷ややかに先を促す。 「んと、だからさ、フツーに立ってるときは見えなくて、手を伸ばしたり上げたりした時にだけウエストんところが上がって中が見える……って形に改造してくんない?」 そうすればパッと見た瞬間は今までとは全く変わりない状態で、着用しているサガかカノンが何か動作を起こしたときだけ上手い具合に隙間が開いて、中が拝める……と言う算段である。 「なら最初からきちんとそう説明すればいいでしょう。全く、お陰で二度手間ですよ。迷惑です」 女神の念書がある以上、もう嫌だと言えないムウは、言葉尻に思いっきり刺と嫌みを含ませた。 「もう一度やり直しますから、あと1時間もらいますよ。それと、今後人に物を頼むときには、きちんと依頼事を頭の中で整理してから、的確に伝えてくださいね!」 ムウは最後にもう一言嫌みを付け加え、双子座の聖衣を装着したテスト人形を小脇に抱えて、再び作業場へと戻っていった。 だが、その嫌みがミロには全く通じなかったことは、言うまでもない。 |
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