A JACK IN THE BOX
「本当に世話になったな」

一行は一旦城戸邸に戻ったが、シュラ達は腰を落ち着ける間もなく暇を告げることになった。

「いえ大したことしたわけじゃありませんから」

「今度は是非ゆっくり遊びに来てくださいね」

氷河と瞬は謝りっぱなしのシュラに、そう言って無邪気に笑ってみせた。

「おう、お前達もまた聖域に来い。今日の礼と埋め合わせはたっぷりとさせてもら……」

そこで中途半端に言葉を切ったシュラは、何かを考えるかのように視線を宙に浮かせた。
氷河と瞬が「?」を浮かべて見返すと、数秒経ってからシュラは二人に視線を戻し、

「なぁ、お前達、よかったら今日これからオレ達と一緒に来ないか?」

「えっ!?」

「別にこれから何か予定があるとか、そういうことはないんだろう?」

「え、ええ、それはまぁ……」

「なら来いよ、帰りはちゃんと送ってやるから。何だったら泊まってけ、明日一日くらい学校サボったってどってことないだろ」

「そうだ、それいい! そうしろよ!」

ミロがパァッと表情を明転させ、シュラに同意をした。
氷河と瞬は顔を見合わせてから、やや戸惑いがちに瞬が聞き返した。

「でも……いきなりお邪魔したらご迷惑じゃ……」

「迷惑なわけないだろ。むしろみんな喜ぶぞ」

シュラが即答し、ミロとシャカが促すようにして頷きを返すと、氷河と瞬は再び顔を見合わせて微笑を交換し、

「それじゃ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」

まだ若干遠慮しているような素振りはあるものの、それでも嬉しそうに氷河が答えた。

「よし、決まり!」

シュラも嬉しそうにケーキの箱を片手に抱え直し、空いた手で氷河の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「それじゃ善は急げだ。ソッコーで聖域に帰……」

「あ、待ってください」

シュラが氷河の、ミロが瞬の手を取りテレポートしようとしたところで、慌てて瞬がそれを引き止めた。

「どうした?」

「あの……僕達だけじゃなく、星矢と紫龍も呼んでいいですか?」

「オレ達だけで聖域に行ったら、後で二人に怒られちゃうんで……しかもサガとカノンの誕生パーティーでしょう?」

そう言われて、シュラ、ミロ、シャカの三人は同時に頷いた。

「だったら尚更……ほら星矢は特にサガのことを、すっごく慕ってますから」

「紫龍も、いつも貴方に会いたがっていますし……」

氷河に言われ、シュラが珍しく照れくさそうに微笑をする。

「もちろんそれは構わないっていうか大歓迎だけど、星矢と紫龍もここに居るのか?」

てっきりこの二人しか居ないものと思っていたので敢えて呼び出すつもりはなかったのだが、星矢と紫龍もここに居るのならもちろん彼らも一緒に連れていった方がいい。
星矢がサガを慕っているのと同じくらい、サガも星矢を可愛がっている。連れて帰ったら喜ぶことに間違いはないからだ。
ミロの問い返しに、だが瞬は首を左右に振って、

「いえ、ここには居ませんけど、携帯に電話すればすっ飛んで来るはずです。すぐに呼びますから、もう少しだけ待ってもらって構わないですか?」

「ああ、構わないよ」

シュラの許可を得て、瞬が自分の携帯を取り出したその時、

「一輝は?」

ここまでずっと微笑したまま相槌を打っているだけだったシャカが、不意に口を開いた。

「あ、一輝兄さんは相変わらず所在不明なんです。全然放浪癖が抜けなくて、困っちゃいますよね」

とは言うものの、瞬の口調は言葉とは正反対のあっけらかんとしたもので、逆に黄金三人を唖然とさせた。
瞬はくすくすと笑いを零すと、

「でも時々僕の携帯にメールくれるんで、どこかで元気にしてることだけは間違いないですよ」

ですから兄さんのことはお気遣いなく、と言い置いて、瞬は星矢に電話をかけた。
放っておいていいのかよ? と思わず心配した三人だったが、反面、あの一輝なら大丈夫かという変な安心感のようなものもあった。
どうしても呼び戻したければいくらでも探し出す手だてはある。
それをしないということはその必要がないからで、恐らく瞬も沙織も本人が戻って来たくなれば戻って来ると思っているから、こうしてのんびり気楽に構えて放ったらかにししているのだろうと理解し、シュラ、ミロ、シャカの三人は顔を見合わせ、何となく苦笑を交してからほぼ同時に肩を竦めあった。

10分後。
瞬が言った通りすっ飛んで来た星矢と紫龍を加え、一行は聖域へと戻った。

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