その晩もいつもと同じように黄金聖闘士候補生の子供達を寝かしつけたサガとアイオロスは、宿舎を後にして自宮への帰路についていた。

雲1つかかっていない夜空に、半月がポッカリと浮かんでいる。その月明かりだけを頼りに十二宮の階段を上りながら、2人はいつものように他愛のない会話を交わし、笑っていた。

まだ主が不在の白羊宮、金牛宮を抜け、サガが守護する双児宮へ辿り着く。アイオロスの守護する人馬宮は、ここから更に6つ上にあり、この先は1人で5つもの無人の宮を抜けていかねばならない。毎日のこととは言え、いつもここでサガと別れる瞬間が、アイオロスにとって一日のうちで一番嫌いな時間だった。

本当はもっともっと長い時間、サガと一緒に居たいのに……。そんなアイオロスのささやかで切なる願いが、自分が牡牛座か蟹座だったら良かったのに、とか、サガが蠍座か山羊座だったら良かったのに、とか、言う埒もない考えばかりを生み出していた。

「それじゃ、お休み、サガ。また明日な」

双児宮の私室のドアの前で、そう言いながらアイオロスが軽くサガに口付ける。これがいつもの、2人の別れ際の挨拶だった。

アイオロスは出会った頃からずっと、サガが好きだった。サガの方はいつから自分のことを好きで居てくれたのか、明確にはわからなかったが、それでも何とか想いを通いあわせることが出来てから、そろそろ1年が経つ。と、言ってもまだまだこうしてキスをして、抱き合うだけと言う、初々しい関係からは抜け出せてはいないが。

「ア、アイオロス!」

帰ろうと歩きだしたアイオロスを、珍しくサガが呼び止めた。

「ん?、何?」

アイオロスがすぐに足を止めて、サガを振り返る。サガは何かを言いたげに口を開け、だがまたそれをすぐに閉じて、瞳を伏せた。

「……どうしたの?」

様子がおかしいサガに向かって、アイオロスがもう一度尋ねる。何かを言いたい、言おうとしているのは一目瞭然であったからだ。サガは更に数秒ほど、俯いたまま黙っていたが、やがて意を決したように顔を上げた。

「あ、あのさ……」

「うん?」

「あのさ……後で人馬宮に……行ってもいい、かな?」

最後は消え入るような小さな声になっていたが、アイオロスの耳にはしっかりと届いていた。アイオロスが、少し驚いたように目を瞠る。ごくたまに自分が双児宮に立ち寄ることはあるが、その逆のケースは圧倒的に少なかった。時折、教皇宮からの帰り道に少しだけ……と言うか、アイオロスが強引に誘えば寄っていくことはあるのだが、やはり聖域を守護する十二宮の、入口により近い宮を守っているのだと言う自覚があるせいか、特に夜間、自宮を不在にすることをサガが好ましく思っていないことを、アイオロスは知っていた。

白羊宮、金牛宮を守護する聖闘士が居ればまた話は別なのだろうが、目下のところ、この十二宮を守護しているのはサガとアイオロスの2人。言わば双児宮が、現在の十二宮の最初の砦と言うことになるから、尚更である。

そのサガが、自分からこんな夜間に人馬宮に来ると言い出すとは、無論初めてのことである。一体どういう風の吹き回しかと思ったが、もちろん、拒む理由などアイオロスにはない。

「そりゃもちろん構わないよ。と言うか、すごい嬉しいけど……。それならこのまま一緒に帰ろうぜ」

抑えきれない喜びを全面に出して、アイオロスは小走りにサガの元へ戻ってくると、その手を取って引っ張った。

「ちょっと待って、すぐには行けないよ」

だがサガは首を左右に振ると、アイオロスが引っ張るのとは反対方向へ重力をかけた。

「どうして?」

ちょっと不満そうにアイオロスが瞳を揺らすと、サガは困ったような顔をして、

「うん、ちょっと……家でやらなきゃいけないことがあるから。それが終わったら……行くよ。だから、待ってて」

曖昧に言葉を濁しながらも、最後は笑顔を作ってアイオロスに言った。

「う、うん……わかった。じゃあ、待ってるよ」

そう言われてしまうと、アイオロスも強引なことは出来なかった。不審な思いを抱きつつも、アイオロスはサガに言われた通り、自宮に帰ってサガを待つことにしたのである。

アイオロスが双児宮を出ていく後ろ姿を見送ってから、サガはホッとしたように小さく息を吐きだして、私室の中へと入った。






サガが人馬宮に現れたのは、それから1時間程が経ってからだった。

どちらかと言うと早寝早起きのアイオロスは、夜も10時を過ぎる頃になると強烈な眠気に襲われる。今日もいつもと同じように眠気の来訪を受けたアイオロスだったが、気力と根性とを総動員してその眠気と闘っていた。が、どんどん強くなっていく眠気に遂に負けて、うとうとと微睡み始めたところへ、やっとサガがやってきたのである。眠気は瞬く間に吹っ飛び、アイオロスは大喜びでサガを人馬宮に招き入れた。

「こんな夜に、ごめん……」

サガはアイオロスに頭を下げながら、アイオロスに促されるまま人馬宮の私室へ足を踏み入れた。脇を擦り抜けたサガの髪から、ふわっと柔らかな香りがした。それはサガがいつも使っているシャンプーの香りなのだが、その馴染みの香りが普段よりも強くアイオロスの鼻腔を刺激した。考えなくてもわかる、サガは風呂に入ってきたのだ。やらなければならないこと、と言うのは、風呂のことだったのかと、やっとアイオロスは納得した。何だ、それならウチで入ればよかったのに、ともアイオロスは思ったが、口には出さなかった。

「何飲む?。コーヒー……は夜は飲まない方がいいよな。ジュースにしようか」

サガをリビングのソファに座らせると、アイオロスはその足でいそいそとキッチンへ向かいつつ、サガに尋ねた。

「いや、何もいらない」

サガは小さく首を左右に振る。

「え?、でもせっかく来てくれたのに、お茶の1つも出さないんじゃ……」

自分が双児宮に行ったときには、サガはいつもちゃんとお茶やお菓子を出してくれる。たまにサガが来てくれたときくらいは、自分だってそれくらいのことはしてやりたいのだ。

「ううん、いいから……。それよりもアイオロス、ここに座ってくれないか?」

サガはもう一度やんわりそれを謝辞して、目線で自分の隣に座ってくれるよう、アイオロスを促した。

「う、うん……」

いつもと様子の違うサガを訝しみながら、アイオロスはサガの側に戻ると、サガの求めに従って隣に腰掛けた。

「なぁ、今日のサガ、何かちょっとおかしいよ?。何かあったの?。それとも何か、言いづらいことでもあるの?」

ここに来てアイオロスは、もしかしたらサガは何か口にしづらいような、あまり良いとは言えない話を携えてきたのではないかと思い始めた。どことなくサガの表情が曇っているように見えたのが、アイオロスにそう思わせる要因になっていたのだが、サガはまたしてもそれに首を振った。

「そうじゃないよ、アイオロス。今日は君の誕生日だろう?」

「へっ?」

言われてアイオロスは、反射的に壁に掛かっているカレンダーを見た。別段、印などがついているわけでもないのだが、アイオロスは自分の中の記憶とカレンダーに並ぶ日付とを重ね合わせて、それを確かめているようだった。

「あ、ホントだ……」

少しして、アイオロスがマヌケな声をあげた。間違いなく今日は、自分の誕生日当日であった。

サガとたった2人でこの十二宮を守護し、その傍らで教皇の補佐をし、自分の弟を含めたまだ幼い聖闘士候補生達の面倒を見る日々に忙殺され、自分の誕生日のことなど本当に今の今まできれいさっぱり忘れていたアイオロスである。

「やっぱり忘れていたんだね……」

予想通りのアイオロスのリアクションに、サガは苦笑とも微笑とも取れる笑みを浮かべる。

「うん、コロッと……」

バツが悪そうにしながら、アイオロスは頭を掻いた。サガの誕生日は頼まれても忘れないアイオロスだが、自分のことには呆れるくらい無頓着なのである。

「忙しくて何もしてあげられなかったけど……せめて私だけでも、と思って……」

「サガ、それで……」

今日に限っていきなりサガが自分から人馬宮に行く、などと言い出した訳は、これだったのだ。アイオロスに問われ、サガは小さく頷いた後、

「誕生日、おめでとう……」

改めてアイオロスに向き直り、正面からしっかりとアイオロスのライトブルーの瞳を捉えてそう告げると、そっとアイオロスの頬にキスをした。

「あ、ありがとう、サガ……」

頬にキスをもらっただけなのに、何故だか妙に照れ臭くて、でもいつもより何十倍も嬉しくて、アイオロスは頬を赤くした。

「それで、あの……」

アイオロスが幸せに浸っていると、サガが再び、表情を強張らせて口を開いた。

「何?」

「あの、その……それで、誕生日プレゼント……なんだけど……」

言いづらそうに言葉を詰まらせるサガを見て、アイオロスが小首を傾げる。

「何を……贈ったらいいのかがわからなくて……それで、その……」

いつもの彼らしくもなく、言葉に詰まりまくって言いたいことがなかなか先に進まないサガに、ようやくそれを理解したアイオロスが、満面の笑みで答えた。

「別に何もいらないよ。サガがオレの誕生日を覚えててくれて、それでこうやってオレの側に来てくれたことだけで、充分なんだから」

これは社交辞令でも何でもなく、正真正銘アイオロスの本心であった。もし自分がちゃんと自分の誕生日を覚えていたとして、プレゼントは何がいいかと問われたら、1も2もなく「サガが側にいてくれること!」と答えるだろう。つまり、アイオロスはちゃんと欲しいものを手に入れたと言うことになるわけだ。

だがどうやらサガはアイオロスの言葉を自分への気遣いと取ったらしく、困ったように眉間を寄せた。

「アイオロス……それでは私の気が済まない……」

「何で?」

「何でって、だって……せっかくの誕生日なのに……私から君に、何もしてあげられないんじゃ……」

サガはそこで一旦言葉を切ると、切なげに長い睫毛を伏せた。

「だから、そんなこと気にしないでくれよ。オレはホントに、こうしてサガが来てくれたことだけで満足なんだからさ」

アイオロスはサガの肩に手を置き、サガの瞳を覗き込みながら笑顔を送った。その笑顔に、ふと一瞬だけサガの表情も緩んだが、すぐにまた表情を固めて

「アイオロス……」

さっきまでより幾分強く、アイオロスの名を呼んだ。

「ん?」

アイオロスが無邪気な返事を返す。

「その、それでも私は私なりに色々考えたんだ。それで、その……」

この時、サガの心臓は今にも飛び出しそうなくらい、バクバクと高鳴っていた。そう、その音が目の前のアイオロスに届いてしまうのではないかと思うくらい、強く、大きく。

「君の……望みを……叶えたい、と思って……」

その心臓の音で、自分の発している言葉がサガにはちゃんと聞き取れていなかった。

「オレの望み?」

アイオロスが、また不思議そうに小首を傾げる。

「そう、君が……私に、望んでいることを……」

サガは懸命に震える声を絞りだした。

アイオロスがもうずっと前からそれを望んでいることを、サガは知っていた。もちろんアイオロスがそれを口に出したことは一度もなかったし、あからさまにそれを表に出したこともなかったが、サガはアイオロスのちょっとした態度や目の動き、仕草から、敏感にアイオロスの内心を読み取っていたのだ。だがそれに気づいていながらサガは、ここまで素知らぬ振りを決め込んできた。怖いからとか、恥ずかしいからとか、そう言う感情からではない。いずれはそうなることはわかっていたし、友達の垣根を越えた以上、当然のことと思ってもいる。それでも何かきっかけが欲しかった。下らない拘りかも知れなかったが、サガにはどうしても必要なことだった。

そしてサガは、ようやくそのきっかけを見つけた。自分で言いだすのはそれなりの勇気が必要だったが、今を逃したらきっとまた踏ん切りをつけられぬままズルズルと行ってしまうに違いない。そう決意をして、サガは今日ここを訪れていたのだ。

アイオロスが黙ったまま自分を凝視しているのに耐え兼ねて、サガはアイオロスから視線を逸らした。サガの心臓は相変わらず大きな音を立てていて、血液が物凄い速度で体中を駆け巡っていた。何でもいいから、早く何かを言って欲しかった。1秒が1時間にも思えるような沈黙の時間が、サガにはとてつもなく重く感じられた。

「……だから……」

どれくらい時間が経ったか……いや、おそらくは数十秒程度であろうが、やっとアイオロスが口を開いた。

「もう……望みは叶えてもらったけど?」

だが、その後に続いた言葉に、サガは弾かれたように視線をアイオロスに戻した。

「えっ?」

「いや、だから……望みはもう叶えてもらったよ。こうしてサガが来てくれたことで、充分だって……」

きょとんとしながらも、ぎこちない笑顔を作るアイオロスを見た瞬間、サガの脳内で何かが弾け飛んだ。

「バカッ!!そう言う意味じゃないっ!!」

直後、サガは顔を真っ赤にしながら声を張り上げて、ガバッとソファから立ち上がった。

「へ?」

いきなりのサガの変貌に、アイオロスは目を丸くして固まった。

「そうじゃなくて……だから、そう言う意味じゃなくてっ……」

アイオロスを睨みつけながらサガが懸命にそれを訴えようとするが、そうしようとすればする程、理路整然とした思考が失われ、意味をなさない言葉ばかりが口から飛びだす。

「アイオロスのバカッ!、鈍感!、大ボケ!、大マヌケ!!」

遂に逆切れしたサガは、溢れる感情のままにアイオロスを怒鳴った。サガが声を荒げてこんなこと罵詈雑言を言うのは非常に珍しいことで、アイオロスはその迫力に押されて思わずソファの上で後ずさりした。この期に及んでもまだ、アイオロスはサガの言葉の意味を正確には理解していなかったのである。

確かにアイオロスには、そう言う部分でかなり鈍感なところがあるのも事実だった。それはサガ自身が一番良く知っていたことではあったが、こんな時くらいはちゃんと言葉の裏にある本当の意味を察してくれてもよさそうなものだ。自分がこれをアイオロスに告げるのに、どれだけ悩んで葛藤して、そして勇気を振り絞ったか、ちっともわかってない!。その思いがいきなり怒りに転化して、サガは大爆発したのだった。

「サ、サガ……」

アイオロスが情けない声をあげたのは、サガの瞳に涙が浮かんでいたからだろう。言葉として噴出しきれない感情が、液体化してサガの瞳を濡らしていたのである。サガは自分が目に涙を溜めていることになど、気付いてもいなかったが。

「人の気も知らないで、アイオロスの大ボケッ!!。わかったよ、それならもういい!」

サガはアイオロスにヤケっぱちの捨て台詞を吐くと、踵を返して駆け出した。サガ自身、もちろん手前勝手なことを言っているのはわかっていたし、本来自分が怒る筋合いのものでもないことを、理性ではちゃんと理解していた。でも感情がそれについていかなかったのである

「サ、サガッ、待って!!」

アイオロスは大慌てでサガを追いかけ、リビングを飛びだす寸前でサガを捕まえた。

「離せよ!。もうアイオロスのことなんかっ……」

「ゴメン!!」

捉まれた手を振りほどこうともがくサガを離すまいと、アイオロスは自分の手に更に力を込めながら、大きな声でサガに謝った。

「ゴメン、サガ……。すぐにお前の言ってることがわかんなくて……。その、やっと今……わかった」

ようやく、ようやくアイオロスは、サガの真意を察した。だがアイオロスもまた、それをどう言葉にしたらいいかわからなくて、辿々しく謝りながらこう言うのが精一杯だった。

その瞬間、暴れていたサガがピタリとおとなしくなり、軽く目を瞠りながらアイオロスを見返した。怒気をたたえていたサガの瞳から、急激にその色が褪せていくのがアイオロスにもわかった。

「ごめん、すぐにお前の気持ち察してやれなくて……。その、オレ……鈍感でさ……」

恐らくは一大決心をして来たのであろうサガの、その気持ちをすぐに察してやれなかった自分が情けなくて、アイオロスは懸命にサガに謝った。プライドの高いサガが、ここまで決意をするのにどれだけ自身の中で葛藤したのか、想像に難くない。それでもサガはアイオロスのために、アイオロスの望みを叶えるためにその決意をしてくれたのだ。

もう随分前から、アイオロスはサガの全てを欲していた。それでもそれを押し込んで無理にサガを求めようとしなかったのは、ただただ怖かったから。

ただの友達という関係はとっくに越えたけれど、それでもやっぱり怖かった。サガを傷つけてしまうかも知れない、それによって今の関係が壊れてしまうかも知れない……その恐れが、アイオロスの言動を躊躇わせる原因となっていたのだ。

だがサガは、そんなアイオロスの気持ちに気付いてくれていたのだ。そしてそれに、その気持ちに応えようとしてくれていたのに、何故すぐにそれをわかってやれなかったのか。

「アイオロス……」

「ごめん……」

その言葉を繰り返しながら、アイオロスはサガを見つめる目を愛おしげに細める。

「いや……君が謝ることじゃない。私の方がどうかしていたんだ、ごめん……」

やっと冷静な思考を取り戻したサガが、静かな口調でアイオロスに詫びる。アイオロスが謝ることなどない。サガにだってそれはよくわかっていた。感情にブレーキをかけられぬまま、暴走してしまった自分の方が未熟だったのだから。そう改めて思い直し、サガは自分の失態に赤面した。

「君の誕生日を祝うつもりで来たのに、とんだ醜態を晒してしまったな。すまない、アイオロス」

もう一度サガはアイオロスに詫びると、小さな笑みを唇の端に浮かべた。それは思いもかけずに感情を暴発させてしまった自分への、自嘲であるようにもアイオロスには見えた。

アイオロスは首を左右に振ると、サガの両肩を掴んで自分に正対させる。そして真正面から、自分より数センチ下にあるサガの瞳を、真っ直ぐに見据えた。

「でもサガ……本当に、いいの……?」

サガの真意は理解した。だがそれと同時に今度はありとあらゆる感情がアイオロスの中に生まれ、それが胸の中で入り交じって、言葉にできない複雑なものへと変化していた。

サガの気持ちが素直に嬉しいとも思うし、同時に夢ではないかと言う思いもある。また、やはりサガに無理をさせてるのではないかと言う心配が拭いきれずにもいたし、傷つけてしまうのではないかと言う怖さもあった。それにやはり、いざとなるとどうしていいのか、どうすべきかがわからない部分もある。ただ闇雲に、自分の欲望と感情を押し付けるわけには行かないのだ。

それでもやはり、サガを求める気持ちは強かった。自分の全身がサガの全身を求めている。それは嘘偽りのない、紛れもない事実だった。

「君が……そう望んでくれるなら……」

今度は羞恥に頬を朱に染め、サガは一生懸命笑顔を作ってアイオロスに応えた。両肩に置かれたアイオロスの手が、緊張からか僅かに震えているのがわかる。そしてアイオロスもまた、サガの体が小刻みに震えていることをその手で直に感じ取っていた。

アイオロスは震える手でゆっくりゆっくりサガの体を引き寄せ、その身をしっかりと抱き締めた。サガはピクリ、と身を震わせた直後に、おずおずとアイオロスの背に手を回し、しっかりとした意志の力でアイオロスの身を抱き返した。


Go to NextPage>>