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この日、教皇宮の夜勤番であるアフロディーテは、定時の10分前に教皇宮へ出勤した。 執務室に入ると、アフロディーテと交代予定の日勤番のカノンが、本日最後の業務であろう日報を書いているところだった。 「よう」 カノンは日報を書く手を止めて、入ってきたアフロディーテの方へ視線を向け、短く挨拶をした。 「やぁ、お疲れさまカノン」 応じて労いの言葉を返しながら、アフロディーテはカノンの側へ歩を進めた。 「定時ピッタリに上がれそうかい?」 「ああ、バッチリ。定時ジャストで上がれるぜ」 再び日報にペンを走らせながら、カノンは脇に立ったアフロディーテをチラリと横目で見上げて、歯切れよく即答した。 「そう、それならよかった」 「……何が?」 「いや、外にね、君の愛猫が待ってるからさ。あんまり待たせたら、可哀相だと思ってね」 アフロディーテが言うなり、カノンの手がピタリと止まり、表情が困ったような呆れたような何とも言えぬそれへと一変した。そして眉間には、くっきりとした縦皺が刻まれている。 愛猫というのは言葉通りの意味ではなく、アフロディーテの比喩なのだが、それが誰を指しているのかなどと今更問い返すまでもなくカノンにはわかっていた。 その余りに顕著なカノンの表情の変化に、アフロディーテは堪えきれずにプッと吹き出した。 「何しに来たんだ、あのバカは……」 「何しにって、君を迎えに来たに決まってるだろう」 あっさりとアフロディーテに即答されたカノンは、思わず机に肘をついてズシッと重くなった頭を支えた。 「ったく、誰も迎えに来いなんて言ってやしないのに……一体、いつからいやがるんだ」 「ん? たった今来たばかりだよ」 独り言を呟いたつもりがアフロディーテに返答され、今度はカノンは目を丸めた。 「……何でお前がそんなこと知ってるんだよ?」 訝しげにカノンが聞き返すと、アフロディーテは形の良い唇の端を意地悪っぽく歪め 「双魚宮で拾って、一緒に来たからだよ」 と言いながら、軽やかな笑い声を立てた。 それはつい10分ほど前の話である。 「アフロディーテっ!」 仕事に行くべく私室を出たところで、アフロディーテは明るく元気な声に呼び止められた。 「ミロ」 声のした方へと向き直ると、後輩のミロがニコニコと屈託の無い笑顔を浮べて、手を振りながらアフロディーテに近づいてくる。 その姿に、アフロディーテの顔にも自然と微笑みが浮かんだ。 「これから仕事か?」 あっという間にアフロディーテの隣に来たミロは、笑顔を絶やすことなくアフロディーテにそう問い掛けた。 「ああ。お前は? どこに行くんだ?」 「オレ? オレも教皇宮へ行くとこ」 「教皇宮? 何しに?」 そう聞き返しながら、アフロディーテはざっとミロの全身に視線を走らせた。 Tシャツにジーンズという、いつも通りの軽装をしているところを見ると、仕事でないことは明白である。 「カノンを迎えに行くんだ」 「カノン?」 「そう。カノン、今日は日勤番なんだよね」 「ああ、そう言えばそうだったな」 これから自分が交代する相手がカノンであったことを思い出し、アフロディーテは小さく頷いた。 「それでわざわざ迎えに行くのか?」 「わざわざってわけでもないけど、まぁ……」 少し照れ臭そうに小首を傾げてから、ミロは曖昧な口調でそれを認めた。 「相変わらず仲がいいんだな」 アフロディーテはミロに口に出してはそう言ったが、内心では『相変わらず尻に敷かれているんだな』と思っていた。 だが無論ミロはアフロディーテの本心の呟きに気付くことはなく、嬉しそうに笑みを深めると、不意にアフロディーテに体を寄せて、 「目的地同じなんだし、一緒に行こうぜ」 と、甘えるような仕草で、アフロディーテの腕に自分の腕を絡ませた。 ちょっとびっくりしたように美しい瞳を瞠ったアフロディーテだったが、こんな風にミロに甘えられるのは、久しぶりではあったが初めてではなかった。 黄金聖闘士候補生だった当時、年少の候補生達の面倒を見ることは年長者の暗黙の了解であり、また義務であった。 特に明確に役割分担をしていたわけではなかったが、アフロディーテは何となくミロ担当になっており、ミロもサガとアイオロスの次くらいにアフロディーテに懐いていたせいもあって、昔は何くれとなくミロの面倒を見て可愛がっていたのだった。 その時のことを思い出し、アフロディーテは今や自分よりも大きくなってしまったミロを僅かに目線を上げて見上げながら、懐かしそうに瞳を細めた。 図体は大きくなっても、天真爛漫なところはちっとも変わらない。そんなミロを見ていると、アフロディーテの胸の中にも、ほんわりと暖かな感情が広がるのだ。 「ったく、しょうがないな」 と言いつつも、アフロディーテは悪い気がするどころか、満更でもない気分になっていた。 ミロの柔らかな猫毛をくしゃっと一撫ですると、アフロディーテはミロと腕を組んだ状態のまま、共に教皇宮へと足を向けたのだった。 「と、いうわけで一緒に来たんだけどね。この格好で中に入ったらマズイからって、そのまま外でおとなしく待ってるよ」 アフロディーテの話が終わると、カノンはあからさまに大きな溜息を吐きだした。 心の奥底ではどう思ってるのかは知らないが、少なくともそんなカノンの言動を見る限り、喜んでいるというよりは明らかにうんざりしている様子が見て取れる。 カノンの場合、照れ隠しであろうか人前ではことさらミロに対して素っ気無い態度をとることが多いが、いつものそれとも微妙に異なる雰囲気を感じ、探りを入れる意味も含めてアフロディーテは更に言葉を繋げた。 「ここのところ、君の勤務の日には必ず迎えに来てるんだって? 忠実な愛猫だね、可愛いじゃないか」 「な・に・が忠実で可愛い愛猫だよ……」 はぁ〜……と、カノンはまたまた大きく溜息をついた。 「一体どうしたんだい? 喧嘩したようには見えないけど、どうやら君には君の言い分がありそうだね」 アフロディーテはカノンが仕事をしている執務机の端っこに腰を凭せかけて、促すようにカノンの顔を覗き込んだ。 「言い分つーか、何つーか……」 「ミロの愛情表現が重荷なのかい? それともミロに飽きたとか、実は新しい愛人作っちゃってるとか……」 「……あのな、人がまだ何も答えてないうちから、とんでもなく明後日の方向へ思考を進めないでくれ」 今までとは別の意味で脱力感を覚え、カノンはまたこめかみを押さえた。 「じゃ、そういうことではない?」 「後ろ二つは完全否定だ」 「そうか、それならよかったよ。肯定されようものなら、君の胸に問答無用でブラッディローズを撃ち込んでるところだった」 物騒なことを言ってアフロディーテは笑ったが、目は笑っておらず、冗談めかしてはいても本気だったのであろうことがあっさりと見て取れ、カノンは背筋に薄ら寒いものを感じた。 「てことは、前の一つが正解か?」 「正解とは言えないけど、まぁ、当たらずしも遠からず……ではあるかな」 肯定は出来ないが否定もしきれないという、何とも曖昧な答えをカノンは返した。 「愛情表現がストレートすぎて、ついていけない?」 「そういうわけでもないんだけど……」 「そういうわけじゃないなら、どういうわけなんだい?」 ニコニコと意地悪く微笑みながら、アフロディーテは更にその先を促した。 何か前にも似たようなことあったなぁ? などとこの状況に既視感を覚えつつ、下手なごまかしはできないような空気を察して、カノンは重い口を開いた。 「事の発端は夢だ」 「夢?」 「そう。ミロが見た夢」 アフロディーテは怪訝な表情を顕にして、小首を傾げた。 「十日……いや、もう二週間は経つかな。あんにゃろう、真夜中にいきなり双児宮の、オレの部屋に飛び込んできやがったんだよ。で、人を叩き起こしやがってさ」 「……君とエッチする夢でも見たのか? ミロは」 それでいいところで目が覚めてしまい、それならばと本物のところに夜這いをかけたのだろうか? とアフロディーテは本気で思った。 「そうじゃねぇ! 話は最後まで聞け、バカ! つまりだな、ミロのヤツが夢を見たんだよ」 「だからそのミロが見た夢ってのが、何なんだって聞いてるんだろう」 そう、肝心なその内容を言ってくれなければわからないではないか。 アフロディーテが聞くと、カノンは上目遣いでアフロディーテを見て 「……オレと別れる夢だと」 「はぁ!?」 「オレと別れる夢を見たんだってよ。正確に言うと、オレに『別れてくれ』って言われる夢だって」 そこまで言って、カノンはまたまた溜息をついた。 「………はぁ………」 どうリアクションをしていいかわからず、アフロディーテは間抜けな声をあげた。 「それで血相変えて双児宮にすっ飛んできたらしいんだけど、夜中の三時だぞ、夜中の三時! しかも飛び込んできてからしばらくはさ……その、何だ……あ〜……」 「君に抱きついて……というより、しがみついて離れなかった?」 カノンが超不自然に言葉を濁したが、アフロディーテはカノンの言わんとしていることを正確に察して、くすっと笑いながら聞き返した。 ある一部分に関してのみ言えば、今でもアフロディーテの方がカノンよりもミロの性格やら性質を知り尽くしている。 カノンの性格や気質もわかり始めた昨今、この程度の察しをつけるのは、アフロディーテにとっては朝飯前のことであった。 「……まぁ、そういうことだ」 案の定、カノンは短く早口でそれを肯定したが、そこを更につっこまれることを恐れたか、すぐに言葉を繋いだ。 「でもってそのまましばらく何も言わないんだぜ、アイツ。こっちは気持ち良く寝てるとこ叩き起こされて気分悪いし、何より眠いし、頭に来て叱りつけたらようやく理由を話したんだけどな。それを聞いたら聞いたでもう……唖然とするしかなくてよ」 またまたまた溜息をカノンの顔を、アフロディーテはしばしじ〜っと凝視した後、いきなり吹き出して文字通り腹を抱えて笑いだした。 「笑うな!」 「ごめん、ごめん、つい……」 これが笑わずにいられるかと思ったが、カノンが真剣にムッとしているのでアフロディーテはひとまずカノンに謝った。 笑いながらなので全く真剣味はなく、目の端にうっすらと笑い涙さえ浮べんでいたが。 「まぁ何だ、真夜中に叩き起こされたのは君も災難だったけど、でも何かミロらしいっていうか、やっぱり可愛いじゃないか」 カノンに鋭い眼光で睨まれたので、アフロディーテは何とか笑いを押さえ込み、指先で笑い涙を拭うと、再び吹き出さないように気をつけながらミロをフォローするようにそう言った。 「何が可愛いんだよ? どこが可愛いんだよ? 他人事だと思って無責任に……」 他人事だと思って、などと文句を言われても、実際他人事なんだから仕方がない。 ――とは思ったが、とりあえずアフロディーテは、ここは沈黙で節度を守った。 「それじゃミロは自分で見たその夢で不安に駆られて、以来君から離れたがらなくなってるってわけ?」 「簡潔に言うと、そういうことだ」 気怠そうに頬杖をついて、カノンはもう何度目だかわからない溜息をついた。 「勝手に見た夢で勝手にパニクるのは構わんが、オレを巻込むなっつの。いい迷惑だよ、本当に」 「そう言ってやるなよ。夢の中で君がミロに別れを告げたのが原因なんだから、あながち無関係とも言えないだろう」 「アイツがオレに断りもなく、勝手に夢の中に出演させただけだろ。んなことにまで、責任持てるか!」 「ミロはそれだけ君のことが好きなんだ、仕方ないだろう。それなのにそんな縁起でもない夢を見たんじゃ、そりゃ不安にもなるさ。別に片時も離れないっていうんじゃないんだから、それぐらいは大目に見てやれよ」 時間と状況が許せば、片時も離れないだろうけどな、と、アフロディーテは心の中でだけ自己ツッコミをいれた。 そんなアフロディーテの言葉に、カノンは嫌そうに眉を顰めた。 「とことん無責任に言ってくれるよな、外野は。少しはお守りしているこっちの身にもなれよ!」 「その言い草……はは〜ん、さてはサガにも同じようなこと言われたな?」 アフロディーテが問うたが、カノンはむすっとして何も答えなかった。 それは即ち、アフロディーテの問いがそのまま正解を言い当てたということである。 カノンの兄であるサガは、昔からミロには甘い。それはアフロディーテ自身、ずっと目の当たりにしてきてよく知っている。そのサガがこのことを知ったらどんな反応を示すか、そしてどちらの味方につくかなど、考えるまでもなくわかる簡単な答えだった。 「ま、サガならそういうだろうけどね。それにしても……」 アフロディーテはまたちょこっと小首を傾げてから、言葉を繋いだ。 「確かに夢見は悪かったかも知れないけど、でもそこまで不安に駆られて神経質になるなんて、確かにちょっとおかしいな。夢の中で相当こっぴどく君に振られたのか? ミロは」 「そんなことまでは知らんが、オレだって散々言ったんだよ。そんな夢見たくらいでいちいちうろたえてたら身が持たないだろうって。たかが夢なんだから忘れちまえってさ。それで一度は落ち着いたのに……」 「落ち着いたのに、また何かあったのか?」 「ああ。アイオロスのおかげでな」 「アイオロス?」 アフロディーテは不思議そうに、薄い水色の瞳を瞬かせた。 「あいつの目の前で話してたオレも迂闊だったんだが、あんにゃろう、ミロに向かって『お前は見た夢を現実にする力を持ってるみたいだから、気をつけろよ』なんて余計なこと言いやがったんだ。やっと落ち着いたとこだったのに、台無しにしやがって、あのバカ」 「夢を現実にする力?」 アイオロスの言っていることの意味がすぐにはわからず、アフロディーテは考え込んだが 「もしかしてそれって、ミロの寝惚け癖のことか?」 数十秒ほどしてからふと一つのことに思い当たって、それをカノンに聞いてみた。 カノンは黙って頷いた。 「ミロの奴、まだあの癖残ってたのか?」 「みたいだな。この前やられたから」 そう頻繁にあることではもちろんなく、この二十年間でそれこそ数える程度しかなかったことなので、癖と言い切ってしまうには微妙な面もあるのだが、ミロにはリアルな夢見るとそれをを現実と錯覚してしまうことがあった。 アフロディーテも子供の頃に二〜三度そういうことがあったことを知っているし、カノンに至ってはつい先日、身をもってそれを知ったばかりだった。 ミロ本人は未だに自分にそんな変な癖のようなものがあることを知らないが、昔からミロのそれが発動するたびに何かと煽りを食ってきていたアイオロスには、色々思うところがあったらしい。 冗談と意地悪と皮肉とをブレンドさせた意味深な物言いでミロをからかったりしたものだから、鎮静しかけていたミロの不安が再び膨れ上がり、結果、今日のような事態と相成ってしまったのである。 アイオロス的には当然悪気はなく、単にからかっただけのつもりだっただろうから、こんなことになるとは思っていなかったと思うが、結局その尻拭いというか埋め合わせというかフォローをしなければならないのは他の誰でもない、カノンなのだ。 余計なこと言いやがってとカノンがアイオロスに怒りを覚えるのも、あながち見当違いではないとも言える。 「そうか、そういうことだったのか。まぁそれは君もお気の毒ではあったと思うけど……」 とりあえず事の次第を知ったアフロディーテは、明らかに含みを持たせた笑みを満面に浮かべていた。 それに気付いたカノンはますます憮然となったが、アフロディーテはそんなカノンの様子など気にも止めなかった。 「でもミロが君にベッタリなのは、プライベートの時間だけだろう。仕事の邪魔をしてるわけでもなし、他人に迷惑をかけてるわけでもなし、そう邪険にしなくてもいいじゃないか。ま、君の場合、邪険にしてるというよりは、照れてるだけって感じはするけどね」 こうやって文句を垂れてはいるが、結局はミロの好きなようにさせているのだから、口で言うほどカノンがミロの言動を嫌がっているわけではないことは明らかであった。 無論、歓迎しているわけでも手放しで喜んでいるわけでもないだろうが、本気の本気で嫌がっているのなら、そもそもミロに好き勝手なことはさせてないだろう。 つまり、実のところカノンとても満更でもない思いがあるに違いないのだ。 「ふん」 カノンは面白くなさそうに仏頂面を強くして、プイッとアフロディーテから顔を背けた。 事情を話してしまったことを後悔しているような表情がその横顔から見て取れたが、直後、今度はハッとしたようにカノンの表情が動いたのをアフロディーテは見逃さなかった。 カノンの視線の方向を追ってアフロディーテも視線を転ずると、その先にあったのは時計であった。時刻は五時を既に十分近く回っている。 アフロディーテは思わず、唇の両端を持ち上げた。 「もう君の仕事の時間は終わったね。日報も書き終わっているんだろう?」 「ああ、まぁ……」 「オッケー、それじゃ交代するよ。お疲れさま。早く上がって、ミロのところに行ってあげなきゃな」 あからさまにからかって、アフロディーテは笑った。 「うるせえな」 アフロディーテを睨みながら、カノンは苛立ちも顕に大きな音を立てて椅子を引き、立ち上がった。 そして日報と閉じると、それをぐいっとアフロディーテの胸に押し付けて、表面上は不機嫌なままアフロディーテの前を擦り抜けた。 カノンは何も言わなかったが、つまりは上がるということである。 アフロディーテは肩を竦めると、押し付けられた日報を開いた。特に連絡事項は記載されておらず、どうやら今日は平穏無事に一日が終わったようだ。 「カノン」 カノンが執務室のドアノブに手をかけたところで、アフロディーテがカノンを呼び止めた。 「何だ?」 カノンは面倒臭そうに、アフロディーテの方へ軽く振り返った。 「ミロのこと、責任持ってちゃんと大事にしてくれよ。あの子はサガと私が、可愛がって大切に育ててきたんだからな」 突然全く予想もしていなかったことを言われ、カノンは大きく目を瞠った後に、それをぱちくりと瞬かせた。 アフロディーテは飄々として微笑を湛えたまま、唖然としているカノンを見返している。 冗談なのか本気なのかその様子からは見当もつかず、カノンはアフロディーテの真意を測りかねたが、いずれにしてもカノンが言い返せることは一つしかなかった。 「バァ〜カ。十三年も放っぽらかしておいて、大切に育ててきたなんて大口叩けた義理じゃないだろ。それに、アイツがあんなに甘ったれになったのは、ガキの頃サガとお前が猫っ可愛がりして甘やかし放題にしてたせいだろうが。そのせいで今オレが苦労する羽目になってんだ。こっちがお前達に責任取って欲しいくらいだぜ」 皮肉たっぷりに言った後、カノンはやや乱暴に扉を開けて執務室を出ていった。 カノンが居なくなった執務室で、アフロディーテが一人くすくすと笑いを溢していたことを、無論カノンは知る由もない。 |