◆ 大切な人、特別な誕生日

「ねぇサガ、今度のアイオロス兄さんの誕生日には何をプレゼントしたらいいと思う?」

アイオリアが周りを気にしながらこそっとサガにそんな相談を持ちかけてきたのは、彼自身が7歳の誕生日を迎えた当日の夜のことであった。
ささやかな誕生祝いの宴の後、アイオリアは片付けをしていたサガの元に駆け寄り、やや唐突に三ヶ月後の兄の誕生日に何をプレゼントすればいいのかと、そのアドバイスをサガに求めたのだ。

「アイオロスへの誕生日プレゼント?」

声のトーンを落として聞き返すと、アイオリアは全身で大きく頷きを返した。
両手の中にアイオロスからもらったばかりの誕生日プレゼントを大事そうに抱え、汚れのない瞳で真っ直ぐに自分を見つめてそう問いかけてくるアイオリアに、サガは思わず相好を崩した。

「サガは何をあげたら兄さんが喜ぶと思う? オレね、兄さんが一番喜ぶ物をプレゼントしたいんだ。その為にずっとお小遣いも貯めてるんだよ」

一生懸命訴えるように問いかけてくるアイオリアに、サガは「そうだね……」と応じながら身を跼め、アイオリアに目線を合わせると、

「アイオリアが獅子座の黄金聖衣を纏った姿を見せてあげること、かな」

そう言って優しく微笑んでみせる。

「獅子座の黄金聖衣を纏った姿?」

アイオリアは大きな緑色の瞳を瞬かせ、「そんなことでいいの?」と三たびサガに問いかけた。

サガは笑顔で頷き、

「お金で買える『物』を贈るばかりがプレゼントというわけではないんだよ。相手が一番望んでいること、喜んでくれることを贈るのも立派なプレゼントだ。そしてアイオロスが今一番望んでいること、彼が一番喜ぶこと、それはねアイオリア、君が一日も早く黄金聖闘士になって、獅子座の黄金聖衣をその身に纏うことなんだよ。だからアイオロスの誕生日までに、その願いを叶えてあげるといい。きっと、何よりも一番それが嬉しいプレゼントになるはずだから」

ね、とサガはアイオリアの柔らかな巻き毛を優しく撫でた。
アイオリアの表情が喜色を帯びてパァッと明るくなり、

「うん、わかったよ。オレ、兄さんの誕生日までに、必ず獅子座の黄金聖闘士になって黄金聖衣を賜ってみせる。そしてその姿をアイオロス兄さんに見せるよ。ありがとう、サガ!」

アイオリアは嬉しそうにサガに飛びつき、サガはそのアイオリアの小さな身体をしっかりと受け止め、そして抱きしめた。



それから一月を待たずして、アイオリアは教皇より黄金聖衣を下賜され、正式に獅子座の黄金聖闘士となった。
獅子座の黄金聖衣を纏った弟の姿を見たアイオロスは、その成長を心から喜び、今まで見せたことのないような笑顔を浮かべてアイオリアを祝福してくれた。
少し時期は早かったが、サガの言った通り最高の誕生日プレゼントとなったことだけは間違いない。
だが兄弟で喜びを分かち合ったのも束の間、アイオロスは降臨したばかりの女神を殺害しようとした逆賊として聖域を追われ、山羊座のシュラの手にかかりその命を落とし、間近に迫っていた15歳の誕生日を迎えることはできなかった。

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