「なぁ、アイオロス」 「今度は何だ?」 度重なる星矢の呼びかけに、少々疲れたようにアイオロスが返事を返す。 「今度アイオロスにもしものことがあったら……」 「はぁ?!」 アイオロスは何度目かの星矢の突拍子もない言葉に、大きく目を見開いて素っ頓狂な声を張り上げた。 「うん、だからね、今度アイオロスの身にもしものことがあったら、オレが射手座の聖衣も、サガのこともしっかりと引き受けるから、後のことは心配しなくていいからね」 「はぁ〜〜〜?!」 眉間をきつく寄せ、アイオロスは続けて部屋中に響き渡るような声を張り上げた。 「オレが射手座をしっかり引き継いで、そして一生サガのことを守るから!」 星矢は、そう高らかに宣言をした。 アイオロスは呆気にとられてしばし目と口とをOの字に開けたまま、意気込む星矢の顔を凝視していたが、やがて 「あのなお前、私はまだ生き返って数ヶ月しか経ってないんだぞ。縁起でもないこと言うなよ」 と、疲れたように大きな溜息をついた。 「だからもしもの話だよ、もしもの話」 「それが縁起でもないって言っとるんだ、バカもん!。第一、射手座はともかく、何でサガのことをお前に託さなきゃいかんのだ!。冗談じゃない」 「だってアイオロスはサガのことも一生守るつもりなんだろう?」 「当たり前だ!」 「だったら、オレもアイオロスの跡を継ぐ者として、サガのこと守る。サガをお嫁さんにして一生守り続けるから!約束する!!」 「どあほうっ!。私達聖闘士が守らなきゃいけないのは女神だろう!」 「だってアイオロスがサガを一生守るって言ったんじゃないか!」 「それとこれとは話は別!。お前は女神を守ってさえいればいいの!。第一サガを嫁さんにするって、お前とサガ、歳いくつ違うと思ってんだ、いくつ!」 「15!」 「そんなに歳離れてて、サガを嫁さんになんてできるわけないだろう!。常識で考えろ、常識で」 「歳の差なんて関係ないよ。ミロとカノンだって、8歳も歳離れてるけど平気じゃん!」 「超どあほうっ!お前とサガは、その倍近く離れてるだろうが!」 アイオロスに叱り飛ばされ、星矢は頬を膨らませてムクれた。 「ったくお前は、いつも突拍子もなくとんでもないことを言いだすんだからな」 「だってさ、この先だって何があるかわからないじゃん。もしまたアイオロスに万一のことがあったらサガが可哀相だし、アイオロスだって心配だろう。だから予め後顧の憂いをなくしておいてやろうと思ってさ」 「バ〜カ、それが余計なお世話なんだよ!。射手座はどのみちお前に継いでもらわにゃしょうがないが、私はサガのことをお前に頼む気など、これっぽっちもないぞ」 星矢だけではない、自分以外の人間にサガを託す気など、アイオロスには毛頭無いのだ。 「またアイオロスがいなくなって、サガが独りぼっちになっちゃったりしたら可哀相じゃんか。だからオレ……」 「だから縁起でもない例え話はやめろってのに……」 アイオロスはまたまた大きな溜息をついたが、星矢はそのことを本気で心配しているらしく、心なしか瞳を潤ませてすらいる。 サガが星矢にうるうるされるのに弱いように、アイオロスもまた、星矢のうるうるには弱かった。 「あのな星矢、お前が私とサガのことを心配してくれるのはありがたいんだが、その心配はいらん。私達はな、シオン様と老師様のように、これから先二百年くらい、ずっと仲良く手を取りあって生きていくつもりだ。サガを悲しませたりなんかしないよ」 人間離れした返答を平気で返しながら、アイオロスは星矢の頭を撫でた。 「でもさ、確かにアイオロスもサガも、今の教皇や老師みたいに二百年くらいは生きられるかも知れないけど、絶対に不死ではいられないんだよ。アイオロスはサガを遺して先にいかないって、保証できる?」 「保証云々言われると困るが、私はもう二度とサガを遺してなど逝かないつもりだ。いや絶対に逝かない。それは固く心に誓ってる」 「じゃあ今度はアイオロスがサガの後に残るの?」 御年28歳、生き返って人生これからというときに、何故人生の終焉の話を真面目にせにゃいかんのだと思いつつ、アイオロスは律義にそれに答えた。 「いや、本音を言えばそれはもっと勘弁だ。絶対に嫌だ」 「じゃあどうするのさ?」 どうするのさと問われても……とは思ったが、これにもアイオロスはバカ正直に答えた。 「その時も一緒だ」 「は?」 「だから、冥府へ旅立つときも私とサガは一緒だ。私もサガも、お互い絶対先にはいかない、後にも残らない」 「はぁ……」 一瞬冗談かと思った星矢だったが、どうやらアイオロスは本気の本気でそれを言っているらしかった。 「サガにはもう絶対に悲しい思いはさせないし、私もサガを一時でも失いたくはない。だから終焉も必ず一緒に迎えるんだ」 「………………」 それってもしかして心中っていうんじゃ……と喉まで出かかった言葉を、星矢は懸命に飲み込んだ。 「だからサガのことは心配しなくていいぞ。お前は一人前の射手座の聖闘士になることだけ、考えてくれればいいからな」 「う……うん……」 アイオロスは星矢の髪をわしゃわしゃ撫でながら爽やかに笑ったが、ここは素直に安心しておくべきなのか、それとも逆にもっと心配せねばならないのか、余計真剣に悩まねばいけなくなった星矢であった。 |
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